瓢箪池の魚
短めですが、久しぶりにSSを1本(*^^*)
以前、ファンレターをいただいた方へのお返しに同封していたSSです。
それは、アイリーンが十歳、メイナードが十四歳のころのこと。
「ゲールが釣竿を貸してくれたの!」
城に遊びに来たアイリーンは、コンラード家の従僕ゲールから借りた釣竿をメイナードに見せて嬉しそうに自慢した。
アイリーンが唐突に何かを見せて自慢することは過去にもあったが――例えばザリガニとか虫とか――、まさか釣竿を自慢されるとは思わず、メイナードは目を丸くした。教育係から出されていた宿題をする手を止めて、アイリーンが持って来た釣竿をしげしげと見つめる。
「うん? アイリーン、釣りするの?」
「うん! 池で!」
「池って……ああ、なるほど、うちの池か!」
城には瓢箪池があって、そこには色とりどりの魚が泳いでいた。メイナードは納得して、なるほど、釣りをして遊ぶにはもってこいの場所だなと頷いた。そうと決まれば、宿題なんてしている場合ではない。アイリーンと釣りをして遊ぶのだ。
「ゲールがね、すっごく大きな魚を釣り上げたんだって! わたしも負けないくらい大きいのを釣り上げるんだ!」
「へえ、いいね。あ、庭に降りるだけだからついて来なくていいよ」
メイナードは部屋の外にいた護衛兵士にそう告げて、アイリーンと手をつないで歩いて行く。護衛兵士たちはアイリーンの手にあるものを見て困惑気味に顔を見合わせるも、アイリーンとメイナードが二人で遊ぶときは極力邪魔をしないようにと王妃リゼットに言われていたので素直に頷いた。子供の遊びを大人が邪魔すべきでないと言うのが王妃の教育方針だ。
メイナードとアイリーンは意気揚々と池の瓢箪池に到着すると、さっそく池に釣竿を垂らした。餌は固いパンだ。メイナードは国王がたまに池の魚にパンをやっているのを知っている。
「アイリーン、釣竿は危ないから僕が持つよ」
釣竿を池にたらすところまでアイリーンに任せて、そのあとは間違ってアイリーンが池に落ちないようにメイナードが釣竿を受け取る。
アイリーンはメイナードの隣に立って、わくわくした様子で水面を見つめた。
「釣れるかな」
「どうだろう。ここの魚は食いしん坊みたいだから、案外簡単に……釣れた!」
喋っている僅かな間にも釣竿に魚が食いついて、メイナードが両手で釣竿を握りしめた。なかなか力が強い。大物だ。
「メイナード、頑張って!」
アイリーンの声援を受けて、メイナードは渾身の力を込めて、えいやっと釣竿を振り上げた。釣り針に引っかかった大きな赤い模様の入った白い魚が宙を舞って、ぽてっと地面に落ちる。
「わああああ! すごーい!」
思わぬ巨大魚にアイリーンは手を叩いて喜ぶ。メイナードも得意になって、池にはまだ魚がいるから、もう二、三匹釣り上げてやろうかと釣竿構えた――、その時だった。
「お前たちー! 何をしているんだあああぁ!」
悲鳴が聞こえて振り返れば、国王が真っ青な顔で走ってくるところだった。王は釣り上げられてビチビチ跳ねている魚を見て頭を抱えて絶叫する。
「ああああああ! 私の! 私の魚が!」
どうやら池の魚は国王が大事に育てていたらしい。真っ青になった国王に釣竿を取り上げられて散々説教を食らったメイナードは腹を立てた。
「ここで釣り禁止なんてどこにも書いてないじゃないか! 書いてない方が悪いんだ!」
アイリーンもまったくその通りだと思って、隣でうんうんと何度も頷く。
その後のんびりとやってきた王妃リゼットが、楽しそうに、「書いてない方がわるいのよねえ」とメイナードたちに味方して、やけくそになった国王は、瓢箪池の前にでかでかと手書きで看板を立てた。
――ここでの釣りを禁ずる。
以来、この看板は王妃の笑い話のネタとして長年使われることになったとか、ならなかったとか。
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