始めよう、スローライフ!
準備回。
まずはこの世界のおさらいから。この世界は魔物という生物が行き交っているけど、原則として人も魔物の一種だ。魔物とは区別されてるけどね。そもそも魔物は悪いものを指さない。悪いものはデーモンやデビルの名を冠していて、復讐心や強欲や恨みのみならず執着などにとらわれた心に魔力が反応して生まれた邪悪な力、瘴気が膨らみ理性を失った存在だ。ちなみに悪意の塊の思念そのものが魔力により生物に変わってしまったものは悪魔と言う。
悪魔と魔人はまったく別物なのだが、獣の角を持っていたりするために一時同列と捉えられて戦争を起こしかかった。裏には悪魔がいて、主神フォシノーさまの配下となった勇者が誤解を解いて回ったらしい。お疲れ様である。フォシノーさまの能力なら一瞬なんだけど、とにかく魔人は人間の敵ではないしなんなら魔物さえただの動植物でしかないということを歴史として刻んでいきたかったらしい。
確かにここに神の力を使ってしまうと世界がすごいいびつになるよね。怪しかろうが実際に悪かろうが敵じゃないって信じ込んでいる状態になるわけで。人間に殺人者がいるように魔人や魔獣にもいる。種族全体を憎むようないさかいも起こりえる。なのに喧嘩もしない。
いびつだわ。そんな世界が必要なら別から持ってきて作ればいい。そこに生命はいない。ロボットの群れと暮らした方が幸せな人もいるかもしれないけど、満たされることのない生き物なんて私は可哀想だと思う。お腹いっぱい、も、ぐっすり眠れた、も、愛に答えてもらえた、も、幸せだろう。そうじゃないことがあるから幸せにもなれる。不幸は人生のスパイスとまで言いきるほどは生きてないけどね。
まあそんなのはどうでもいいのだ、ということで、私は[今あるこの世界]の一員として世界を楽しもうと思う。悪人を許したりのさばらせたりは普通の人だって嫌だと思う。常識の範囲は心配だけど神の力を見せてやろう!
そうゆーわけで、まずは鍛えます。
「……武器は、剣がいいかな?」
ある程度はスキル[全一般知識]によりわかっている。剣の戦い方もだ。……正直戦場で有効なのは槍、弓、銃、爆弾などなんだよね……。スッゴいファンタジーっぽくないけども。でもまあダンジョンなら片手剣とかメイスも役に立つし(逆に爆弾とか使いづらそう)、ここは魔法の世界だから物理ダメージを飛ばしたりもできるし!
この世界の人にはレベルがあるらしい。私はその軛は外れているので鑑定されたら適当な女冒険者の数値が出るようだ。そこはナビさんが融通を利かせてくれる。
私としては剣士がいいんだけど……実は使ってみたい武器があるんだ。
「[創造]」
スキル創造を発動して、武器を作るよ!
現れたのは天上の青に輝く杖だ。水色に輝くそれは過度でない装飾の美しい杖だった。
え? 剣じゃないのかって? 杖が剣じゃないって誰が決めたの?
ナビさん、鑑定お願いします!
『[鑑定] 神の力により練り上げられた剣、二つをひとつとして捉えると杖になり、ひとつとして見れば剣となる、一説によれば世界を破滅にも導く神剣、銘はレーヴァテイン、間違いなく神の剣です。斬りたいものは邪心すら斬り、斬りたくないものは幼子の髪すらも斬れない、文字通り神の武器です』
私でも聞いたことがあるよレーヴァテイン。北欧神話の最強の剣と言われている一振りだ。余計なことを言えばレーヴァンテインとかは発音にN音が実際には入ってないから間違ってる、とかスルトが持っているのは炎の剣でレーヴァテインとは言われていない、とかいたずらの神さまロキが打った剣だとかいろいろとあるけど、私マユリとしては杖と剣の二つの顔を持つレーヴァテインは仕込み杖で決まり!
座頭市じゃなくてローグライクRPGの錆びない武器のイメージだけどね。ちなみに普通の仕込み杖は刺突向けな武器だけどそこは神の武器なので容赦なく斬れます。
「んふ~、やっぱり神の武器なら知恵ある武器じゃないとね。[創造]」
『マユリ様? 一人遊びが辛くなってきたんですね?』
「辛辣ぅ!」
私はレーヴァテインに人格と人化能力を付け加えた。やっぱり神器と言ったらのじゃろりかな? でも私、のじゃろりあんまり好きじゃないのでツンデレロリにしました。デレ分多めで。まあ一瞬のデレが好きな人やツンデレが苦手な人もいるのは認める。その方が面白いよね。
『せめて一回くらい剣として振るいなさいよ!』
「ああ、そりゃそうだね」
目覚めの一言がそれでいいのかな? やり直しを要求する!
『ま、まあそれもそうね。……我は神気により練り上げられた女神マユリの剣。世の邪悪を打ち破るため天地万有あらゆるものを斬り裂いてくれん!』
「よっ、かっこいい! 厨二! 私小卒だけど!」
レーヴァテインはすごく照れているがせっかくなので抜いてみることにした。性格は可愛いね。好みだわ。あ、私は神になったので性欲もないんだけどね。
そのまま抜こうとしても抜けなかった。そういえばハバキを少し押し出しておかないとダメなんだっけ。いわゆる「鯉口を切る」っていう作業をしないと、差している刀が普通に抜けたりするのを防いでるひっかかりがあるから抜きにくいらしい。刃の部分を宙に浮かせる意味もあるんだって。ちなみに一般知識かこれ、みたいなのも記憶に入ってる。例えば伝説の武術の師範代の一般的な知識なんてものが入ってる。そもそもナビさんは全知なので奥義まで引き出せるんだけどね。やらないよ。つまんないし。
必要に応じて専門知識もインストールできるけどなんかナビぺディアに頼りすぎるのも面白くないよね。普通に勉強しても神の記憶力とか発揮されてしまうけども。
まあ神なのでその動作なしでも抜けるんだけどカッコいいことはやってみたいよね!
ちゃきり、シャキーン!
「うわわぁ、すごいきれい……」
抜き出した剣は鞘と同じで刃までセレストブルーで、柄の意匠と違いシンプルでスマートな剣だった。斬りやすいようにかわずかに反りがあり、片刃の剣になっている。うひょー、カッコいい! 長さは刃渡り六十センチくらいかな?
剣の振り方の基礎はインストールされているので体を慣らすために何度か振ってみる。こういうの、いいよね。なにをしても成長しないとかつまらないじゃん。私は成長できる女神なのです!
「はっ!!」
しゅっ、と剣を横に振ってみる。イメージとしては五十メートルほど先の立ち木を一刀両断!
……バサリ……。うん、斬れたね……。いやあ、神の剣さすが。すごい。いや、威力どこまで高いのこれ?
『女神様が斬ろうと思うなら地球でも太陽でも斬るけど? あ、次元を斬るのはイメージを正確にしないと変な世界を引っ張り込んだりするからね。向こうの次元も普通に運営されてる空間だから、なにもない無限の空間で空間の裂け目を作りたいなら女神様があらかじめ用意してね』
まあ神なら停止同然の時間で考えられるらしいけど、うかつに行動してると災害が起こりかねないね。この世界そのものの設定がしっかりしている完全なる異世界なんだなぁ。しかし神、さすがに物理現象さえねじ曲げるんだなぁ。神気をまとえば人間にもできるけど。普通にまとえないんだけどね。使えるのは教皇とか聖女とか聖人以外なら剣神って呼ばれる人とか魔導王ならいけるはず。ちなみに主神さまに次ぐ神気持ちの私には効かないけど、不意打ちで斬られたりはするかも。いや、死なないし痛みさえないことにできるんだけどね。人には負けないらしい。超チートですね! 神チート!
「あと女神様呼びは寂しいからマユリって呼び捨てにしてね。私もレヴィって呼ぶから」
『も、もちろん神が望むならいいに決まってるじゃない!』
いいよー。私が好きなデレ強めのツンデレだよー。まあ彼女も長く生きたら個人の人格ができていくはずだ。ちなみに私以外には扱えない、盗まれても帰ってくる、普通の人にも人間の姿で接したり社会生活もできたりする。いつか一緒に学校に行ってほしいものだ。
それからいくつか準備していよいよこの世界を満喫することにした。
始めよう、スローライフ!
ちなみにレーヴァテイン、レヴィはツインテールロリで、髪とか目とか服装も全部セレストブルー。肌は白い。服はブカブカな装飾の多いコートだ。ゲーム的なやつ。
私も普通に寝間着だったのでゲームで無料ガチャで引いた[女神装備一式]に変えてみた。ナビさんが知っているので[創造]スキルと合わせて簡単に作れたよ。いやー、女神さまだねー。可愛いや。
ナビさんに私の姿を空中に3D映像で出してもらったんだけど、私の神ボディ、黒髪で黒目だけど元の顔を忘れるくらい似てるのに美人という……元の顔はモブ顔でついでに言うと病気で坊主にガリガリだったんだけど長くてサラサラな黒髪に、体もふっくらした長身モデル体型美女がMMOによくある露出が控えめな女神コーデになっている。うん、気に入った! レヴィも喜んでるよ!
「べ、別に似合ってないとか言ってないじゃない!」
「うん、可愛い」
さて、じゃあ遊ぼうか!
マユリ「いっくぞ~♪」
レヴィ「ま、まちなさいよ!」