表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
62/159

51

 背の高い男性と、おそらくはその妻なのであろう女性。その女性より若く見える少女は、二人の娘だろうか。

 三人がこちらを見て、ひそひそと何かを話しているのが分かる。結構な距離があるし、妻であろう女性なんかは扇で口元を隠しているので、余計に何を言っているのか分からない。

 けれど、三人の目は、人を馬鹿にして嗤う人間のそれそのものだった。


 貴族気取りの格好をしている平民のわたしを笑っているのか、珍しく社交界に出てきたディルミックを笑っているのか。

 ともあれ、仮面を付けたディルミックは目立つようで、見ればすぐに『あの』ディルミック=カノルーヴァだと分かってしまうのだろう。


 正直、気分は良くない。


 でも、わたしはあの三人がどんな爵位でどんな家の人間なのか知らない。ここに来ているということは、おそらくこのホテルに泊まる客だろうから、カノルーヴァ家よりも下の爵位なんだろうけど。

 義叔母様からは、とにかく何があっても睨みつけたり真っ向から反論するようなことは駄目だときつく言われている。カノルーヴァ家より下の爵位なら、ディルミックならどうにでもできるだろうが、無駄にことを荒立てるな、と。


 何より、わたしの手を握ったままのディルミックが、「見るな」と言っているような気がした。

 口を開いたわけでもないし、仮面をしているからアイコンタクトが出来たわけでもないけど。ただ、きゅっと握り返された手から、そう伝わったような気がしたのだ。

 多分、ディルミックはわたしがここで何かやらかして向こうの怒りを買うより、わたしがディルミックに対してなんの嫌悪感も抱いていないことがバレるのが嫌なんだろう。今のこの国で、それをやらかしたら大変なことになる――らしい。


 いまいち実感が沸かないのだが、ディルミックがしてほしくないというのであれば、する必要がない。

 わたしは薄く笑って目礼をする。笑顔だと受け取られるほど口角を上げられたか自信はないが。

 わたしは平民出身だけど、カノルーヴァ家の嫁なので、必要以上にへりくだることはない、と言われている。なので目礼に止めておく。

 本当は会釈をしたいところだが、グラベイン貴族に会釈の文化はないらしい。爵位や地位が上の人にはカテーシー、目下には礼そのものをあまりしないらしい。わたしは目礼くらいをしておけば角が立たないだろう、と義叔母様が言っていた。


 ここでわたしが発言していいのか迷いながらも、ディルミックに「もう行こう」というアイコンタクトを送る。すぐに気が付いてくれたようで、ディルミックはわたしの手を引き、ホテルへと歩いていく。

 しかし、あんな視線がいくつもあるパーティーに赴かないと行けないのか……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ