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ホワイト・ローゼス(シナリオ)

作者: 弘せりえ

      あらすじ




画家のフェイブは舞台俳優の

ミリガンとつきあっている。

絵を描きながら、

なかなか詩神ミューズ

出会えずに悩んでいたフェイブは、

ある日、ミリガンの妻、ローゼに出会う。






  人  物




フェイブ(31)画家・兼ウェイトレス


ミリガン(30)舞台俳優


ローゼ(28)ミリガンの妻


ハービス(53)フェイブ・ミリガンの共通の知り合い






○街・全景(朝)


   レンガ造りの家々。


   ベランダには色とりどりの

鉢植えが置かれている。


   石畳の舗道を果物売りの荷車が、

カタカタと音を立てて通っている。




○ミリガンの家・キッチン・中(朝)


   朝食の準備をしている

ローゼ(28)の後ろ姿。

   頭には薄い茶色のスカーフを巻いている。


   寝起きのミリガン(30)が入って来て、

   栗色の豊かな髪をくしゃくしゃ、

と手でとかして、テーブルにつく。


   振り向くローゼ。

全体的に淡い色彩の風貌。



ローゼ「あら、早いお目覚めね」


   

ミリガン、あくびをしながらうなずく。



ミリガン「稽古の前に、1件、用があってね」



ローゼ「・・・資金の工面?」



ミリガン「まぁ、そういったとこだ。

心配はいらないよ、

   今までだって何とかやってきたし」


   

ローゼ、朝食をテーブルに運んでくる。

   その表情が曇っている。



ミリガン「大丈夫だよ、ローゼ、心配しないで」


   

ローゼ、黙ってうなずくと、

ミリガンの隣に座る。

   ローゼの頭に手を触れようとする

ミリガンの手を、やんわり払うローゼ。



ローゼ「わかったわ、ミリガン。愛してる」




○フェイブのアパート・中


   古いアパート。


   いろんな絵が壁に立てかけてある部屋で、

   キャンバスに向かうフェイブ(31)。   


   豊かな黒髪に、白い肌。



ハービスの声「また、鍵がかかってなかったわよ、フェイブ!」


   

驚いてフェイブが振り向くと、

ハービス(53)が、

   ワイン片手に部屋の入り口に立っている。

   ケバケバしい化粧と、いかつい体格、

   一見してオカマとわかる。



フェイブ「やだ、朝から幽霊かと思ったわ。

どうしたの、そのワイン?」


   

ハービス、低い声でおおらかに笑うと、

   フェイブのそばに座る。



ハービス「昨夜の客が置いて行ったのさ。

  ところで朝って、もう11時よ。

  そろそろアンタの男が来る頃なんじゃない?」



フェイブ「え?」



ハービス「にぶい子だね、今日は世間の支払日だから、

   早い時間に金を無心しにくるのは

いつものことじゃない」



フェイブ「あ、そうなのか、・・・でも無心って、そんな・・・」


   

ハービス、ワインを開けると、

グラスを探し当て、

   赤ワインを二人分注ぐ。



ハービス「おバカさん、あいつに貢いでんだって、

わかってんだろ? 

   そりゃ、多少は色っぽい男だけどさ、

女房のいる男だよ。バカバカしい」


   

フェイブはワインを受け取ると、

気まずそうに、一口なめる。



ハービス「グビッといきなよ。

飲んだ勢いでベッドにもぐりこんで、

    金せびられて、せいぜい芸のこやしにするんだね。

   で、最近どうなんだい?」

 

   

ハービス、フェイブのキャンバスを覗き込む。

  途中まで描かれた、女性像の輪郭。



ハービス「パッとしないねぇ」


   

フェイブ、溜息をつく。



フェイブ「ウェイトレスのバイトに時間を

取られる上に・・・見つからないのよ」


   

 フェイブ、ワインをぐいっと飲む。



ハービス「・・・何が?」



フェイブ「詩ミュー神ズが・・・」


   

ハービス、おおらかに笑う。



ハービス「そいつは探すもんじゃないよ、

アンタがホンモノなら、

  向こうから飛び込んでくるもんさ」


  




○フェイブの部屋・中


   空になったワインボトルが

床に転がっている。


   ハービスの姿はなく、再びキャンバスに

むかっているフェイブ。

   と、ノックの音がする。



フェイブ「・・・ミリガン?」


   

フェイブ、酔っぱらった足取りで、

玄関のドアを開ける。

    そこに立っているのはミリガン。

                                                                 


                 

ミリガン「何? 昼間っから酔っ払い?」



                  

フェイブ「朝、ハービスがワイン持ってきてね・・・」


                      

               

    ミリガン、玄関口で、フェイブの体を抱きしめ、

    唇にキスをする。


                  

ミリガン「あのオヤジ、何か言ってた?」


                      

   フェイブ、ふっと笑って首をふる。


   ミリガン、フェイブを軽々と抱き上げると、

   室内に入り、寝室に向かう。



ミリガン「会いたかったよ、フェイブ」








○同・寝室


   ベッドの中で、タバコを吸うミリガン。



フェイブ「・・・今から、稽古なの?」


   

   ミリガン、フェイブを引き寄せる。



ミリガン「ずっとこうしていたいけど、

   行かなくちゃ。

フェイブ、今に見ていてくれ、

   オレ は世界一の舞台をやってみせるから」


                

    ミリガンの目は少年のように輝き、

それを見ているフェイブの目にも

    夢の力が伝わって来て、

輝き始める。




○フェイブの部屋・中(夕方)


   キャンバスに向かうフェイブ。

朝から殆ど絵が進んでいない。


   筆を置いて、両腕で自分自身を 

    抱きしめるフェイブ。

椅子に腰かけたまま、

   うつむいて目を閉じる。




○フェイブの部屋・中(夜)


      キャンバスの前に

      突っ伏したままのフェイブ。


                     


     ガタガタと窓が風に

     揺さぶられて鳴っている。


     それに混じって、

     弱々しく玄関をノックする音。


     フェイブ、うっすら目を開ける。


     時間を見ると、11時。


     フェイブ、室内の灯りをつけると、

     ゆっくり玄関に向かう。



フェイブ「どちらさま・・・?」



                     

     しばらくして、



ローゼの声「・・・ミリガンの妻です。

    夜分遅くに申し訳ありません」




○フェイブのアパートのリビング(夜)



      突っ立ったままのローゼに、

     ソファをすすめるフェイブ。


                     


     ローゼ、遠慮がちに腰かける。


     フェイブ、ローゼの顔辺りを

     まじまじと見つめる。


                     

     ローゼ、ハッとして、

     スカーフがずれていることに気付く。

そして、気まずそうに茶色のスカーフをはずす。


     下から現れる、見事な白髪。



ローゼ「・・・生まれつきなんです・・・あの人は、

    隠す必要はないって言うんですけれど・・・」


                     

     ローゼ、スカーフを丸めてカバンにしまうと、

かわりに中から茶封筒を取り出す。


     それを見て、驚くフェイブ。



ローゼ「・・・これをお返しに参りました」


                     

     フェイブ、目をそらす。



フェイブ「・・・その必要はないわ」



     ローゼ、柔らかく微笑むと、

     封筒をテーブルの上に置く。



ローゼ「・・・どうか私の願いを

    ひとつだけ聞いてください」



フェイブ「・・・」 


ローゼ「・・・あの人の夢だけは、

    私が支えて行きたいのです」


                     

      ローゼの真っすぐな視線、強い意志の力。

その静かな力強さに、目を見開くフェイブ。


                     

      ローゼ、立ちあがると、フェイブに頭を下げ、

リビングを後にする。

 


      フェイブ、立ちあがり、その姿を見つめる。


      最後に横顔のまま微笑んで、

      去っていくローゼ。


      真っ白い髪が肩にかかる姿が、

      神々しいまでに光り輝いている。

  


      目を細めて、その場に立ち尽くすフェイブ。




○フェイブの部屋(朝)


                      

      ドアからひょっこり顔を

      のぞかせるハービス。



ハービス「フェイブ、また開いてたわよー」


                     

      ハービス、ソファで眠っている

      フェイブに気付く。



ハービス「全く、どこまで不用心な

     子なんだろうね」


                     

     そうつぶやきながら、手に持っていた

     果物の袋をテーブルに置く。



ハービス「朝ごはんよー」


                      

     ハービス、袋の中から、リンゴを

     1個取り出すと、服で拭きながら、

ふとフェイブのキャンバスに目を移す。


     息を飲むハービス。


     キャンバスには、

     白い色彩でこの世のものとは思えない

神々しい女性が描かれている。

     やさしく微笑む横顔、強い意志の瞳。

     金色の髪は徐々に白くなり、

     白い背景に溶け込んでいる。

     その白い背景に淡く描かれた、

     白いバラの花々。


      白いバラと白い背景、淡い色彩の中で、 

     微笑む、聖母マリア。



ハービス「・・・とうとう見つけたのね・・・」


                     

      ハービス、幸せそうに眠り込んでいる

      フェイブの髪をそっとなでると、

リンゴをそばに置き、部屋を後にした。




                        了



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