第十五話 黒の聖女は巨木へ向かう
その後アリス達は無事ビディたちと合流しエルダバウムへと向かう
因みに襲ってきたエルフ男たちは一応の治療は終わっているが全員目覚めていないために森で放置である
まあ操られていたとはいえ女性パーティを襲ってくる輩など人権もないので治療してもらっただけでも監査してほしいもの、とか言ったら何かかわいそうなものを見る視線を受けたアリスであった。
「貴女帰らなくていいの?」
「大丈夫よ、明日の朝に帰ってれば問題ないし」
「そかそか」
シェクタが聞いてくるのに答えるとなぜか上機嫌になるビディであった
「それはそうとエルダバウムに行けってことだけど大丈夫なの?」
それをあえて無視しルクシアに聞き直す。
因みにルクシアは今隊列の先頭をエルフの少女エヴァを連れながら歩いている。
「ええ、問題なく行けそうよ。やっぱり操られてたみたいで少し方向が引き離されてるけれどあと三時間ほど歩けばつくんじゃないかしら」
迷いなく答えるルクシア。
彼女の能力は精霊召喚
しかし召喚される事象は同じでも彼女の魂に紐づけされた他世界の自然精霊を召喚するのである
もっとも彼女の召喚する者たちは本来上位自然霊の存在するところでは制限がかかる。
だが流石にイスラフィーネの命で来た彼女には特例がかかり彼女の召喚する精霊は最上位権限を得ているようでこうやって召喚しても世界に拒絶されることはないようであった。
まあこの世界が本来のバランスを欠いていることが一因でもあるんだけどね。
大企業が経営が傾いて外国資本の流入と共に外人社長が来たようなものである
とまあそんなことなので彼女の召喚している樹木霊ヴィダが先行道案内をしているのであった。
もっともエルフ少女には見えていないようなのであえて存在をばらしたりはしていないけれど何かしらは感じているようでたまにヴィダの顕現している方角を見ているのは彼女にもある程度素質があるのかもしれない
「でもエルダバウムに向かえってだけの指定なのね」
「ルクシアにそれだけ伝えてって言われたんだけど」
言ってくるのはシェクタである。
アリスもそれだけしか聞いていないので答えようがない
「エルダバウムは神聖な樹なので通常私たちエルフでも触れることはできないのですが」
エヴァが言う
神樹であるエルダバウムは触れることも厳しく規制されているらしい。
基本的には樹神官が世話をしエルダの巫女と呼ばれる特別な位を持つ巫女でなければ触れることができないとのことだ
「そんなところに行っても意味あるの?」
「多分大丈夫よ?触れるほどじゃなくてもある程度の近さに行ければ問題ないし」
シェクタが聞き返すがルクシアは何も問題ないという。
そんなこんなで数時間歩く
「そろそろっぽいわね?」
「とまれ!、お前たち!」
ルクシアが言うと同時に声が響く
進行方向に突然女が立ちその後ろには弓を抱えた数名の姿も見える
「これより奥はエルフの土地、何用で参られた?」
「私たちは冒険者リーリングアイシェ。この子、エヴァをこちらに戻す依頼を受けてやってきたわ」
冒険者タグを見せながら言うルクシア。
因みにこういったのはアリスにタグがないせいである。
本来は個人ごとに名乗り見せるものではあるがエルフという別コミュニティではタグはあってもなくても身分をある程度保証するものでしかないので一括してパーティで名乗っているのである
「貴公らが・・?」
「不服?」
「いえ噂では三人組と聞いていたもので」
「ヘルプを頼むこともあります。で、どうすればいいの?この子を預けるだけでいい?私としては一度噂に名高いエルダバウムを一目見たいのだけれど」
「どうぞお越しください、『少女を連れた四人組』の来訪は姫巫女様が歓迎の意を示しておられます」
そのまま問題もなくエルフ領内へと入っていく一行
「不思議だね?」
「どうしたの?」
「いや、すんなり入れてくれるなんて思ってなかったから」
アリスのつぶやきに反応したシェクタに返事をする
排他的であるエルフは本来人族をあまり領域内、しかもエルダバウムのそばにまで入れることなどはしない。それはたとえ王族が直接外交使節としてきたところで変わることが無いと聞いている
「お姉さま方を姫巫女様がお認めになったからでは?」
そういうのは少し前を歩いていたエヴァである
「どういうこと?」
「姫巫女さまはエルダバウムの意思を直接うかがうことができるといいます。何やらお告げがあったのではないでしょうか?」
「樹に意思があるんだ?」
「そりゃあるわよ。ただ高位精霊との意思疎通が普通は難しいだけよね」
アリスの呟きに答えるのはルクシア
まあ神様の存在すら疑えない今の状態だし高位精霊を使役できるルクシアにとっては確かに今更なんだろうね。
でもいまいちよくわからん感覚とは思うんだけどね




