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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

女傑シリーズ

義賊リザレの風雲録

作者: 汐葉匠実

投稿6作目です。ご覧いただければ幸いです。



https://ncode.syosetu.com/s5817g/



↑今までの作品はこちら。世界観は共通ですが、それぞれ独立した話となっております。


「いくよ、あんた達!」


「へいっ!」


 女の掛け声とともに20人ほどの集団が闇夜に紛れ動き出す。


 義賊リザレ。レステームの地にて歴史上最も有名な盗賊は誰か、という議論をすると必ずその名が挙がる女盗賊である。


「作戦通りサム達は西の壁から、アタシ達は東の壁から侵入するよ。潜入したらいつものように。無駄な殺しはするんじゃないよ。」


「分かってるよ、リザレ。俺たちゃそこまで腐っちゃねぇ、だろ?」


「そうだぜ親方!」


「俺たちが狙うのはクズ共の首とお宝だけさ!」


 リザレの言葉に仲間たちが次々に言葉を返す。普通にしゃべているようにみえて、その音量は驚くほどに小さい。さすがは盗賊団、といった所である。


 リザレたち盗賊団は、巷では悪事を働く貴族や金持ちを闇に隠れて成敗する義賊として、市民たちから圧倒的な支持を受けていた。


「じゃあそろそろ分かれる地点だ、ヘマして死ぬんじゃないよ!」


「おうよ!」


 リザレの言葉に全員が掛け声で返す。そして宣言通り、左右に分かれて駆け出して行った。


 義賊リザレ。今夜も彼女は夜を舞う。




「いやぁ~今日もうまいこといったなぁ!」


「やっぱ大量にため込んでましたね、あの領主!」


「いらねぇ分は市民にばら撒いたし、これでまたリザレ盗賊団の名も上がったってもんよ!」


「それを言うなら義賊団、でしょ! 自分で盗賊なんて言ってどうすんのさ!」


 しばらく後、今回のターゲットであったとある領主の城への襲撃を無事終了させ、全員合流したリザレ義賊団。今回も仕事は成功したらしく、皆の顔は明るい。犠牲者も特にいなかったようで、現在は町を離れている途中だ。


「バシラムでの仕事もあらかた終わったし、次はどうする、リザレ?」



 団の中で唯一リザレのことを名前で呼ぶ副団長のサムがリザレに尋ねる。しかし当のリザレは上の空で何か考え込んでしまっている。今夜の仕事の前に寄った町から移動中はずっとこの調子なのだ。


「リザレ! 何があったか知らんが、そろそろ次の行き先を考えてくれ!」


「……ん、ああ。悪いねサム、考え込んじまっちって。」


「俺のことは構わねぇ。でも、頭のお前がそうやってると、あいつらも不安になる。考え込むのは構わねぇが、せめて他の奴らに見えねぇようにやってくれ。」


 後ろを親指で指差しながら窘めるサム。リザレよりもかなり年上かつ彼女と同郷で付き合いの長いサムは、彼女の兄代わりでもあるのだ。


「そうだね、あんたの言う通りだ、助かるよサム。」


 そう言って一呼吸置いてからリザレはサムに身を近付け、話を始める。


「実はさ、ちょっと迷っちまっていたのさ。いくら市民の敵が相手とはいえ、やってることは殺しと奪い。義賊なんて持て囃されているけど、結局は犯罪者さ。」


「何急に弱気なこと言ってやがる。村が貴族の領軍に無茶苦茶にされたときに覚悟は決めたんだろ。」


 そう、リザレが悪徳な金持ちや貴族を狙う理由、それは自らの復讐、そして自分のような人間を一人でも減らすためなのである。


「そうさ、覚悟はしているさ。でもね、貴族の中にも真っ当な、汚れてない奴だっている。それを思い知らされたのさ。それに……」



 そう言って後ろを振り返るリザレ。サムもリザレに続くように後ろを向く。


「リザレ、お前……」


「だからさ、こんなちっちゃい事ばっかやってても意味がない。」


「……お前まさか!」


「そのまさかさ。……あんた達、次の行き先はメイールの王都、ターゲットは王城だよ! 今度の仕事はデカいよ!!」


 リザレは何かを察したサムに小声で返した後、全員に向かって次の行き先を大声で伝える。その様子さっきまでの迷いはなく、いつもの大胆不敵で豪放磊落なリザレであった。


「ヒュー! きたぜ!」


「よっしゃ!次も気合入れていくか!」


「メイールは10年振りね!」


「最近のメイールは若い王様が贅沢三昧してるって聞くしな。」


「俺らできっつーいお灸据えてやらねぇとな!」


 リザレの声に各々声を上げていく。士気の高さは十分だ。



「メイールか……」


 そんな周囲とは対照的に一人だけ静かにぽつりと呟いただけの少年がいた。


「どうしたよ、ジェイってそれもそうか。お前拾ったの、前メイールに来た時だったな。お前にとっては故郷だもんな。」


 そんなジェイに反応して隣の仲間がジェイに話しかける。


「うん、なんか行くってなったら急に緊張しちゃってさ……」


「大丈夫だ、お前は一人じゃねぇ。俺たちが一緒だろ?」


「うん、そうだった!」


「お前はやっぱりそのくらい元気なくちゃな!」


 そうこう話している内に、ジェイはすぐに元気を取り戻した。仲間同士の絆も深い、これもリザレ義賊団の長所といえよう。


 こうして一行は進路をメイール王国王都に向けて駆け抜けていった。




 リザレ一行は道中これといってトラブルもなく、無事メイール王国の王都へ到着した。そして到着した一行が目撃したのは10年前華やかだった頃とは打って変わってしまった、閑散とした城下町であった。


「こりゃひでぇ……」


「10年でこんなことになるか普通?」


 団員達が口々にそう言うのも無理はない。かつて彼らがこの街を訪れたときは、多くの店が立ち並び、その店主たちは声を張り上げながら客の目を引こうとする。子供たちはその辺をはしゃぎ回り、犬や猫などの小動物たちもいたるところで見かけられた。

 

 それに比べて現在は人の往来などほとんどなく、店も家も扉や窓を完全に締め切り、人の声などまるきりしない。小動物に至っては向こうに一匹やせ細った犬が小さく丸まっているのが見えるくらいだ。


「聞いていた以上にひどいね、こりゃ。」


「あぁ、現王の暴政については、多少は耳にしていたがここまでひどいとはな。」


「こんなことに……なっているなんて……」


リザレの言葉にサムが続き、その後ろではジェイが絶句していた。



「一旦町を出よう、この大人数は目立ちすぎる。」


「そうだね、近くに森があったろう?あそこにテントを立てて作戦会議だ。これは思った以上に厄介になりそうだねぇ。」


 リザレはサムの提案に乗り、一同は一旦町の外へ出るのであった。



 その夜、リザレの言った通り、近くの森にテントを張った一同は数名を周囲の警戒に当て、残りはテントの中で作戦会議を行うこととなった。


「さぁ、今回のターゲットは分かってるだろう?あの美しかった町をあそこまでひどい有様にしてるメイール王国現国王ベルディンとそれに加担している貴族共だ。」


 開始とともに紡がれたリザレの言葉にそれぞれが怒りをにじませる。


「だろうな、ありゃひでぇよ。」


「今までやってきた中でもかなりやべぇ部類だ。」


 がやがやとしだしたところでサムの


「で、作戦はどうする?」


 の一言で他の者たちは会議に引き戻される。


「今回については、ちまちま貴族から潰していっても埒が明かない。頭から叩く。」


 その言葉に一同はごくりと息をのむ。



「現国王ベルディンを落とす。」


 堂々とした宣言にサムを除いて動揺を隠せない。


「いやいや待て待て姉御!急に国王ヤるっつてもどうするつもりだよ!」


「そうだぜ、城の周囲も中も兵で一杯だ!俺たちの人数でどうにかなるれべるじゃねぇ!」


 そう、いくらその名轟くリザレ義賊団といってもその数は約20人。城の兵を相手にすればたちまち壊滅してしまうだろう。だが、



「安心しな、ちゃんと策はある。」


 リザレはその一言で騒ぎ出したメンバーを黙らせる。


「今回城に入るのは3人、アタシとサムと、あとジェイ、アンタだ。」


 その言葉にジェイ以外の誰もが納得する。リザレ義賊団のメンバーで一番の新参はジェイである。皆ジェイの事情を知っているのである。


「どうして俺が……?」


 一人何も知らないジェイは首をひねらせる。そんなジェイにリザレは説明していく。



「ジェイ、アンタは10年前アタシ達がとあるところから盗んだ代物さ、それがどこかわかるかい?死にかけていたメイール王国前国王と前王妃、あんたの親父さんとお袋さんの腕の中からさ。」


「な!?」


 あまりの衝撃に凍り付くジェイ。


「正確には託されたんだけどね。自分たちはもう駄目だからせめてわが子は、ってね。それから10年、アタシ達はアンタに正義とは何か、正しいとは何か、教えてきたつもりだ。」


押し黙ってしまったジェイになおもリザレは続ける。


「この10年であんたはまっすぐ汚れずに育った、優しく育った。こんな盗賊稼業をしながらだよ。やっぱりアンタはアタシ達とは違う。アンタは常に自分の事以上に周りのことを考え行動してきた。全部が全部良いって訳じゃないけど、それでも王になるならアンタみたいなやつだ。」



「それじゃ、俺は初めからこうなるためにアンタ達に育てられてきたのかよ……!」


 悔しさ、怒りをにじませながら、ジェイは俯き、そう吐き出す。


「違うさ。アンタはアタシ達家族の一員さ。もちろんそうやって育ててきた。でもね、子はいつか親から離れる時が来るもんだ。アンタの場合それが今だって話さ。」



 諭すように、優しくリザレはそう語りかけ、


「それに! リザレ義賊団のジェイは、国の一つも納められない、そんなチンケなタマなのかい!?」


そう激しくジェイに問いかける。



「くそったれ、あんたらひでぇ親だよホント……事が終わったら一人残らず絶対指名手配にして俺の目の前にしょっ引いてやる!」


 前を向いたジェイの瞳は強い意志の炎が宿っていた。


「それでこそ育てたかいがあるってもんさ!」


 その目を見たリザレは嬉しそうにそう言った。


「でも、実際どうやるつもりなんだ?王を殺したところで俺が王族だなんて証明できないし。無理やり王になっても周りはついてこないだろ。」


「王族の証明については、ジェイ、腰の短剣鞘ごと貸しな。」


 その言葉にジェイは短剣をリザレに投げて渡す。


 カンッ! という音と共にリザレはいつの間にか抜いた自らの短剣でジェイの短剣を叩き落す。すると、その衝撃でジェイの短剣の鞘、柄、鍔の表面が割れ、中から眩しい銀色の装飾が顔を覗かせた。


「その装飾こそ王族たる証拠さ。それにあんたの顔は親父さんそっくりだし、髪と瞳の色はお袋さんと同じ色なんだよ、城の連中が見たら一目で分かるはずさ。」


「な、なるほど……」


 感心するジェイを前にリザレは話を続ける。


「それで作戦だけどね、こいつを使う。」



 そういってリザレは仮面を3つ取り出した。先が尖った楕円形で、目にあたる部分だけくりぬかれた簡素な白い仮面だ。


「これは特殊な仮面でね。つけて魔力を流している間は気配を薄くできるんだ。鍛えた斥候の隣を歩いても気づかれない。これを使って城に入る奴に紛れて侵入する。そんでまっすぐ王の間を狙う。簡単な作戦さ。」


 リザレの単純すぎる作戦にサムが待ったをかける。


「その仮面を使って忍び込むのは分かる、というより賛成だ。使い勝手は分かっているしな。しかし本当に王が王の間にいるのか?それに情報収集もまだしてない。」


「それはこれからやっていくのさ、基本の作戦はこうって話。今すぐやるわけじゃないよ。」


「それなら異論はない。具体的に情報収集はどのくらい時間をかける?」


「10日間。これは全員で行うよ。くれぐれも気づかれないように!」


「了解!」


 リザレの言葉に全員の声が重なった。

こうして、リザレ義賊団一世一代の大仕事、メイール革命が幕を開けた。




 10日間の時はあっという間に流れ、いよいよ決行の日となった。義賊団一同は町の中から外から、城の中から外から、ありとあらゆる所から気付かれないように情報をかき集めた。


「いやぁ、思った以上に詳細に情報が集まったねぇ。」


「むしろあれは情報を開放しているようなものだ、気が抜けすぎている。」


「政治が腐ると人間ってあそこまで駄目になるもんかねぇ」


 口々に言うのも無理はない。慎重に慎重を重ねて動き出した情報収集だが、恐ろしく簡単に情報が集まってしまったのである。


 閉まっている酒場の扉を開けば、多くの町の住人が我先にと現在の王都の状態を提供してくれ、兵士の詰め所に行ったら情報という名の愚痴の嵐。そのためにこの反応である。


「じゃあ、サクッと終わらせるとするかねぇ。アンタ達、いつでも移動できる準備だけはしときな。」


 リザレの言葉に、サムとジェイ以外の者たちはテントの片づけを始める。


「サム、準備は?」


「問題ない。」


「ジェイ……はもう少し待つかねぇ。」



 リザレがジェイのいる方を向くと、仲間一人一人から抱きしめられているジェイの姿があった。設立以来誰一人として生きたまま抜ける者がいなかったリザレ義賊団。それだけにジェイの旅立ちに背一杯の愛情を込める。


 そして全員から熱い抱擁を受けたジェイがリザレの元に来た。


「待たせた。行こう、国王の座を盗みに。」


「いい顔になったな、ジェイ。」


「いっちょ前に国王気取りかい?でも、悪くないねぇ! じゃ、行くよ!」


 そう言って三人は王都に向かって駆け出した。


 王都の町は相変わらず人っ子一人おらずしんと静まり返っている。そんな中を音も立てず三人は疾走する。


「この後の道、手順は覚えているね!」


「問題ない。」


「リザレが先頭、後ろに俺、最後がサム。基本は仮面の力で通り抜け、気づかれそうになったらリザレのナイフか気絶、だろ!」


「ばっちりさ!」


 走りながら作戦を確認しあっていると早速城門が見えてきた。城門の前には二人の兵士が立っており、一台の馬車を止めている。三人は仮面に魔力を流し気づかれないようにしながら、馬車に近づく。


 そして、門が開かれ馬車がその中を通るタイミングで三人は音もなく馬車の後ろに付け、そのまま気づかれず城内に侵入する。ここまでは計画通りだ。今日この時間馬車が城に入るのは事前にリサーチ済みだ。


 首尾よく城門をくぐった三人は馬車から離れ、まっすぐ城に向かうが、正門ではなく少し右にずれたところにある小さな扉へ向かう、従者用の勝手口だ。そしてこの時間、従者たちが朝に城中から集めた洗濯物を外に出す時間であり、従者が外に出るのと入れ替わりに城の中に侵入する。


 いくら仮面の効果があるとはいえすんなりといき過ぎている。しかしこれも事前の準備と今までの経験のなせる業だ。


 城の中に入った三人はそのまま何人もの人にすれ違いながらも気づかれることなくずんずんと向かっていく。ちなみに王城の構造もすでに把握済みだ。そうして三人がまずたどり着いた場所は地下牢だった。

 

 反現王政派の人間がいると睨んだからからである。地下牢の前には看守がやる気もなさそうに椅子に座っていた。奥の看守室にも数人、交代の看守がいる。


「私は前、アンタ達は奥、行くよ。」


 音を出さずそう発したリザレはそのまま目の前の看守を切りつける。

「何もn……」


 看守は声を出そうとしたがそのまま声も出せず椅子に力なく座り込む。そして全身が痺れたように痙攣し始めた。これは魔力を込めて切りつけると相手を痺れさせることができる、リザレの持つ短剣の力であった。


 リザレが目の前の看守から牢のカギを漁っている間、他の二人は素早く看守室に入り、それぞれの首の後ろにナイフの柄尻を当て、気絶させていく。



 そして地下牢に入ると、多くの人間が地下牢の中に捕らえられていた。


「ジェイ」


 リザレが一言言うとジェイは仮面を外し、


「私は前国王リネスの子、ジェイネス。この顔とこの短剣が何よりの証拠だ。」


 そう言い放った。


 牢の中にいるもの達からすれば、何もないところからいきなり前国王そっくりの人間が現れたのだ。牢屋内はたちまち騒然となった。


「皆の者、静まれ。」


 しかし、ジェイの一言で一気に牢屋の中は静まる。今のジェイにはそうさせるほどの風格が漂っていたのだ。


(やるって決めた途端これだからねぇ。やっぱり一般人と王族は出来が違うよ。)


 リザレも思わず舌を巻くその威厳のまま、ジェイは言葉を続ける。


「私は今からベルディンを討つ。皆の者、私に手を貸してはくれまいか。」


 一言、そういった後、少しの間牢屋の中は静寂が支配する。そして


「もちろんですとも、ジェイネス様」


 一人の男のこの言葉から皆一斉に自分も力になると、声を上げた。


「ありがとう、では今から牢のカギを開ける。皆、付いて参れ。」


 そう言ってカギを開けた。さすがにこれは予想外だったリザレは、


「ジェイ!アンタ作戦と違うよ!」


 と、ジェイに話しかけるが、


「あぁ、確かに違う。しかし、これが一番の近道だ。二人はみんなの中に紛れておいてくれ。」


 と有無を言わさぬ口調でそう告げられてしまった。その迫力を前にリザレもサムも何も言えず、ジェイの言うことに従った。


 そしてジェイは


「行くぞ!」


 と声を上げると堂々と地下牢から歩き出した。そしてその後ろには、動けなくなっているもの以外、全員が付いて行くのであった。



 大勢を率いて歩いているのだ、ほどなく一団は見張りの兵に見つかる。


「貴様らいったいどうやって出てきた!」


 見張りの兵が声を上げる。それに対しジェイは一言


「通せ」


 と言って歩き出す。兵たちはその迫力に腰を抜かしただただ一団が通り過ぎていくのを見るしかなかった。



 そして、止めに来た兵たちをものともせず、むしろ一部の者を吸収しながらジェイ達は王の間までやってきた。そして扉をあけ放ち中へ入る。


「貴様ら、牢に入れたはずがなぜ……!?」


「その顔、その髪と瞳、まさか!?」


 入ってきた一同、そしてジェイの風貌に驚く貴族たち。その声を一切無視してジェイは、


「ベルディンはどこだ!」


 と一言声を張り上げた。すると、


「ひ、ひぃぃいいい!?」


 身体中のいたるところに宝石を付けた太った男が逃げ出そうとしていた。私腹を肥やして贅の限りを尽くしたその体は醜いほどに膨れ上がっており、まさに暴政の成れの果て、といった様相であった。事前の似顔絵でも見た、間違いなくこの男がベルディンだ。


「わが父と母の仇、そして多くの臣民たちを苦しめた天罰、貴様らには受けてもらう!」


 そう言って踏み出そうとした瞬間、王の間にいた貴族たちとベルディンがいきなりバタバタと倒れた。あっけにとられその有様を呆然と見ていると


「アンタ達の恨みとコレ、盗ませてもらうよ。」


 そう耳元で声が聞こえるとともにジェイはリザレに抱きしめられていた。


「いい男になったね、この調子で頑張りな。」


 そう言うとすっと離れ、今度はサムがジェイを抱きしめる。


「俺たちはお前の事、いつでも見てるからな。」


 そう言ってサムもまたすっと離れ、二人は気が付くとどこにもいなくなっていた。


 一つだけ開け放たれた窓からは新鮮な風が吹き込まれていた。




「いやぁ、びっくりしたね、本当に化けたよ、ジェイの奴。」


「あれには流石に驚いた。すさまじい迫力、真の王とはああいうものなのかもしれないな。」


 王の間の窓から逃げ出したリザレとサムは早くも城を抜け、王都を走り抜けていた。


「でも、やっぱりアタシの判断は間違ってなかったねぇ。」


 ジェイから取ったメイール王家の短剣をクルクルと回しながら、サムにそう話しかけるリザレ。


「そうだな。」


「これから、メイールも良くなりゃいいねぇ。」


「そうだな。」


「……少し、寂しいねぇ。」


「あぁ、そうだな。」


 言葉を交わす度、しんみりとした空気が二人をつつんでいった。が、



「まぁでもあいつが死んだわけでもないんだし、それに指名手配にするとも言ってたしね! さっさと逃げるとしますか!」


「そうだな!」


 こうして二人は無事仲間たちと合流、次なる町へと向かっていくのであった。


「アンタ達、次の目的地は帝国だよ!!」



 義賊リザレ。各国にその名を残す大怪盗である。行く先々で悪政を敷く者達を襲撃し、その悪事を暴き、民衆を解き放つ姿は、市民から劇的な支持を集めると共に、各国から殺しの罪で指名手配を受けるなど、その評価は身分によって大きく分かれる。そして彼女自身腕の立つ冒険者であり、ダンジョンや魔獣討伐でも活躍したという。個人の武勇、集団をまとめるカリスマ、どちらを取っても女傑といえよう。


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