第六話
私が竜の棲家へと移って約二ヶ月が経った頃。
突然、テュレラ・ニュクスからの食料が途絶えた。
竜は『忘れているだけだ』と気にも止めなかったが、どうも嫌な気がしてならなかった。ただ、竜の住処の周りには食料となるものがたくさんあったので困らなかった。
私を世話してくれている竜の棲家は洞窟であり、時折コウモリがやって来ては恐る恐る私へと近づき、くんくんと私の匂いを嗅いでいた。
竜によれば、それは吸血コウモリではないということだったのでさして気にならなかった。
その日は、弓矢の練習をしていた。
魔力がないならと弓矢の練習をしていた私は竜が作ってくれた弓矢練習所で敵の弱点を正確に射抜く練習をしていた。
幼少期から練習を毎日怠らずにしていたおかげでほぼ百発百中だったが、その精度を上げるために竜の棲家に移ってからもしていた。
弓を番え,的へ向けてシュッと放った瞬間、あの日と同じ轟音が鳴り響いた。
『シェーナ、大変だ。王都がめちゃくちゃになっている』
のんびりと朝のパトロールに出かけていた竜がやって来て私に言った。
少し焦った声をしている。
「私があなたにのって上空から弓で援護することは可能ですか」
『無理だ。フィーユは大砲を王都へ向けて連発している。敵味方関係なく殺している。シェーナに弾が当たる可能性があるから却下だ』
「皆、危険な場所で戦っています、それなのに私だけここにいるのはなんだか卑怯」
『それは、これまでの失敗からだ』
「どういう事ですか」
これまでの失敗から。
どういう意味なのかが全く分からない。
『ああ、今のは取り消しだ』
「それに、私の婚約者も戦っています。食料が届かなくなってからは生きているのかも分からない」
『わかった。じゃあ、王都へ連れていく。絶対に背中から降りないことを条件に、だ』
「ありがとうございます」
別に竜は私に力を貸す理由はない。それなのに、わざわざ危険な場所に行ってくれるのは好意からだ。
そのことに申し訳なく思いつつ、ほっとしている自分にちょっと苛立った。
弓矢を背負って竜の背中にのると、竜は問いかけた。
『覚えていないのか』
私はキョトンとして竜の頭を見る。
「何をですか」
竜は悲しげな瞳で私を見,その返事をすることはなかった。
王都についた私は、竜巻が通った後のような惨事に目を見開く。
『戻るか』
体を硬くしたのが分かったのか、竜が気遣うような声をかけて来たが、私はそれを拒否して王都になだれ込んでいる敵軍の服装、広がり方を確認した。
「これは、軍の拠点を潰さないといけませんね」
フェーヤ国の戦闘能力は決して低くない。
それなのに、こんなに敵軍が多いのはおかしい。そう思ってよく見れば、負傷者を回収する係、拠点に運ぶ係、戦闘特化の係ときちんと役割分担がされていた。
きっと、流れの中心である拠点を潰さない限りフェーヤ国に勝機は訪れないだろう。
「フィーユ国の拠点へ向かって下さい」
『ああ』
竜は力強く羽ばたき、ぐんとスピードを上げた。
次の瞬間、さっきまで私たちがいたところを砲弾が通過する。
もし、竜が気づかなかったら私たちは今頃死んでいたのだと気づき、どっと嫌な汗が流れた。
『あそこが拠点だ』
そう言って竜はくるくると旋回を始めた。
その場に留まって飛ぶのは苦手らしい。
「頭領を取れば、敵は一旦国へ引くでしょうか」
『多分な』
私は近づけるぎりぎりまで拠点に近づくようお願いし、頭領を探す。
「あ、あれでしょうか」
周りよりも高そうな鎧をきた人物を発見して問えば、竜は肯定した。
『そうだろう。でも、なんか変なんだよな』
「変ですか」
『ああ、何となくだ。まあ、でも気にすんな』
その人物は体を防御はしていたが、頭には何も被っておらず、とても狙いやすかった。
私はぎゅっと弓を引き絞り、その人物へ狙いを定める。
そして、手を離そうとした瞬間。
『ぐっ』
竜がいきなり喉を鳴らして呻いた。
『まずい。罠だ』
そして、急降下した。
『絶対に、手を離すな』
翼を広げて落下速度を遅くしようとする竜へ向かい、銃弾が飛ぶ。
ゆらゆら揺れる中、私は弓を構えて頭領に放った。
そして、竜が地面に落ちるのと、頭領の体が地面に倒れ、他の敵軍は私に銃や剣の切先を向けていた。
竜の体からは大量の血が流れており、生きているかも微妙だ。
ここからは一人でしなければ。
残りの本数を数え、じっくり周囲を眺める。
私が女だからと攻撃を躊躇う敵軍へ笑いかけた。
私が死ぬ前に,何人やれるだろうか。
弓を番えて頭領の次に偉そうな人物の眉間を射抜いた瞬間、躊躇いもなく敵軍が私へ攻撃した。
避けられるはずもない私はそのまま身体中でその攻撃を受け、ゆっくりと倒れた。
そして、止めに頭に銃弾を受け、意識を失った。
次回、完結です。
恐らく、もやもやした終わり方になります。