第3話 JK百合とか同人誌のネタにしかならないぞ
――にゃ、にゃにゃっにゃっ?!
私は、みかんを美由宇の前に連れて行った。
と、美由宇は、地面を見て両手を前に組みモジモジしだした。美由宇は、みかんの目を見られないようだ。明らかに照れている。それはもう純情乙女のように照れまくりだ。
ちょっとちょっとー。
私と会った時とリアクションが全然違うじゃない。さっきは私の目の前でパンツ丸出しで先輩たちを懲らしめていたじゃないか。
みかんの前では乙女か!
ってくらい美由宇は恥じらいまくりなのであった。
人間って、こんなにも変わるものなのかしら。不思議ね。
とは言え、私だって生徒会長の前に行ったら同じだろうから、気持ちがわからないでもない。好きな人の前では思うように身体が動かないものである。言い切り。
でも、こんなところで立ち止まってモジモジされた状況で、みかんに呪文を唱えさせるわけにもいかない。私は美由宇の肩を抱いて他の場所へと誘導する。
「美由宇ちゃん大丈夫? ちょっと向こうで話そう……ね?」
「にゃ、にゃんでにゃ? みゅうなんて、ここでいいにゃ! みかん様にご足労をおかけする訳には行かないのにゃ!」
みかん様て。
ご足労て。
日本語がとっちらかってるじゃないか。
そもそもどれだけ みかんのことを崇め奉っているのよ。言うて みかんってば、ただのポンコツロボだからね。ボロボロだからね。ズタボロだからね。言わないけれども。
私は直立不動の美由宇を説得する。
ダメなんだってば。ここで呪文を掛けたらみんなに見られちゃうんだってば。だから人目のつかないところに移動しなきゃいけないんだってば。早く呪文を掛けられに人目のないところに行きましょう……なんてことは言える訳がないから言葉を選びに選んで、なるべく自然に美由宇を誘導しなければならないのだった。
最低だな私。
……ダメだ。
なんーにも思いつかない。
そ、そうだ。
「ほ、ほら、ここだと教室に入る人の邪魔になるでしょ? ね、みかん。」
「お、おう。」
「みかん様……!! わかったにゃ! みかん様が言うなら了解にゃ! 行くにゃ! どこにでも付いて良くにゃ!」
良かったー。
って、おい。
みかんの言うことには2つ返事で従うんかい。どこにでも付いて行くって、早くも従順な下僕になってるな。
とは言え、私も後ろめたいところも多大にあるし……そう、美由宇には動いてもらわなければ困るのだ。今すぐに。
まさか、ここで呪文使って、みんなに見られたら困るなんて、あからさまに言えないじゃない。
それにしても美由宇が、アホ……いや、素直な娘で良かった。
私のホッとしている姿を見て、みかんが後ろでニヤニヤと笑っている。まったく、こうなったの誰のせいだと思っているのよ。
「じゃ、じゃあ、授業も始まっちゃうし早く行きましょ」
「にゃ! 別に授業が始まっても問題にゃいにゃ! みかん様が最優先事項にゃ!」
「あ、じゃあ僕も! 授業ブッチしよーぜ! てへぺろ」
「そんなのダメに決まってるでしょ!」
まったく仕方がないのだから。みかんと同じような人格が1人増えてしまったようだ。
そう、何か、みかんと美由宇って似ているのよね。お気楽主義と言うか、何に関しても雑と言うか。後先考えないと言うか。
一緒に居るだけで疲れる。
私たちはズンズンと廊下を突き進む。
「にゃーにゃー。ドコに行くのにゃ?」
「人気のないとこ……いや、お話しやすいところかな」
危ない。
うっかり本音が漏れ出てしまうところだった。
うまく胡麻化したと思ったのだけれど、明らかに美由宇は私のことを疑いの眼差しで見つめている。
「…………」
無言。
こわい。
「ど、どうしたの?」
居たたまれない空気をスルーすることの出来なかった私は、美由宇に問いかけた。
すると、美由宇は八重歯を覗かせて意地悪く微笑むのだった。
「あかねちゃん、みゅうを人気の無いところに引きずり込んでエッチなことしようとしているのにゃ?」
「しないわよ!」
何を考えているんだ何を。
美由宇の脳内はブラックホールか。
「にゃーんだ。みかん様にだったら、どんなことされたってウェルカムなのににゃ。」
「何言ってるの!」
私の即否定を聞いて残念そうにつぶやく美由宇。どんなことって、どんなことよ。危ないなあ。もう。
「僕にだったら? いいよ。キミの好きなことしてあげるよ。てへぺろ」
「ほんとにゃ! みゅう、脱ぐにゃ!」
みかんが美由宇を煽ると、美由宇は即座にブラウスのボタンに手をかけた。と言うかボタンを外しだした。
「やめなさい!」
公衆の面前で何をする気だ。
こんなところでJK百合とか同人誌のネタにしかならないぞ。それに私はBL派だ。
「にゃーんだ。つまらないにゃ。みかん様、後で2人きりで続きしようにゃ」
「ふふっ。わかったよ。キミは困ったちゃんだな。てへぺろ」
何キャラよ。
大体、お互いの自己紹介も終わってないのにコンビが出来上がっちゃっているではないか。
「何バカなことを言っているのよ。先生に怒られるわよ」
「にゃんと! 障害のある恋ほど燃えるものはないにゃ!」
キリがない。
もう、放っておこう。
そして、私たちは歩みを進め廊下の端のスペースに集まった。
うん。
ここだったら死角になるし、人目がつかない。完璧だ。
「ここら辺でいいかな。みかん? こちらの女の娘が、A組の飛田万……」
「自分で自己紹介できるにゃ! みかん様! みゅうの名前は、飛田…」
「れふぇどうしぇふぇぶー! てへぺろ」
私が美由宇の紹介をしようとしたら、美由宇に遮られ、美由宇が自己紹介しようとしたら、みかんが間髪入れずに美由宇の言葉を遮った。もう、ややこしいなあ。
……って、え?
もしかして今、呪文唱えた?!?!
早いでしょ。もうちょっと挨拶とか会話を楽しむとか無い訳?!
既に、みかんの指先からは金色の光線が発射されている。
もう誰も止められない。
出してしまったものは引っ込められない。
関西人で言う、吐いたつばは飲まんとけよ。と言うことだ。知らんけど。
唱えてしまったものは仕方がない。もう誰も止められないし止まらない。
そう、みかんの呪文によって、金色の光がボウっと美由宇を包み込んだ。そうこれは、お母さん、お父さんに包みこまれた光と同じものだ。
この流れだと、これからライブアップデートと言う名の洗脳フェーズに入って、記憶消去がつつがなく行われる訳だ。
美由宇には申し訳ないけれど、秘密を知られる訳にはいかない。みかんがロボである、呪文を唱えることが出来ると言う根も葉もある噂を広げる訳にはいかない。
もちろん、それは最終的に私が腐女子であると言う秘密にも繋がっている訳だけれど。背に腹は代えられないのだ。ごめんね、美由宇ちゃん。
私は、成績優秀、品行方正、皆のお手本となるような優等生でなければならないのだ。そのために、みかんの無茶なお願いを受け入れているのだ。まあ、お願いと言うか半ば脅迫なのだけれどね。
と思っている間に、金色の光に包み込まれた美由宇の目はうつろになり、脱力し、その場に立ち尽くした。順調に洗脳が行われているようだ。
「あかねちゃん、これでパーペキだね! てへぺろ」
「あー、うん。そうね」
みかんは私に向かって嬉しそうに無邪気にVサインを投げかける。罪悪感ってものが全くない。まあ、ロボだから仕方のないことなのだけれど。
これで、美由宇の処置が行われたことによって秘密が守られる。美由宇には悪いけれど……うん、仕方がないのだ。
さて、美由宇はどうしているか。
お父さん、お母さんと同じように、バタッと地面に倒れ……
バタッと地面に倒れ……
倒れ……
倒れ……てない!
え、どういうこと?!




