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「義叔母様、どうしてここに?」


 びっくりしすぎて頭が追い付かないわたしを他所に、義叔母様は扇を広げた。口元を隠しているが、呆れている様子が隠せていない。いや、隠せていないというか、わざと見せているのだろう。


「あの子から何も聞いていないのかしら」


 あの子――ディルミックのことか。

 聞いたような聞いていないような……。


「聞いてま、――す。聞きました」


 聞いていない、と言おうとして、ギリギリのところでそう言えばそう言う話を聞いていたかもしれない、というのを思い出した。

 グラベインの結婚式前日、登城後の準備は、母親が付きそうものらしい。

 でも、わたしは母親がいないし、見つかったとしても平民なので、準備を手伝えるわけがない。

 ということで、代役を義叔母様に頼んだ、という話をしていた気がする。緊張ですっぽぬけていた。いや、していたな、絶対した。王都に来るまでの馬車の中で聞いたわ。なんなら王都に来る前にも軽くその話を聞いたはず。


 うっかりというレベルではない。緊張しすぎだ。


「全く……ロディナさん。耳を少しお貸しなさい」


 義叔母様はわたしに近付くと、耳元で小さく内緒話をする。扇は完全に王城のメイド側から隠すようにさえぎっている。この距離なら、聞こうと思えば聞こえると思うが、「聞いたことは他言無用、忘れなさい」というアピールなのだろう。


「グラベインで結婚式を挙げるというのは非常にまれなことです。前回、いつ挙げられたかというのを、正確に思い出せる貴族はそうそういません」


 ひそひそと、小さな声がわたしの耳に入る。


「よって、多少ミスをしたところで気が付く貴族はほぼいませんし、今回立会人のテルセドリッド王子も、立会人を務めるのは初のことです。王子も気が付かないようなミスをなじる貴族はいません。――後は分かりますね?」


 そんなに緊張しなくても、多少ミスしたところで誰も責めない。義叔母様はそう言いたいのだろう。彼女なりの励ましだ。

 むしろ、些細なミスばかりに意識を向けて、大きなミスをやらかすほうが問題だ。


「ただし、わたくしは中途半端な式を許しません。やるなら完璧になさい」


 そう言ったかと思うと、義叔母様はすすす、とわたしから離れた。

 全く知らないどこかの貴族ではなく、義叔母様が採点基準だと思えば、いつものレッスンの様に思える。いや、流石にレッスンと同等とまではいかないが、心はかなり軽くなった。


「さて、いつまでもがちがちに緊張している暇はありませんよ」


 ぱちり、と扇を閉じて、義叔母様はミルリや王城のメイドたちにあれこれ指示を出した。

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