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 わたしの中では、家族は一緒にご飯を食べるもの、という固定観念がある。

 アニメや漫画、ドラマでは、大抵『仲のいい家族』というものはそろって一緒にご飯を食べているからだ。それをイメージしてしまうと、ご飯は一緒に食べるもの、となってしまう。

 まあ、わたし自身、ご飯を誰かと一緒に食べたいっていう気持ちが強いからなんだけど。だからマナーを学ぶのは苦じゃない。ミルリにはディルミックに披露してから、なんて言ったけれど、機会があるなら学んで損はないと思う。


 もしディルミックが「一緒にご飯を食べたくない」と言えばミルリあたりと一緒に食べるつもりでいる。

 でも、そうしたらディルミックが本格的にハブになってしまって、罪悪感でちょっと居心地が悪くなりそうなので。


「あのですね、ディルミック。いい機会だから言いますけど、わたしは別にあなたの顔を気持ち悪いと思ったことなんて――うわっ!」


 ぐい! と思い切り腕を引っ張られ、そのままディルミックの腕の中によろめいてしまう。部屋の中へ引き入られたようで、背後で乱暴に扉が閉まる音がした。

 ドン、と扉を背に、思い切り押し付けられた。

 壁ドンである。

 ただし、見上げたわたしの眼前にあるのは仮面なので、ときめく余裕はない。普通に怖い。


「それは駄目だ」


 先ほどまでの、どこか浮ついた声とは全然違う。固くて、冷たく、低い声でディルミックが言葉を吐き出す。


「君がお金欲しさに、僕に気に入られようと行動するのは分かる。だが、どんなお世辞を言おうと、僕の顔を肯定するのだけは駄目だ」


 怒りにも似た感情がにじむ声。なんでここまで怒られるか、分からない。

 わたしは何か、知らぬ間に地雷を踏んだのだろうか。

 知らぬ間に、なんて話じゃない。今まで顔を否定され続けてきた人間に、肯定の言葉を差し伸べたところで、そう簡単に喜んでもらえるわけがない。

 そんなことも、わたしは分かっていなかったのか。


 そう――思ったが。


「君のためを思って言っているんだ、ロディナ」


 ディルミックの声は、少し震えていた。


「美男子は、ある人物を基準にして決まっている。……流石の君にも、分かるよな?」


「え、英雄……世界を、救った、英雄が基準」


「そうだ」


 子供が楽しむ絵本から、大人が嗜む小説まで。いろいろな媒体を持って、世界中の人から尊敬され、愛される英雄。

 彼の容貌こそが『美』であり、彼の生きざまこそが、目標にするべき指針である。

 子供の頃からそう教わり、わたしたちの身近な言葉にすら彼の偉業は溶け込んでいる。


「ならば、その逆は、分かるな」


「逆……逆?」


 美しいの反対は醜い。

 それじゃあ、英雄の反対は?


「醜男というのはな、世界を恐怖に陥れた魔王を基準に、そう言うのだよ」


 そして、ディルミックは、文献に残る魔王の外見に瓜二つなのだと――彼は言った。

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