病院
新作です。よろしくお願いします。
一話目だけ雰囲気違います。暗いので読まなくても大丈夫です。他はほぼほのぼのです。オムニバス的な話の切り替えがあるかもしれません。
マユリと遊んであげてください。
私は自分一人を助けたい。
それは曲がった欲求、自己愛だとか認識されるだろうか。私の考えはちがう。
自分一人を世界の全ての人が助けられるなら、助けられない人は、いなくなるんだ。
自分すら助けられないのに、誰かを助けるのも、ただ誰かに助けを求めるのも、自分一人の責任を他人に擦り付ける行為だ。
まずは誰でも自分の力で立つでしょう? 助け合いはそのあと。
世界を救うって、きっと、そういうこと。
自分を救うのに他人を足蹴にする? そう、救われないね。
考えてみればいい。他人を傷つけることを良しとするならば自分が傷つくのも必然だ。他人も同じことを考えるからだ。その場しのぎでは意味がない。
貴方が自分に許すことは他人にも許さないとね。他人に求めるだけなのは駄目だよ。
世界は、正義は、罪は、救いは、殺戮や強奪は、一人、孤独、独立、大成は、友達、恋人、仲間は、
たった一人しか人間がいなかったら、発生しない概念だ。
誰かがそこにいる。だから世界は、あるんだよね。
コスー、コスー、と。
まあ私の呼吸音のうるさいこと。
周りの人が眠れなくなる心配はないけど。ここは基本、個室だし。
今どこにいるかって? 病院の集中治療室だよ。
もうダメだから、死ぬのを待ってるところかな。
痛いとか怖いとかはないな。長すぎて、この状態が。
麻痺しちゃったよ。
天井には報知器やライトのようなものがある。あの天井の細かくたくさんの虫食い穴みたいな線が入った模様はトラバーチン模様と言うらしい。
ところどころが顔に見える。三点あれば顔に見えるんだっけ。シミュラクラ現象と言うそうな。
最近は頭の中で小人さんがよく騒ぐ。手元にあるナースコールを用もないのに押しそうになって、とどまる。さすがに迷惑だ。小人さんが集団で小人弾頭でブロック崩し始めた、とか言いだしても伝わらないだろう。ヤバいのはわかってくれそうだが。まあヤバいんだけど。
スマホが見たいなぁ。まあ、からだ、動かん。
看護師さんたちは立派だよ。私の動かない体の世話を眉ひとつ動かさないどころか笑顔でしてくれる。トイレから体拭きとかまで。ちなみにごはんは食べられないのでビタミンの入った生理食塩水とかいろいろと、一日中管に繋がれている。点滴台が邪魔くさいんだよねぇ。もう必要ないけど。天井からぶら下がっている。
繋ぎっぱなしの点滴の管が、揺れている。顔を少し動かすと汗が垂れた。気持ち悪いなぁ。それなのにすごく寒いんだ。
私の、三咲麻由里の人生は、もうすぐ終わる。
あんまり悲しくはないかな。ただ学校は行きたかったかな。暇なんだよね~、病院。
小学六年生の終わりごろ、倒れて入院して、いろいろと検査をした。その結果、血液の病気だったらしく、弟から骨髄をもらわないと治らないと言われたけれど、その手術は弟も危ないらしいからやめてもらった。中学校は一週間、五日だけ行けた。
死ぬのがわかってどう思ったかって? やっとお父さんとお母さんに会いに行けるなって。弟の和図には、私が両親を独占するから百年は会いに来るなと言ってある。メールで。
いやー、面会謝絶なんだよね、今の病院はどこも。病気が流行っているから仕方ないけどさ。
まあ寂しいけどね。寝てるだけだし。
少し前まではMMOとかをスマホでやったり無料小説を読み漁ったりできたんだけど、もう指も動かせない。あはは。友達とはもっと遊びたかったよ。
死にそうだけどどうにもならないと笑うしかないんだよな~。
小さい頃は両親につれられて、ひとつ下の弟、和図とアウトドアで遊ぶのが好きな子だったんだけど、今やすっかりオタクだよ。楽しいけどね。
動かないのと動けないのはだいぶ違うけど、まあ好きなように生きてると思えば。
もうすぐ終わるし。おっと、暗いのはダメだ。私は明るいのが大好き。
小さい頃は男子に混じってサッカーしたりもしてたし、本当にアクティブだったんだけど。
お父さんが死んで親戚の叔父さんたちが家に乗り込んできて遺産がどうのと言いだしてからは、危ないから外で遊ばないこと、みんなと一緒に早めに帰ること、そう言われるようになって、からの、すぐにインドア派になった。叔父さん靴下臭かった!
そのことは母親側のお祖母ちゃんが弁護士を呼んで片を付けたらしい。なんでも家族の了解を得ずに押し入ってきてお金を寄越せと言ってきたのが犯罪行為ってことで、バカだよね、お金を得るどころか、もともと持ってた社会的地位も失ったって。あはは、ばーかばーか。大人のくせに。
お母さんはその時の心労からか体を壊したあげくの事故死。……許す必要ないよね、クソども。あらやだお下品。おうんちのみなさま。
お母さんの時は涙が出ない経験を初めてしたけど、悲しいからというより現実を受け止めきれなかったんだと思うな。
さらに私が病気だからね。和図がまっすぐに育つのか実に不安だ。医者になるとか言ってたけど大変だぞ~。お医者様は見てるだけでも、朝から帰るまで、あるいは夜勤で、ごはん食べてるのか心配になるくらいハードワーク。患者さんは文句多いし。
看護師さんなんか点滴失敗しまくったら辞めなきゃ、とか言いだすし。それくらい痛くないよ。慣れっこだよ。三年だもの。血管見つからなくてごめんだよ。
めちゃハードワーク。夜勤で猛獣みたいな患者を少しの人数で管理する。普通の会社員の倍の給料をもらえたくらいではできないよ? 患者の私の方がたまにイライラする。命を救われてるのになんで迷惑かけるの。この時には私は他人を救う行為には代償が必要だと思うようになってた。みんな救われるためには努力が必要なんだ。まあ当たり前かもね。
まあ家族のことに戻るけど。
残された人たちはそれはそれで大変だというのは、よく知ってるから。実体験て大事だよね。弟にはまず謝った。暗くなる必要はない。人はいずれ死ぬからこそ尊いんだし。
『お姉ちゃんが謝るのちょーきちょうだぞぉー。置いてってごめ~んねっ☆』
とかメール送ったらさすがに『死ね! いや生きろ!』って怒られた。生きようと頑張ると目から汗が出るんだよ~。和図も頑張ってね~。
ちなみに弟のあだ名はワトソンくんだ。お父さんが意図して付けたらしい。やめなさいキラキラネーム。子供代表としていうよ?
ちなみに漢字の意味としては和を図るという意味らしい。一応はお父さんも考えたようだよ、ワトソンくん。
勉強とかできなかったから異世界に行っても知識チートとかは無理かぁ、とか、どこか現実味のないことを考えて、まあ、逃げていたんだけど、そろそろと。
現実が追いついてきたようで、私の体はゆっくりと冷たくなっていく。
深い海へと、背中からゆっくり沈んでいくような、そんな風景を幻視しながら。
これで終わりにならないといいな、と、そっと祈っていた。
はい転生☆
いやー神さまさ、空気読もうよ。説明もなく即座に転生したよ。しかもちょーチート能力だよ!
そういうわけで暗いのは終わり。私は新しい世界、異世界の地球っぽい惑星、ヒメルで、好きに遊んでいいことになりました! やっほーぃ☆
ちなみにヒメルは現地語で、直訳するなら地球、らしい。アースだよアース。まあ天動説から始まったのはこの世界も同じらしくてね、そういうのはいいか。
新しい世界で、幸せを探しに行くんだ。
はい、二話からはこのテンポで参りま~す♪
まずは五話まで更新します!