第二話
シェーナ視点がここから続きます
唯一、竜が住んでいる国として諸国からは尊敬されている国の貴族の娘として生まれた私には一切魔力がなかった。
しかし、皆そんな私を差別せず、同年代の友人も出来た。
ただ、必須教科としてある魔術の時間に私は参加出来ないのでクラスメイトの手伝いをすることにはなったが。
魔力がないけれども、私は人とは違うところがあった。
それは、生まれた時に竜帝の石と呼ばれる真っ青な石を抱きしめていた事だ。
千年に一度生まれると言う、竜に愛されし子。
御伽噺のような話だと、幼い頃には驚き、自分が特別であることにワクワクもしたが、今ではその話を信じられずにいる。
だって、私は一度も竜と会ったことがないのだから。
「シェーナ」
声を掛けられ、はっと意識を此方に戻す。
「折角一緒に過ごしているのですから、私と話をして欲しいですね」
十九歳になった私は学ぶべき事を全て履修し、あとは結婚を待つのみという段階に来ていた。
多くの女子は卒業と同時に婚約者と結婚をして家庭を持っていたが、私は特殊な身であるという事から、すぐに結婚することは危ないかもしれないと判断され、未だに結婚はしていない。
ただ、生まれた時に決められた婚約者はいる。
私の二つ上の、若いながらも既に宰相を務める主席卒業の公爵令息だ。
テュレラ・ニュクスと言い、とてつもない美貌と優しげな表情で数多の女性を恋に落としたと有名だ。
欠点なき、完璧人間とも言われているが、夜が苦手だと言っていた。
「あ、すみません」
しかし、私は彼が苦手だ。
何故苦手なのかと聞かれるとどことはっきりとは言えないし、何に文句があるのかと聞かれても文句はないので何も言えない。
私を一番に考えて行動をしてくれる彼に何の不満もないのだ。
ただ、苦手だというだけ。
「いいえ、すみません。私が我慢すれば良いだけですのに。ただ、一緒に入れるだけで喜ばしいことですのに。どうぞ、私に構わず考えたい事を考えて下さい」
こうやって、変な事を言い出すところもちょっと不気味だ。
あと、威張り散らかさずに敬語で話しかけられるのもなんだかむずむずする。
私は敬語ではなくても良いのだけれど。
「では、この石についてテュレラ様の考えを教えて頂けますか」
テーブルに石を置く。
毎回毎回、問いかけているのに、なんでも答えてくれるのに、この質問だけには決して答えないのだ。
「ですから、これはただの石です。それが私の考えだと毎回言っているでしょう」
そんなはずはないのだ。
教会の上層部に密かに見せた時に走った緊張と、『これを決して殿下に見せてはいけないよ』という言葉。
ただの石に殿下が反応するはずもないだろうに、どうして知っているはずのことを私に隠すのだろうか。
今まで教会でこの石を見せた事を誰にも言ってこなかったが、今回は言ってやろうと思った。
だって、私は十九歳だ。
真実を知りたいのだ。
「先日、この石を教会の上層部に見せました」
そう言った途端、テュレラ・ニュクスの顔が引き攣り、手に持っていたティーカップが床に落ちた。
「この石を決して殿下に見せぬように言いました」
私はじっとテュレラ・ニュクスの目を見て真実を教えて欲しいと訴える。
「どうか、本当のところどうなのか、教えて下さい」
しかし、テュレラ・ニュクスは首を横に振って石をハンカチで隠した。
「これは、ただの石です」
そして、私から逃げるように去っていってしまった。