第五話
竜帝祭から一ヶ月が経ったある日。
遠くの方から爆音が鳴り響き、続いて粉塵が舞った。
早朝。
竜帝祭の気分が抜け切らないフェーヤ国を襲ったのは隣国から放たれた砲弾だった。
「シェーナ!無事ですか!」
国境近くに位置する王都は敵襲に弱い。
今まで、竜の加護が厚いフェーヤ国に攻め入る国がなかったためペラペラの国防はそのままだった。
しかし、つい先日隣国トルメヤは戦好きの大国、フィーユに吸収されてしまった。
そして、竜の加護があるフェーヤ国を次の標的にしたフィーユは早速攻撃を仕掛けてきたのだ。
朝も早く、王宮で勤務する一部官僚以外王都は静まっていた中の爆音。
貴族街では、落とされていた屋敷の明かりが次々灯され、何事かと王宮へ人を送り、情報を集めていた。
王宮で書類整理をしていたテュレラ・ニュクスは国境近くで警備を行っていた騎士からの連絡により誰よりも早くフィーユが攻めてきたことを知る。
独り身の部下にその情報を国中へ広めるように指示すると自身は私の元へとやって来た。
「はい、勿論です。さっきの音は一体なんでしょうか」
そこで、私はテュレラ・ニュクスから事情を聞いた。
「そこで、シェーナには竜の住まう地区へ逃げて欲しいのです」
私は戸惑った顔でテュレラ・ニュクスを見た。
竜の元へ逃げろ、とは一体。
「しかし、この国の人は全員で敵へ立ち向かうのではないですか。学んだ攻撃魔法で敵と戦うのではないですか」
「そうですが、シェーナは魔力を持っていないので特例として逃げてもらうことになったのです」
他国と比べて平均魔力の高いフェーヤ国の人々は殺傷能力のある攻撃魔法を義務教育中に習う。
勿論、騎士たちが前線に立って戦うが、もし王都に流れ込んでしまった場合には総力戦になるのだ。
「しかし」
私は反論した。
皆、命をかけて戦うというのに、自分だけ安全な場所にいるのは嫌だった。
「お願いですから、私の言う通りにしてください。これは殿下の指示でもあるのです」
「殿下の指示」
竜帝祭で、私が持っている石に興味を示し、初めて口を開き話した殿下の声が耳に蘇る。
何故かは分からないけれど、殿下の声は酷く懐かしかった。
「そうです。つまり、命令です。シェーナには断る権利はありません」
「……そうですね」
テュレラ・ニュクスの行動は早く、その日のうちに私を竜帝祭の日の草原に連れて行き、定期的に食料を送ると約束させて去っていった。
しばらく待っていれば竜がやってくるから、その竜の指示に従ってくれという彼の言葉通り、彼が去って十分ほどして竜がやってきた。
『ついに、この日がやって来てしまったか』
そう言いながら、私の無事をとても喜ぶ竜の姿に奇妙さを感じつつ、竜の言葉に従い、体に乗って竜の棲家へと向かった。