第十話 黒の聖女は立ち直る
教会守護騎団のヴィスタの抱えられて着いたのは教会の裏口の一つである。
あまり人の通らないところのある子の裏口は一見そうとはわからない造りになっており
また知るものしか鍵も開かないという非常口となっていた
秘密の通路を通り教会の中を歩く
しばらく歩きついたところは大会議室といった感じの部屋であった。
「アリス?なんともない?」
聞いてきたのは聖女アイナ。そしてその横には修道女ニーナ
反対側の椅子には修道女クリスティーナ、そして少し離れたところには白衣を纏い瓶底眼鏡に腰まである長いみつあみおさげの女性が座っている。
今教会にいる秘密の花園全員が集結していたのであった
「マディーナまでいるなんてどうしたの?」
「どうしたもこうしたもみんな心配してたに決まってるでしょ?」
「心配って何ともないわよ?ほら、元気元気・・・はにゃ?」
抱えているヴィスタから離れて元気アピールをしようとするがその場で崩れてしまうアリス
「なにやってるんだか」
ヴィスタにもう一度抱えられ今度はクリスティーナの座っている横へと座らされる
「そんなか弱かったんだ」
「そんなわけないでしょ、これはあれ、このリバティレディの設定のせいです!」
「そういえば修道女時代は全然感じが違ってたものね。今のその姿と同一人物とは思えないくらいだもの」
クリスのツッコミに返すとニーナが感心したように言う
「アリスってたぶんスキルを十全に使えるのよね。私達じゃ性格や咄嗟の機転まで変えるなんてできないもの」
「いや、これは機転が利かないんじゃなくてちょっと考えすぎたのよ」
「どういうこと?」
「だってあの騎士、脳筋バカの部下なのよ?そんなのの前でスティンガーは出せないしかといって下手な体術も見せるのもどうしようって考えてたら変なの見つけちゃってそっちに気をとられちゃったのよね」
「変なの?」
「そ、魔力でできた蝙蝠」
「ああ、あのひらひらしてたやつね」
アリスの言葉にヴィスタが同意する
「蝙蝠?」
聞き返したのはさっきまで黙っていたマディーナである
「そうね、アリスのスティンガーが当たったとたんあの騎士の頭から飛び出したのよ。見つかってないつもりだったみたいだけどもう一度アリスがスティンガー当てたら消滅したわ」
ヴィスタの返事にじっとアリスを見るマディーナ
「ちょっとスティンガー見せて」
「今?この状態で?通常モードじゃなく?」
アリスは初めて話しかけられびっくりするが、こっくり頷くだけのマディーナ
なんだかよくわからないがショットスティンガーを顕現させ手渡す。
基本的に彼女たちガーハイマーガーデンのメンバーは女神に送り込まれた魔導人形、ヴァリアヴィリスファルマを肉体としている。
そして一期型といわれるタイプのアイナとニーナ以外はすべてショットスティンガー基本武装として装備している。そのうち半数ほどは拳銃型、あとの半数は魔術発動型としている。
アリスは最初のイメージからか拳銃型となっているのである
そして現状のアリスの日常生活モードであるリバティレディを発動しているこの時は拳銃といってもデリンジャーサイズの手のひらに収まる大きさ、装弾数は二発と一般護身用程度にしかならないものであった。
それを受け取りじっくりと調べるように拳銃を見つめるマディーナ
「衝撃波だけじゃなく術式破壊まで織り込まれてる?何でこんな複雑な術式・・?」
「え?そんなことしてるの?」
「何で持ってる本人が知らないのよ?」
マディーナの驚きに聞き返すアリスにツッコミを入れるニーナ
「だって基本武装って言ってたからなんもしてないわよ?ただのショックガンなだけじゃないの?」
「ショックガンというか魔力弾を打ち出すんだけど」
「何も知らずに?ほんとに?」
ニーナの返事の後に食い下がってくるマディーナ。今までアリスを避けるだけだったのがぐいぐいと圧をかけてくる。まるで別人であった。
「ほんとよ。だって私の設定項目って武器は5段階の調節しかないんだし。リバティはただ武装が最低ランクにして放出魔力を抑え込まなきゃいけないからね」
「ちょっと、本来の姿に戻って」
「何で?」
「いいから早く!」
「は、はい・・・」
なんか押し倒さんばかりの圧力でのしかかってくるマディーナに気圧され承諾するアリス
「リリース リバティ」
〔Yes Sir. Liberty Lady is termination〕
アリスの中で内なる声がすると金髪が黒く変わり髪型も変わっていく
ゆるふわのセミロングの髪はストレートの前下がりショートボブへ
眉、睫毛も黒くはっきりとし青い瞳は鳶色へと変わっていく
その姿を見、一瞬息をのむマディーナだが同じくリリースを唱える
マディーナの聖女モードはバニーガールが燕尾服を羽織っているというような扇情的ないでたち。
顔の上半分をマスカレードで覆う姿となる
「ドライツェン、少し動かないでね」
そう言いアリスの両頬を持ちじっと目を見つめる
『アナライズアイ』
解析魔導を発動させながら琥珀の瞳で鳶色の瞳を見つめるマディーナ
魔導特化の彼女にとって不可解な魔導現象は解析せずにはいられないのであった。
「アイナ、浄解の能力は失ってない?」
しばらくアリスの瞳を見続けていたマディーナは突然振り返りアイナに問う
「もちろん、きちんと持っていますよ。当たり前じゃないですか」
「この子にスキル開放したときに浄解を使ったことは?」
「それもあり得ません。最近使ったのはアリスを迎えに行った時の一回だけですし」
「それだけのことでスキル開放?」
「なんか話についていけないけどどういうことなの?」
目の前のバニーに聞く
「貴女はもしかしたらすごい能力を秘めてるかも」
「よくわからない言い方ね?」
「そのままの意味。本来ステインガーは物理攻撃」
そう言って手に持っていたデリンジャーをアリスに渡すマディーナ
受け取った拳銃は大きくなり通常の警官の持つショートバレルタイプと変わっていく
「でも属性付与ってできたでしょ?」
「できるけど物理属性付与程度。精神寄生体消滅なんて普通専用術式くらい入れないと無理」
「じゃあできる人いるんじゃない」
「普通は無理って言った。精神寄生体消滅術式はアイナを中心に最低二人の補助が必要な高位術式」
「え?あんな蝙蝠はがすのに?」
驚いてアイナを見るアリス。それに対して頷くアイナ
「人の悪意を増幅させるタイプの術式って意外とはがすのが難しいんです。特にあれだけ魔力が薄いものは少し高い出力でも簡単に根を残して剥がれますから」
「外からの力には弱いってこと?」
「でもスティンガーを使ったその方法だと精神寄生体に対しての毒を直接打ち込んでるから耐えられずに術式が離れていく。」
「そこがわからないのよね。なんでそんな術式になってるのか」
「多分アリスの認識不足」
「ん?何の?」
マディーナに聞き返す
「アリスは自分を知らなすぎる。まずその体のこと、自分の心の事何もかも」
「心を知るのはともかくとして体に関してはきちんと設定どおりに運用してると思うけど?」
自分の心を知るなんて哲学者でもたいそうなことだしね。そもそも悟りを開く如来の境地でしょうが、そんなの
「それが思い違い」
バッサリというマディーナ
「まず言っておく。ステインガーは殺傷威力が最低値。それ以下の威力にするなんてありえない」
「殺傷威力が最低値・・?」
「そう、どんなに威力を絞っても本来は今持っているステインガー以下の威力にはなりえない」
「なりましたけど?」
あれ?このショットスティンガー威力値3だよ?
リバティレディの時は自衛用に威力値1にしたけど別に何にも抵抗もエラーも出てないはずなんだけど?
「だからおかしい。」
「そんなこと言われても困るんだけど」
「スティンガーに込める魔力は術式上変わっていない。つまり威力を物理以外に変換している」
「それが精神系衝撃っていう事?」
「正確には浄解魔術式に変換している。不殺武器っぽいけど悪魔系、アンデッド系の魔物や魔人にもかなりの効果がある退魔系最高威力のスティンガーになってる」
「とりあえずよくわかって無かったけどすごい威力の銃だったってこと?」
「本来は。魔力の無駄遣いにしかなって無かったけど」
えらい言われようだな。まあでも別に運用方法が変わるわけではないし。逆にアンデッドとかの対処しやすくなっていいんじゃないだろうか
「楽観しすぎ」
マディーナが元の白衣姿に戻って言う。
そういやあんな羞恥心全開の格好でよくこの引っ込み思案がいられるもんだね
だからすぐに戻るんだろうけど
「まず対魔術とはいっても二発しか打てないのは燃費が悪すぎ。しかもあんな雑魚に対して全弾使い切るなんて論外」
「は、はい、ごもっともです」
なんか怒られてるがしょうがない。魔術に関してはガーハイマーガーデン一の使い手らしいからな
ここは素直に恐縮の一手である
「後、スキル開放が追い付いてない。正直今のままでは頭打ち。役立たず」
「はい、それもごもっともです」
「返事すればいいってものじゃない」
なんかヒートアップしてる。マディーナとの会話は初めてだけどこの一年間した会話の優に百倍は言葉を交わしてるよな
「特に魔術、そして武装系の開放が遅い。きちんと師事を受けてすぐさま開放して。出ないと戦力に数えられない」
「それは望むところなんだけど魔術の師事ってマディーナがしてくれるのよね?」
「え?嫌。面倒だからしたくない」
「マディーナ。それはダメよ?」
横からやんわりとした窘めが入る。二人して振り返るとクリスがにっこりとしている
「自分で言ったことの責任は取らなきゃね?魔術系に関しては貴女が最適なんだから」
「わかった。でも私のレベルにまでさっさと二日で習得してもらう。できないなんて許さない」
嫌そうに言うマディーナ。
まあ武装系の方がイメージしやすいし魔術も男子のあこがれですからね
スパルタ美人巨乳家庭教師ってシチュエーションで萌えながらやってみますか




