女神さまになっちゃった☆
説明回です。
水の中に沈んでいたはずの私の意識は、やがて、ふわりと柔らかな背の低い草のようなものに受け止められた。
明け方の少し曇った薄明かりをまぶたに感じる。その暖かさ、心地よさに、私は安心して目を覚ましたんだ。夕焼けは赤いと思うのに朝焼けはなぜ白いんだろうね? まあ天気のせいかもだけと。
その途端、私は私になにが起こったのかを、理解した。まずは現状を確認する。近くには小高い丘があり、その上には広葉樹が繁っている。背中には芝よりも長い草が、まるでベッドのように広がっている。フワフワしててとっても気持ちいい。辺りは草原のようで、いくらか地平線が見え、高い山脈も見える。地平線の方は、向こうは海らしい。風が少し潮の香りがする。
厳密には潮風というのは海草の匂いらしいけど、苦手な人がいるのはそれが腐食した臭いなので仕方がないだろう。私は好きな香りだ。小さい頃はお父さんとお母さんと弟の和図と、釣りとかキャンプとか山菜採りにキノコ採り、花見に紅葉狩りと、よくアウトドアの遊びをしていた。たまによその家族を誘って。楽しかったなぁ~。まあ過去は過去だ。
いろいろと頭に情報が流れてくるので、整理していく。……ここは異世界、らしい。太陽や月は一つだし大きさも普通っぽいし、空は青いし森は緑だけど。土は灰色で少し砂っぽいかな。
「……異世界……。私が?」
確かに私は病床でスマホしか外との繋がりがなかったし、未成年でお金を使ったコンテンツに触れられなかったので無料の小説ばかりを拾って読んでいたけれど。入院中は無料ゲームや小説ばかり読んでいた。でも死の間際にはスマホが重くて持てなくなったし、集中治療室では使えなかったからなぁ。心はたぶんその時には死んでたなぁ。わはは。いや、私暗いのダメなのよ。周りには明るくしてほしい。
う~ん、どうやら私はこの世界に[主神フォシノー]さまによって召喚されたらしい。私の魂がいくつもの輪廻で試練を突破した結果、私はこの世界に招待されたのだと、インストールされたらしい[ナビゲーター]さんによって回答がもたらされている。心に疑問が浮かぶたびダイレクトに答えが染み込んでくるような感覚だ。
このナビゲーターさんによると私は[全知全能]に当たる力を与えられたらしい。しかしナビゲーターさんが持っている[全知]の中には[となりのおじさんが今朝三十八本の抜け毛を気にしていた]とか[ブラジル在住の、マユリとは縁もゆかりもないカルロスさんは今朝も快便だった]みたいな知りたくないどーでもいい情報まで網羅されているため、常には[全知]と繋がれていないらしい。うん、そんな情報まで頭に流れ込んできたらそっこう混乱して自殺するわ。しかし、う~ん。
「なんか私一人で喋ってるみたいだからとりあえずナビさんの性格を設定してもらっていいかな?」
『設定しました。深層心理より[真面目で堅物っぽいけどちょっといたずら好きなお姉さん]を選択しました』
「なんで?! いや確かに堅物で機械的にナビゲートするだけの存在ぜったいイヤだけどいたずらなお姉さん設定っていや好きだわ良かったありがとう」
『ドウ、イタシマシテ』
「なんで機械音声?! 早速いたずら性格設定だしてきた!?」
ナビさんは全知ないたずらお姉さん。なんか響きが危ないぞ。
『マユリ様は性格の生育が小学生で止まっていますので性的ないたずらは避けさせていただきます。ぐへへ』
やめなさいわざとぐへへとか。全知なんだから全部お見通しなんだよなぁ。小学生時代女の子の恋人いたんだよね。清いおつきあいだけど。……マユリハーレムという謎団体ができた話は置いておこう。いいね?
それはそれ、ナビさんの性格の設定ミスしたかも?
まあ自由に変更できるらしいけど、それをしてしまうと人らしくないもんなぁ。なるべく触らないようにしよう。
さて全知全能。さっきも考えたように全知は危ないのでナビゲーターという形で切り離されている。全能についてはこの体にいくつものスキルが備わっていて、さらには[神気]という特別な能力、そして[創造スキル]といういかなるものも作り出してしまうスキルによって成立しているらしい。やってみたら早いのだがこれも危ないスキルなので説明を聞く。
ぶっちゃけていうと、
「世界を滅ぼす」とかは楽勝。「世界を思うままに作り替える」「世界の設定すら好きに作れる」「元に戻す」「それらにより起こった全てをなかったことにする」「歴史を書き換える」「概念を変える」とかもできる。労力はほぼない。
人の心も思いも経験も才能もそれによる結果も自由になる。つまり寂れた村の病弱な若者が次の日に冒険者として旅立ってドラゴン退治の英雄と祭り上げられる。なんの段階も踏まずにだ。
旅立った事実も努力も実力もなく、実際に倒されたドラゴンもいなくて、でも死体だけはあって実際の国の英雄として祭り上げられる。本人もなぜかそこに至る経緯の記憶があったりする。……それらをも無理なく作れるってこと。
概念さえもぶっ壊せるのだ。これはヤバい。使い方は慎重にならないとダメだ……けど、けどね?
使わない選択肢はないよね!!
どう使えば楽しいかな~。ワクワクする。
私に主神さまから与えられた使命はただひとつ。
[この世界で楽しく遊ぶこと]
具体的に私に与えられた力は細かく分けると無限になるので大まかにして四つある。
ひとつはナビさん。全てのことを知っているスーパーナビゲーターだ。例えば誰かが悩んでいたらなにを悩んでいるか、どうすれば解決するかまで全てわかるし、なかったことにしようと思えば他のスキルと連動してできる。その結果目の前の人の人格が変わるのでおすすめできないようだ。確かにね。
次が[創造スキル]だが、これは創造とは名前が打ってあるが、現実を改変するかなり危険な[全能]のスキルだ。このスキルは目の前にごちそうを出したり家を建てたりはおろか、スキルを作ったり屋根が空を写すように改造したりできる。仕組みも知らずに、屋根の機能を損ねずに。物質的にも魔法的にもあり得ないレベルの複雑な現象をなんの労力もなく、例えば電気もなく冷蔵庫を動かし続けるとかは余裕だ。これも私の魔力が無限だからできるらしいのだが、その力はひとつにまとめて言えば[半神体]というスキルになる。
半神体スキルは非常に多くの要素を持っている。
不老不死、超再生、超剛力、超強靭、無限魔力、超精神、超集中、超反射、神業、直感、未来予測、予知、超知覚、痛覚自在、不眠不食不休、神眼、清浄不変、変身、言霊、神言、神罰、神体、神気、読心、念話と、ざっと思い付くだけでこれだけの能力が肉体に備わっている。神言とか言霊は似ているが、言霊は言ったことが起こるスキルで神言は相手に神として言葉を与えるスキルで、例えば『素直になりなさい』とか命じたら相手は素直に喋りだす。言葉が悪いが絶対的な洗脳スキルだ。もちろんこれらは発動する意思がないと発動できない。つまり神のスキルや創造物は勝手はしないらしい。私の思うままだ。
不老不死はこの場合絶対不滅だ。細胞ひとつ残さず消えても復活する。そもそも私がここにいるのはこの世界で崇められている主神フォシノーさまの命令なので誰も逆らえないわけだ。
あとは人間としてあり得ない身体能力を持っていて魅力も神レベル。身長百七十センチで四十キロしかないのにモデル体型。ぼんきゅっぼん。物理が仕事をしていないけど神さまだからね。ちなみに人間でも魔物でも精霊でも魅了できるらしい。危ないぞ。神スキルなので調整はできるらしい。コントロールしてるのがナビさんなんだけどね……。性格みすったぁ……。
魔力も無限。なんでもできる。地球をリンゴのように剥いてその上で生物が普通に生活できるようにする、なんてむちゃくちゃも可能だ。やらないけど。
そしてなんとなく私は、私がなぜ神様に選ばれたのかを理解した。
基本的に私はそんな面倒なことはしないからだ。なんでもできるっていうのはようするに突き詰めるとなにもかもが意味を成さない夢幻に等しくなってしまう。つまらないのだ。なのでやりたいことに神の力は使うけど基本は世界に任せる。そういう判断ができるから選ばれたのだ。
ようするに面倒くさいから任せることは任せるし、結果がどうあれそれが現実、と、流せるのだ。
抗えない運命によって死んだから、特にその思いが強いのだった。結果は自力で作れるのが一番いいけどね。なので神の力は自動調整です。
さて、いろいろと分かったからそろそろ遊びますか。あ、最後の能力なんだけどね、これは仕方ないかな。
全一般知識。この世界の言語から発音から書き方から生物や社会に関する知識、国とか大陸とかあらゆる知識。身体の使い方から魔法の知識まであらゆる一般的な知識がのーみそにインストールされている。ようするにナビさんの知識を引き出すためのラベルの知識がわかるような感じだ。C言語とかのポインタみたいだね。
物の名前は知っていて、それがなにかはナビさんに聞けばいい、ということだ。索引するにも名前は必要で、そこまでは鑑定できる。私はあらゆることを中くらいまで知っているということだ。未知のものにでも対応できるけどね。全知だから。
『ちなみに常識はありません』
うっさいな。小卒なめんなよ! 常識なんて壊してやる! ダメか!
まずはこの体をさらに守ることから考えることにした。遊ぶにしてもこの体に馴染んだ方がいいしね。
自分を知るのと世界を知るのは似ている。
マユリ「遊ぶぞ~♪」