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 夜になる頃には、そりゃあもうへろへろだった。マッサージとか、エステとか、そういうのはやったらリフレッシュ出来るものだと思っていたのだが、次はあれ、その次はこれ、と矢継ぎ早にやられると疲れる……というか目が回る。最終的には緊張していたのが馬鹿みたいになってきて、いい感じに力が抜けた。

 明日は明日で緊張すると思うが、今晩、緊張して眠れなくなる……ということはなさそうだった。

 部屋まで案内してくれた王城のメイドと分かれ、割り当てられた部屋に一人になると、さっさと寝てしまおうとベッドに向かう。


 そのとき、背後で、カチャ、と音がした。扉が開くような音ではなくて……。

 なんだろう、と振り返ってみると、室内からは特別、変化は見られない。余計に不思議だ。扉に近付き、軽く観察してみる。

 おかしなところは何も――。


「……もしかして、鍵?」


 ここ一年、ディルミックの屋敷にきてからは基本、部屋に鍵をかける、ということをしてこなかったので、すぐにはピンと来なかった。

 試しにドアノブをひねって扉を開けようとしてみるが、やっぱりというか、扉が開くことはない。部屋の中を見回してみる。ベランダへと繋がるはずの大窓はあったが、不思議なことに中からは鍵がないと開けられないようになっている。

 なんとかそこから覗けばどうやらここは結構上の階らしい。三階か、四階か。ロープか何かがあれば降りられるだろうが、失敗したら大怪我だ。


 ――逃げるな、と、暗に言っているのだろうか。


 ここまで来たら王族側からしても困るのだろう。まあ、分かるよ、わたしは貴族家の生まれじゃないし、ましてやグラベイン人じゃないから、もしここで逃げられたらそう簡単に見つけられない。

 ディルミックが世間でどういう目で見られているのかは、婚約パーティーのときにも、一般公開のときにも、嫌と言うほど思い知らされた。

 だから、これは王族側としてはある意味自然な行動なんだろう。


 ――最高に腹が立つけど!

 わたしをなんだと思っているのだ。この場で逃げるわけがないし、そもそも結婚式を挙げさせてもらえるのはむしろありがたいと思っているのに。

 まあ、とはいえわたしなんかが王族に抗議できるわけもない。変に何か言って、明日の結婚式に響いたら、それこそ困る。


 別に鍵をかけられただけ、明日には普通に出られるはず。

 だったらわたしのすることは一つ。おとなしく寝ることだけである。

 わたしは苛立ちを感じながらも、ベッドにもぐりこんだ。

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