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第十二話 黒の聖女は飛んでくる

少し時間は巻き戻る


ブリジット、シェクタ、ルクシアの三人に護衛対象、エルフのエヴァを銜えた四人はエルダ大森林の中を歩いていた。目的としてはもう半日ほど歩けばエルフの領域に重なるかといったところである。

彼らの領域内に入ればおそらく勝手に見つけてくれるはずなのでただひたすらまっすぐに目指せばいいという単純な作戦であった。


「エヴァのおかげといえば有難いんだけどやっぱり道に迷わずに森を進めるっていいわよね」


「ああ、ルクシアに頼らなくてもいいからな」


「あんたたち、あたしの道案内になんか文句でもあったの?」


軽口をたたきながら歩みを進める一行であった。


「ルクシアさんの道案内ってどんなのなんですか?」


その会話を聞きエヴァが聞いてくる


「うーん、説明しづらいわね。木に道を尋ねる感じね」


「木にですか?」


「そ、例えば今なんて簡単よね。エルダバウムに行きたいんだけどどっちに行けばいい?って聞くだけ」


「エルフなんですか?」


「いいえ。見てのとおりよ。貴女たちエルフほど感覚的に木々との意思疎通なんてできないもの」


エルフは世界が狭間の境界を生む前からいた四人種のうちの一つ


最も数の多い人間(プレーン)、樹木精霊の加護を持ち魔力適性値の高いことで知られるエルフ、大地精霊の加護を持ち頑強な肉体と器用さで知られるドワーフ、水精霊の加護を持つニンフである。


彼ら四種族は女神イスラフィーネの祝福を受け平和に暮らしていた。

しかし300年ほど前とてつもない異変が起きる


境界の出現である


最初は大陸の半分を覆う今のような規模ではなかった。

せいぜい10分の1とでもいったレベル

しかし徐々に規模を拡大し今に至る。


その間に人族、エルフ、ドワーフなどの種族は住処を半減させられながらもなんとか団結し今につながっている。

但しニンフは内陸側の住人たちはほぼ全滅といってもいい状態にまでなっている。

水属性であるがゆえにその水場を守るといった意識が強く逃げるという選択肢をさほど持てなかったのが要因であった


もっとも逃れた人たちも多く他種族の街に入った人々もまた多い。

そこで結婚し子をなした人々も


しかし混血は加護が失われる。

加護とは血統(ちすじ)っと霊統(ひすじ)が揃ってこそ発現するものである。


他種族の血が入ることで混血となり霊統もまた本来のものが失われるため姿は維持できても加護を持たぬものが多くなるため能力は数段堕ちるといったことも多くなる。


人種においては混血によるデメリットはさほどないがエルフ、ドワーフとの混血はその種族能力が両方失われるなど能力面のデメリットは計り知れないものがある


もっとも稀にではあるが混血も数代を経ると先祖返りのように遺伝型、系統型も合致する場合がある

その場合は姿は兎も角能力は戻ったりもする。


人の姿でエルフの能力を持つものなどである。

混血を認める人種だからこそそんなものが時たま出てくるというのは広く知られた常識であるため

エヴァはルクシアもそうではないかと聞いたのであった。


しかし帰ってきた答えは否

冒険者なので何かあるのだろう。エヴァはそれ以上の質問をしなかった


「ビディ。左」


「わかってる、わ」


ルクシアの言葉に左腕を構えるブリジット。同時に金属音が響き彼女の左腕に装備した盾に何かが当たる


驚くエヴァを背に庇うように立つシェクタ。

すぐさま何かをシェクタが放ったように見えたがエヴァには視認できなかった

少しすると三人の警戒している方角から一人の影が現れる


金とも銀とも見えるようなプラチナヘアーを短く刈り上げた姿に長い耳

植物繊維っぽい服の上からは行動を阻害しないような革鎧

身長は180以上だが全体的には無駄な筋肉はなく細身の印象

そして手にはその体格からは小さいと思えてしまうようなショートボウを持っている


「エルフがいきなり攻撃ってひどいことするじゃない?」


「すまないな、同胞の子供を連れている人族というものにいい印象はないんでね」


ビディの嫌味を込めた言葉に淡々と返事を返すエルフの男


「ジラー様?」


「エヴァ?なのか?なんでお前人族と一緒にいるんだ?」


「お知り合い?」


知り合いに驚くエヴァに聞くシェクタ


「はい、私たちの村の自警団の団長をしていた方です。村で一番の弓の使い手って言われてるんですよ」


「まあいい腕だったわね」


「で、その自警団の人がなんでこんなところにいるの?」


「あ、ああ。そうだな。その子から私たちの村の話は聞いたか?」


「あらかたは。」


「実は私はその日エルダバウムの街ククルカンドに来ていたんだ。異変は感じ取れたが少し遅く、また遠すぎた。


語るジラーという男

狭間の境界の動いた日、たまたまククルカンドまで来ていた彼は運の悪いことに村の反対方向にまで離れる位置にいた。薄気味歩い気配を感じたときにはすでにいくら走っても手遅れという状態であった。

そのため今は村の生き残りなどを保護する役を担い森の巡回を行っているとのことである


「というわけだ。さあ、エヴァ私と一緒にククルカンドへ行こう」


手を差し出すジラーに対しエヴァはシェクタの後ろに避けるように隠れる


「男性ってどこにもデリカシーのない人がいるわよね?」


それを見て笑いながら言うルクシア


「この子は攫われ、男性にひどい目にあわされそうになったのよ?そんな娘にいきなり男性と二人きりというのはひどい話だわ」


「しかし私は任務としても、村の生き残りとしても・・」


「だから心情を慮りなさいって話じゃないかしら?それに彼女をククルカンド?まで送り届けるのは私達リーリングアイシェの請け負った依頼です。途中で手放すわけにはいかないわ。」


「そうか、それもそうだな。じゃあここからは私が案内しよう。自警団しか知らない近道もあるからな」


「そんなの私たちを案内してもいいんですか?」


「別に問題ないよ。どうせ君たちだけだと二度と同じ道にはたどり着けないだろうしね」


平然とそう言いついてくるように促すジラー


ビディは頷き歩みを始め、後ろにシェクタ、エヴァ最後にルクシアの並びであとをついていく


しばらく歩いていたがエヴァが何かそわそわし始める


「どうしたの?エヴァ?」


「あ、あの何か方角が違う気がするんです。エルダバウムはもっと右寄りの方角のはずなんですけれど」


「ああ、大丈夫だよ。この辺りは魔力の流れが少しおかしくてエルフでもなれないと方向感覚がくるってしまうんだ。」


「貴方は慣れているの?」


ビディが聞き返す


「…ああ、少しコツをつかめばエルフなら大体はこの感覚はうまくつかみなおせるものさ」


そう言い再び前を向き歩き始めるジラー


「だそうよ、大丈夫なんだって」


「すいません、変なこと言って」


「変じゃないわよ?自分の感覚を信じるのが一番ですもの。私たちはその感覚を頼りに生きてるんだから、変と思えばそう言うのはなにもおかしいことではないわよ」


「そうそう、自分で考えての行動だと反省はしても後悔はしなくていいからね」


「貴女はもう少し反省してもいいと思うけど」


「どういう意味かしらね?」


何時の間にかシェクタとビディの掛け合いになっているのを見ながら微笑むエヴァ


そのまましばらくは単調に森の中を進む一行

小一時間ほど歩くと少し開けた場所に出てきた


といってもそこは森としては異様な空間

広さはサッカーコートほどとかなり広いが草などはなく入りの転がる土の表面だけ

ところどころに岩が点在している広くならされたところといった感じである

場所としては採石場のように緑が何もないという空間であった。


「なんなの?ここ?」


「ああ、休憩場所にちょうどいいんだよ。広く見渡せる上にあの真ん中の岩がいい感じに台になっているだろう?あの上だと全部を見渡せるからね」


そう言い警戒もなく進んでいくジラー


ならばとついていく一行であったが真ん中の岩に近づくと二人の人影が現れる


一人はやせぎすで軽薄そうな感じの男、目つきは悪く薄手の半そでジャケットを着ている。

もう一人は逆に黒のイブニングドレスのようなものを纏っている女性。髪は長く紫色である


二人の共通の特徴としてみられるのはエルフのように長い耳、そして額から生えている角である

もっとも男は一本、女は二本との違いはあるが正気のようなどす黒い魔力ははっきりと二人から感じ取れるのであった。


「あら?あまり驚いてはくれないわね?」


二本角の女が言う。


「何で驚く必要があるの?あからさまだったじゃないの?」


言うのはシェクタ。ほかの二人もそれは当然といった表情である。


「どこら辺があからさまだったのか後学のために聞かせちゃもらえないか?」


男がムッとしながら聞いてくる


「だって道案内が下手、魔力隠蔽が下手、あと使い魔飛ばし過ぎばらしてるようなものね」


返事をしたのはルクシアである。


実際に彼女はジラーのいう事のウソはとっくに気づいていたのである。

ルクシアは木の精霊と会話ができる。

精霊術高位使い手である彼女には森の中でのまやかしなど通用しない

それでもうそをつく理由を探るためにあえて話に乗っていた振りをしていたのである。


「まあ魔人族が釣れるとは思わなかったけどね」


「釣れたのっていうはこちらの話なんだけどねぇ」


ルクシアの言葉に呆れるように返すのは女性魔人である


「まあ負け惜しみっていうのも意味ないわよね?」


そういう魔人の後ろには控えるように立つジラーがいた。


「でもあんたたちにはこの男の謎は解けていないでしょ?」


「まあたしかに気にはしてなかったけどね。どうやって操ってるのか?無いとは思うけど色仕掛け?」


シェクタがバカにしたように言う。


「所詮ただの人間ってことですね。まあどちらにしてもここで貴女達も終わりですけれどね」


言われた魔人族の女はそばにいるもう一人の魔人族に目配せする


「まあ言ってもただの冒険者、しかもいい女ぞろいだしな。こいつらを満足させるくらいはしえくれるだろうよ」


そう言い指をパチンと鳴らすと森の中から二十数人の男たちが現れる

皆一様に顔からは精気を感じられず疲れ切った無表情

ただそれら全員が耳の長いエルフであった。


「父さん?それにお兄ちゃん?どうしたの?・・・」


呆然としながらも呟くエヴァ


「ああ、そうか、そこの餓鬼はこいつらの村の雌だったんだな。じゃあちょうどいいや、お前はまず父親と兄貴に女にしてもらいな」


その魔人族の言葉に一気に殺気立つ三人。それを感じたのか鼻で笑い


「おっと変な真似はしない方がいいぞ。こいつらは何の罪もない奴らだ。しかもきちんと生きている。ただ俺のいう事を聞くようになってるだけ。ただお前たちが俺とジーナスを攻撃しようとすれば命を懸けて盾になってくれるかもしれないけどな」


そう言うと魔人族を守るように男たちは前に出てくる。そしてそのままにじり寄ってくるように近づいてくる


「最低な下種野郎ね」


「い~い感じだ。そんな女が男に抑えられヒイヒイ言ってる姿を見るのがまたたまらんからな」


睨むシェクタにそのまま下卑た笑いの男。


「笑ってるところ悪いけどそれだけの人数であたしたちを止められるとでも?」


「いや、そうは思ってない。だからこそ切り札ってもんがあるんじゃないか?」


そう言うとシェクタとルクシアの脇をすり抜けるものがあった

エヴァが突如男たちの方へ向かって走り出したのである


隙をつかれ捉えることができず男たちの中に飛び込んでいくエヴァ

但しその表情は感情の欠落したものであった


「まあこういうもんだ。お前たちなんか聖女の加護アイテムでも持ってるのか?」


「持ってるわけないでしょ?そんないいものあるならきちんと家宝にするわよ!」


「ビディ、論点ずれてない?」


「まあそうは言え俺の術が利かないってのもどうせなんかのアイテムがあるんだろうな。この娘が父親に犯されるところ見たくないならまずは装備をすべて外してもらおうか?」


「変態ね。こんな山奥で三人の女を脱がせようとするなんて」


「まあ勝てるときに勝っとくのが俺たちの鉄則なんでな」


そう言うとエヴァの服に手をかけるエルフの男


「はいはい,降参よ。その男の動き止めてくれる?」


大柄なビディが剣と盾を投げ捨てる。倣うようあとの二人も武器を放り出す。


そのまま両手をあげる三人


「そのまま三人で脱がし合ってくれない?まだ近寄るのは危険みたいだから」


今度は魔人族の女が言う。

睨むようなシェクタだが文句も言わずビディの背に回り革鎧を外そうとする


因みに革鎧はジャケット型ではあるが革ひもで各部を締め直すという構造の為実質一人では着れないものとなっているのであった


「ねえ?そこのあんた?」


手をあげて革鎧を外されながら魔人族の男に向かって言うビディ


「何だ?命乞いか?」


「違うわよ、さっきの切り札って話」


「ああ、それがどうした?内容は説明しないぞ?」


「それはいらないのよ。そうじゃなくって。切り札ってさ、効果的な場面で切るから切り札じゃないの?」


「そりゃそうだろ?現に手も足も出せないだろ?」


「そこよね。」


「何が言いたい?」


要領を得ない会話にイラつきを隠さない男


「切り札って何でこっちにないって思うのかしら」


「なんだ・・・」


男は言葉を言い終えることができなかった

同時に衝撃が辺りを包み土煙が視界を遮る

刹那の機転で魔人族の女が結界を張り彼らにはダメージは入らな方が視界が利かないため動きはは取っていない。


「おいおい、なんだよ?これ?」


しばらくの後、土煙が晴れてきた後に呆れるように言う魔人族の男。

見えてきたものは地に伏して倒れているエルフの男達、少し離れたところで少女を守るように固まっている三人の女。

そして彼らの間に立つ一人の人影であった。


髪は黒く肩までの長さ、全体的に黒っぽい服装だがシルエットはただの細身の女性である

特筆すべきは両腕の小手についている大き目の魔石が赤く血の色に光っていることと背から生える翼の様な魔力であった。


その魔力も一度はばたくように広げると一陣の風を起こし土煙を払うと消えていく

クリアになった視界には三人の冒険者と新たな女しか立っている者はいなかった


「何だ?お前?」


「人に名を訪ねるときはまず自分から名乗るものよ?モテないわよ?」


「お前みたいな貧乳にモテたいとは思わんが・・」


最後まで言い切れず男は突如頭を後ろにのけぞらし倒れてしまう


「カッチーンときました、けどあなたはいい腕ねぇ」


右手に銃を持ち言う黒い女(アリス)


いつも通りのセクハラを今度はショットステインガーで殺意を持って打ち込んだのである。

しかし女の結界障壁に阻まれ殺傷威力は抑えられ衝撃だけしか通っていなかったのであった。


「あら?そちらこそいい腕ですよ。自分に対する防護で手一杯です。この品性のない男にまでは手を回しきれませんでしたし。それに空からの攻撃なんて想定もしてませんでしたわ」


「まあ普通はそんなのできないししないから気にしなくてもいいわよ」


アリスとて不安定な空中からの攻撃など今まではしたことはない。

魔術能力向上により空中からの陣魔道砲撃(サークルカノン)ができたとはいえ距離感がつかみづらく威力も抑え込まなければいけなかったのでかなりの疲労なのであった。


「そうですね、貴女は危険です。できれば戻って報告はしたいところなんですが」


「駄目。逃がさない」


あっさり拒否のアリス。


「まあそうですね。そういうとは思いましたけれど。知ってます?フレッシュゴーレムって魔力で動くのを?」


女がそう言うと傍で倒れている魔人族の男、そしてエルフの男たちの内屈強な数人が起き上がってくる。


「私はゴーレムクリエイター、ライザ・ビーゲル。言っておくけど動き出したら屈強なこいつらに早々勝てるとは思わないことね」


「ゴーレムって石の巨人じゃないの?」


「そんなの動きが悪いでしょう?生きている人間をゴーレムにする方がきちんと動くし戦力になるじゃない」


「そこの男は?」


「ああ。これ?万が一の保険ね。いざという時のボディガードよ」


「魔人族にでも利く能力なのね。」


「貴女みたいに魔力抵抗の高そうなのには聞かないと思うけれどね。いくら魔人族とは言え私の魔力に抵抗できないとこうなるわ。」


「あ、そう」


自信満々なライザの言葉に興味なさそうに返事をするアリス


「じゃあ貴女を壊せばいいってことだけみたいね」


「できるならね」


その言葉と同時に人形にされた男たち、そしてアリス達も同時に動き出した




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