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 いい買い物ができたと、わたしたちは店を後にする。

 新しく買った文具を使うの、わくわくするなあ。ディルミックになんて手紙を書こう。ボードゲームのお誘い?

 ああ、でも教本が届いて、グラベイン文字をある程度勉強してからじゃないと手紙は書けないか。ボードゲームはそれより先に誘ってしまいたくなるからまた別のことを書かないとだな。

 外に出ても日はまだ高い。帰っても夕食まですることがないだろう。もう少し街を探索したいところだ。


「ねえミルリ、グラベインのお菓子って、どんなものがあるの? ハーブティーにあうようなものがいいわ」


 マルルセーヌはお茶大国と言われるほどお茶が身近にある国だ。最近は紅茶が流行りだが、昔から根強い人気があるのはハーブティー。好きな人のために茶葉をブレンドし、恋人好みのお茶を入れられて一人前、なんて言われるような国である。

 正直わたしは茶葉の違いはともかく、ブレンドなんてことはできないまま成長してしまったわけだが。この茶葉は好きでこの茶葉は嫌い、みたいなのは分かるけど。

 ブレンドはできないとはいえ、お茶を入れるのは上手い自信がある。ブレンドもできない、お茶をまともに入れることもできない、では行き遅れ確定なのだ。


 折角ディルミックにお茶を入れる設備をねだったのだから、最初はディルミックとお茶を飲むのも悪くない。お土産を買うついでに、その時のお茶請けのために、お菓子の情報を仕入れておきたいと思ったのだが。


「グラベインはあまり製菓の文化がありませんので……。しいて言えばジャムでしょうか?」


 なん……だと……。お菓子がない!? うそでしょ。えっないの?

 あまりの衝撃にわたしは固まってしまう。お菓子なんて、数に差はあれど、どこの国にでもあるものでは……?


 ミルリの説明曰く。

 かつて、砂糖が貴族間のみで流通していた時代、貴族ではお菓子を食べることがステータスになっていたそうだ。なので、たとえ甘いものが嫌いでも、三食お菓子、というのが当たり前の生活を送っていたとか。

 当然、そんな生活を送れば病気にもなる。貴族のほとんどが糖尿病やら虫歯やらで体を壊し、時には命を落とすほどの状態になっていたらしい。

 それでもやはり、高級な砂糖を三食分贅沢に使える、というのはステータス。だから、見栄を張る貴族ほど食生活を改めず。


 で、結果としては砂糖の流通の限定。もちろん、ゼロになったり闇取引がなくなったりしたわけではないのだが、表立っては流通がほとんどなくなってしまう。

 そして、つい数十年前まで、砂糖の流通には制限があったため、すっかりお菓子文化は廃れたらしい。


 いや、なんていうか……極端だな!?

 ディルミックは、かの魔王がグラベイン出身だから、他の国より美醜に厳しい、なんて言っていたけれど、これ絶対国民性でしょ。極端が過ぎるんだよ。


 毒見の件があるから貰ってくれるかは分からないけど、ディルミックにお土産でお菓子かなにか、簡単なものでも、と思ったけれど、そもそも買うものがなかった。

 しかたないので、わたしが甘いものを食べたいと思ったのであろうミルリに勧められたパン屋で、綺麗な瓶に入ったジャムを一つ購入。


 しかしお菓子ないのかあ。わたしが作れたらよかったんだけど……。

 わたしは割とおおざっぱなので、お菓子作りとは相性が悪い。料理はできるので、食べてまずいものは出来上がらないが、見た目が悪かったり、食感が最悪だったりするのだ。自分が食べる分にはいいが、誰かに食べさせるようなものではない。


 予想外のことにショックを受けつつも、まだ夕焼けには遠い空の下、わたしは街を歩いた。

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