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第4話 世紀最大の大魔術師みかん

 みかんから洗脳呪文を掛けられた美由宇。本来ならバタリと地面に倒れる……はず、だった。


 だけれど美由宇はキョトン顔をして、みかんを見つめていた。そう、()()()()()フリーズしていたのだ。


 あ、えーと。洗脳呪文の仕様が変わったのかな。そうだよね。効果なんて人それぞれ千差万別なのだろうから。中には美由宇みたいに倒れない人がいたって、何ら不思議ではない。要は洗脳が出来ていたら過程なんてどうでも良いのだ。


 けれど。みかんは美由宇の反応を見て、明らかに困惑した表情を見せていた。


「あれ……? てへぺ、ろ?」


 どうしたの?

 記憶消去、洗脳は見事に成功したんだよね。ただ、倒れてないだけでしょ?


 とは思ってみたものの みかんの不自然な反応に不安を抱いた私は、みかんに駆け寄った。


「みかん、どうし……」

「なんにゃ?! なんにゃ?! 今の光はなんにゃ?! 朝、壊れた壁が直った時のと同じかにゃ?! 教えてにゃ! 教えてにゃ!」


 美由宇が私の言葉を遮る。

 これは、さっきと同じパターンだ。


 だけれど、さっきとは違い みかんは美由宇の言葉を遮ることは無かった。みかんは、言葉を遮るどころか言葉を失っているように見えた。他方、美由宇は、みかんの両肩を掴んでピョンピョンと嬉しそうに飛び跳ねるのだった。


 え、まさか。

 美由宇に呪文が効いていな……い?


 いやいやいや、まさかね。みかんの呪文は百発百中だ。たぶん。


 そ、そうよ。

 時間差って言うのもあるのかも。呪文をかけてから少し時間をおいてから効果が現れるパターン。これだ。これしかない。


 ……じゃなきゃ困る。


 だけれど美由宇を見ていても全く倒れる様子はない。それどころか美由宇は 、しつこく みかんに食い下がる。どうやら、みかんから出た光線に興味を持ったらしい。


「ねーねー、教えてにゃ! みかんさんから出た光線は何なのにゃ! 意地悪しないで、みゅうにおーしーえーて、にゃーあ!!」

「お、おう……て、へぺろ」


 あのマイペースな みかんが美由宇の勢いに押されている。みかん自身も美由宇に呪文が効かないことに困惑しているようだ。


 それは私も同じだった。

 みかんが洗脳、つまり記憶消去の呪文を唱えたのにも関わらず、美由宇はピンピンとしている。飛び跳ねている。


 美由宇は記憶消去されるどころか、みかんから発せられた光線に興味津々で目を輝かせていた。彼女の姿を見て私は驚くとともに絶望することしか出来なかった。


「なんにゃ! なんにゃ! 教えてにゃ!」

「れ、れふぇどうしぇふぇぶ……!」


 再び記憶消去の呪文を唱えようとする みかん。


「にゃにゃにゃーっ! また光ったにゃ! すごいにゃ!」


 再びみかんから金色の光線が発射されて美由宇のことを包み込んだ。がしかし、すぐに光は消えてしまう。そして、美由宇は相変わらず何事も無かったかのように、ピョンピョンと跳ねまくっている。


 いや、何事もなかったように、では無く、彼女にとっては何事もなかったのだ。


 今度は美由宇もフリーズさえもしなかった。

 さっき美由宇がフリーズしたように()()()のは、単純に美由宇が、みかんの指先から発せられた光線に驚いて固まっていただけだったらしい。


 みかんは、どうしよう……と困った顔をして、私のことを涙目で見つめている。


 そんな顔で見られたってなあ……

 想定外だけれど、呪文が効かない人もいるってことなのか。そうでもなければ、この状況の説明はつかない。


 困った。

 どう考えても、考えなくても、この状況マズいよね。


 どうしようかな。

 とりあえず場を繋がないと……


 私は咄嗟にパチパチパチパチと手をたたいた。


「す、す、すすすごーい。み、みかん……また新しいマジック覚えたんだねーっ!」

「…………」


 うぅ。

 みかんの冷めきった視線が私に突き刺さる。みかんの目が、そんな子供だましの嘘が通じる訳無いだろうと物語っている。


 目で物語らないでよ。

 だって無理だよ。


 こんな何もないところで、みかんの指先から金色の光が出た決定的な瞬間を見られたら誤魔化ごまかしようが無いじゃないか。


 私、アドリブきかないし、マジックくらいしか言い訳が思いつかないよ。


 想定外の大ピンチだ。

 冷汗が止まらない。


 どうしよう。

 どうしようどうしようどうしよう。


 あんなに跳ねまわっていた美由宇が、マジックと言う言葉を聞いてから、再びキョトンとフリーズしてしまった。彼女の頭に何個もハテナマークが浮かんでいるように見える。


 どうやら美由宇は想定外のことが起こると、固まってしまう仕様らしい。


 そりゃそうか。

 流石に、マジックって言い訳が強引すぎたかな。子供だましも甚だしい。


 あーあ。

 やってしまった。むしろ言い訳しない方が良かった。これでは、後ろめたいことを隠すために言い訳したことがバレバレではないか。


「にゃにゃにゃにゃにゃにゃ……?」


 また美由宇は混乱しているようで、フリーズは解けたものの左右にコキコキと首を振っている。


 と。


「にゃ……っ!」


 美由宇は急に我に返り、再び元気良くピョンピョンと跳ね始めた。


 な、なんだなんだ……?

 興奮した様子で、みかんの肩を激しく揺さぶる美由宇。


「にゃにゃっ?! マジックにゃ?! すごいにゃ! 壁を直したのもマジックにゃっ?! イリュージョンだにゃっ! みゅうにも教えて欲しいにゃ!」

「お、おう……」


 美由宇に揺さぶられるがままに、無抵抗で身体を前後左右に激しく揺らされる みかん。しっかりしなさいよね。人形みたいになってるよ。まあ、ロボだから人形みたいなものだけれど。


 って、……ん?

 もしかして、もしかしなくても信じた?


 みかんも私と同じタイミングで気づいたようで、突然笑い出した。


「うわはははー! そうなのだー。僕は大魔術師みかんなのだよー。てへぺろ」

「うわー! すごいにゃ! 師匠と呼ばせてもらうにゃ!」

「うむ。くるしゅうないぞよ。みゅう、修行の道は苦しく辛く険しいが、覚悟はできているか? てへぺろ」

「もちろんにゃ! 死んでも師匠について行くにゃ!」


 ………………………………………………………………………………………………………………美由宇がバカでよかった。


 美由宇は、みかんがマジシャンと言うことを完全に信じた様だ。みかんのことを、目をキラキラさせて尊敬の眼差しで見つめている。


 みかんは調子にのって、美由宇の頭の上に手をかざす。


「よーし。でも僕が世紀最大のマジシャンってことは誰にも秘密だ。賢いキミのことだ。言わなくてもわかっているね? てへぺろ」

「もちろんにゃ! みゅうは賢いからわかってるにゃ! みゅうの命をかけて誰にも言わないにゃ! てへぺろ。っにゃ!」

「よろしい。みゅうに幸あらんことを。あーめん。」

「ありがたきお言葉にゃ! あーめんにゃ!」


 私は、どんな茶番を見せつけられているんだ?


 みかんの設定って何か、もう何でもアリだよな。でもまあ、何はともあれ誤魔化せて良かった。


 これから美由宇のストーカー行為が悪化しそうと言う懸念はあるけれど、それはみかんに何とかしてもらうしかない。秘密がバレるよりは全然良い。


 みかんは手を挙げて叫んだ。


「さあ、みゅうよ! 教室に戻るのだ! あははははは」

「わかったにゃ。戻るにゃ! また、放課後に参上するにゃ!」


 ――シュッ!


 美由宇は、一瞬にしてその場から消え去った。


 それは正に忍者の女子版、くノ一のようだ。私からすれば彼女の動きは、それこそマジックだと思うのだけれど、本人は至って普通に振る舞っているから、凄いことをやっていると言う自覚は無いのかな。


「ひゃー。あぶねかったねー。あはは。てへぺろ」

「笑い事じゃないわよ! でも呪文が効かない人なんているのね。驚いた。」


「僕も想定外だったけれど、洗脳も何も考えてない おバカちゃんには無意味みたいだね。いやーびっくりびっくりまいったまいった。てへぺろ」

「おバカちゃんって……人のこと言えないじゃない。でも、みゅうちゃんって、計算では無く感性、衝動で動くタイプみたいね。これからも気を付けないとね。」


 でもまあ何にしても良かったよ。これで少なからず秘密は守られた訳だ。


 さて、そろそろ授業が始まるかな。結局トラブル続きで何もできなかった。


 いや、解決したことが1つだけ。

 萌ちゃんの先輩たちにいじめられると言う悩みは解決されたはず。つまり先輩の標的が、萌ちゃんから私に変わったということだ。うん。その方が私としては何倍も気が楽だ。


 後で萌ちゃんのことを安心させてあげなきゃね。詳細は伏せて伝えなきゃいけないけれど、とりあえず先輩からの呪縛は無くなったことを教えてあげよう。本当のことを言ったら逆に心配させちゃうから、ほんのちょっぴり事実を曲げた形で。


 後は、女子高生お悩み相談ツインズをどうするか、だな。私が相談に乗れることは何なのだろう。勉強を教えるとかだったら何とかなりそうだけれど、そんな悩みだったら塾に通った方が早いよね。

 

 教室の自分の席に戻ると、突然、前の席の萌ちゃんが身体ごと振り返った。椅子の背もたれに胸が乗っかる萌え羨ましい光景だ。


「あかねちゃん、やっぱり双子だけあって、みかんちゃんと仲が良いよね。」

「そ、そうかな?」

「だって、私あかねちゃんが大声出しているところ初めて見たよ!」

「あ、え? そ、そうかな。」


 言われてみて、ハッとした。


 そうだ。

 私は、むやみやたらに大声を出すようなキャラクターではない、なかった。みかんが現れてからと言うもの、学校での私は別人と言うくらいに変わってしまっているのではないだろうか。


 このままでは、学校で少しずつ築き上げた清楚なイメージが、一気に崩れ去ってしまう恐れがある。


 それは、まずい。

 日々の言動に気を付けよう。みかんに振り回されないように、しっかりと自分を保たなければ。慶蘭女子高校学年首席、クラス委員長の名に恥じぬように心掛けなければ。


 意を決している私に向けて隣のみかんが手を差し出す。


「あかねちーん! 消しごみゅかしてー!」

「……ん? どうしたの?」


「あかねちゃんの教科書に絵描いてたら失敗しちまったぜ! かーしーて! てへぺろ」

「だから! やめろって言って……あ、えっと。怒っちゃだめだった。教科書に、いたずら書きしちゃだめだぞー。悪い子ね。こらっ。」

「お、おう……て、へぺろ」


 私は感情を抑えて、みかんの頭を軽く小突いた。そして、私の不自然な言動に首を傾げて不思議な表情をするみかん。


 危ない危ない。

 うっかり、また怒ってしまうところだった。みかんが私の様子を怪訝(けげん)な顔で伺っているけれど、気付かなかったことにしよう。


 みかんに会ってからと言うもの、ちょっと彼女のペースに巻き込まれていた感は否めない。


 もっと言えば自分を見失っていた。私は慶蘭女子の特進クラス1年S組不動の首席、胡桃沢あかねなのだ。


 自信を持たなきゃ。

 みかんが居たって居なくたって私は私なのだ。


 私は選ばれた人間なのだ。


 ――キンコンカンコーン


『じゃーねーバイバーイ』

『帰りにカラオケ行かない?』

『今日も宿題たんまり萎えるわー』


 授業が終わり皆が、そそくさと帰り支度を始めている。


 さて、今度こそ生徒会室に行って生徒会長に相談しなきゃ。私は生徒会で副会長を務めているから、どちらにしても生徒会室には行かなければならないのだ。


「あかねちゃーん! かえろー!」


 あ、そうだ。

 みかんが居るんだっけ。本当は一人で帰ってほしいのだけれど、そう言う訳にもいかないか。


 一人で帰ってくれないかなあ……


「私、生徒会室で作業しなきゃいけないから、先に帰……」

「僕も行く! てへぺろ」


 だよね。

 そうなるよね。


 まあ、今回の相談は、みかんも関係のある話もあるし、ある意味関係者か。


 話が面倒な方向に行きそうで……と言うか、生徒会長に馴れ馴れしくされそうなのが、とても嫌なんだよね。


 生徒会長は、唯一と言って良いくらい私が尊敬できる人。


 先生よりも尊敬できる。

 だから、みかんと生徒会長には繋がりを持って欲しくないのが、正直なところなのだ。


 だけれど。

 ここで連れて行かなければ、もっと面倒なことになりそうだ。そもそも、みかんを1人で家に帰すのも心配だし。別の意味で。


「ああー。うん、いいよ。一緒に生徒会室行こう。だけど、生徒会長は上級生だから、キチンと敬語を使ってね。敬語ね。わかる?」

「あーうんうん。わかるよ。けいごね。まかせとけ! てへぺろ」


 うわー……

 説得力ないわー。

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