120
うきうきとしながらチェランジを始め、現在四戦目。二勝一敗で、ディルミックの方が勝っている。わたしもディルミックも、駒の動きを確認しつつの初心者なのだが、ディルミックの方が若干強いようで、今もわたしが押されている。
ディルミックは既にほとんどの駒の動きを覚えたようだし、やっぱこういう戦略系のボードゲームは男性の方が強いんだろうか。
でも、こうしてたわいない話をしながら遊んでいるだけで楽しいので、これで十分ではある。勝てたらもっと楽しいけど、負けたら負けたで、つまらないわけじゃない。
負けて悔しくないわけでもないのだが。
「むむむ……」
わたしはお茶請けに、と用意されたハムをフォークでつまみながらうなった。わたしの好きな茶葉はお肉もあうのだ。お茶会って感じでわたしが出すことはあんまりないんだけど(というか茶葉自体好き嫌いが分かれる味なので、他人にふるまうときには滅多に使わない)、今から急にクッキーを出せるわけじゃないので。
この駒を動かすと次に取られるし、あっちの駒を取れたらいいんだけど階級が足りないし……なんて考えていると、もう詰んでいるような気がしてきた。いや、まだ挽回出来るはず……。
しかし、どれだけ考え込んでも活路は見いだせず、わたしはフォークを置くと同時に降参した。
「ディルミック強いですねえ……。うーん、次は勝ちます!」
「是非頑張ってくれ」
うぬぬ、勝者の余裕っぽくてやっぱちょっと悔しい。
駒を並べ直している際に、ふと、ディルミックの目元にまたクマが出来ているのに気が付く。
「……もしかして、ディルミックが最近ずっと徹夜だったのって、今日の為だったりしますか?」
「…………」
ディルミックは何も言わない。でも、雰囲気からしてこれは無言の肯定だろう。
じっと彼を見つめていると、少しして、降参したように「すまなかった」と言った。
「どうしても、今日祝いたかったんだ。だから、絶対に空けようと思って……」
「もう! 根詰め過ぎたら駄目じゃないですか」
祝ってくれるのは嬉しいし、今日だって最高の誕生日だけれど、こうして無理をしてほしいわけじゃない。
「でも、君は当日に僕を祝ってくれたから。……僕が、どれだけ嬉しかったことか」
「ディルミック……」
あの日のディルミックを思い出せば、彼が喜んだことも分かるし、だからこそわたしを喜ばせたかったというのも理解できる。
だからこそ、これ以上文句を言うのは流石にちょっと違うのかもしれない。
でも、無理はしてほしくないわけで。
「……来年は、無理しないでくださいね。当日じゃなくたって、祝ってくれるだけで嬉しいんですから」
これ以上お小言を言うのはやめにしよう。
そう言うつもりで言えば、「『来年』も、絶対に祝わせてくれ」と破顔した。




