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キャロラインの王都観察

コミックスの発売を記念して、SSを1本書きました!

内容はコミックス1巻の時系列でのものとなります。

どうぞよろしくお願いいたします!

「はー……」


 ジェネール公爵家の自室で、キャロラインは憂鬱な溜息を吐きつつ窓の外を見やった。


「アイリーンが領地に行っちゃったから退屈ったらないわ」


 聖女最有力候補だったリーナ・ワーグナーが実は聖女ではなく、親友のアイリーン・コンラードが聖女に選ばれて早十日。

 第一王子メイナードとの婚約を破棄していたアイリーンの元へは、山のような縁談が舞い込んでいるという。

 アイリーンの兄二人は、その縁談を確認し処理していくのに大忙しで、元凶の妹がいつまでも王都にいたらなおのこと面倒くさいことになると、アイリーンを領地に追いやったのだ。

 まあ、アイリーンだって落ち着かないだろうからちょうどいいとは思うものの、親友がいなくなった途端に暇になって、キャロラインとしては面白くない。


 三大公爵家であるジェネール公爵家の姫であるキャロラインは、親しく付き合う人間を制限されている。

 顔が広いのでそれなりに友人と呼べる存在はいるが、特別仲良くしているのはアイリーンただ一人だけだ。

 お互いの家を自由に行き来していいと父から許可が下りているのもアイリーンだけ。

 さすがに、招かれたお茶会で羽目を外して大笑いはできない。


(アイリーンについてコンラード侯爵領に行けばよかったわ。面白いネタがたくさんあるってのに、話す相手がいないじゃないの!)


 王都は今、面白いことになっている。

 その愉快な話題の中心はリーナ・ワーグナーだ。

 聖女でないとわかってショックを受けたリーナは、まずその日のうちにショックを受けて寝込んだ。本当に具合が悪くなったのか、ただ恥ずかしいから寝込んだと言って家に引きこもったのかはわからないが――もちろん、そんなことでこの愉快な噂が立ち消えるはずもない。

 瞬く間にリーナが聖女ではなく、メイナードに婚約破棄されたアイリーンが聖女だったという滑稽な聖女判定の結果は王都中で噂になった。

 メイナードは、そそくさとアイリーンを追いかけてコンラード侯爵領に向かったので、嘲笑の大半はリーナに向いている。


(アイリーンが大好きなメイナード殿下がアイリーンに婚約破棄を突きつける時点で裏がありそうだとは思っていたけど、なにやら秘密の匂いがプンプンするわ)


 これは、メイナードにくっついて行った兄バーランドが戻ってきたら問いただすしかない。


(ふふん、わたしをのけ者にしようったってそうはいかないのよ)


 裏から手を回し、ある程度は情報を得ているキャロラインである。今回の婚約破棄には国王陛下が絡んでいることもわかっていた。と、なると、なおのこと秘密の匂いがする。


(アイリーンのお母様経由で王妃様を味方に付ければ、調べはつきそうだけど……、あの二人を巻き込むと話が大きくなるのよね)


 事を荒立てていい問題でない場合、あの二人を巻き込むのは危険だった。ならばやはりバーランドを吐かせるしかないだろう。


「はあ、それにしても……いつ帰ってくるのかしら」


 ショックを受けて寝込んでいたリーナは、いつまでも見舞いに来ないメイナードに激怒して、ここ数日で急に元気になった。

 聖女に選ばれなかったから自分の立場が危ういと思ったのか、父親ともども国王に早急にメイナードとの婚約を正式にまとめろと直談判に行っている。


(ばっかよねー、聖女じゃないリーナは、王家にとって何の価値もないのに)


 やたらと同性の敵を作って回るリーナは、次期王妃としての素質に難がありすぎる。これから矯正するにしてもすでに作っている敵は多いし、十六の彼女の性格が百八十度変わることはないだろう。

 つまるところ、リーナに期待されたのは「聖女」という付加価値のみであって、そうでなければお荷物でしかないのだ。

 リーナとメイナードの婚約は国王も王妃も認めまい。

 メイナードがコンラード侯爵領に向かうことを許可したということは、国王夫妻ともどもアイリーンとの復縁を狙っているとしか思えなかった。


 第一、今回の婚約破棄は、王妃は知らなかったようなのだ。

 アイリーンの母と親友同士の王妃は後から知って激怒したと聞く。

 しかし空気の読めないリーナとワーグナー伯爵は、どう考えてもあり得ないメイナードとの婚約を国王夫妻に迫っているのだ。

 騒げば騒ぐほど世間から孤立し、滑稽だと嘲笑されることを知らないのである。


(この前のお茶会は面白かったのに……! ああっ、アイリーンに話したい!)


 呼んでもいないのにとある伯爵令嬢のお茶会に勝手にやってきたリーナは、高笑いしながら「わたくしが王妃になった暁には……」というわけのわからない論を好き勝手に展開していた。

 あまりにも面白かったのでキャロラインもしばらく好きにさせていたのだが、「聖女認定は誤り」というあたりでカチンと来て、徹底的にやり込めてやったのだ。あの時のリーナの顔は見ものだった。


(おしゃべりしたーい!)


 アイリーンはいつ帰ってくるのだろう。


「何か妙な問題に巻き込まれていないといいけれど」


 キャロラインは少し考え、おしゃべりができないのならばせめてこの愉快な情報は親友に届けてやらねばなるまいとライティングデスクへ向かった。


 ――親愛なるアイリーンへ。あんたがいない間に、王都はとっても面白いことになっているわよ。


 そして、聖女になっても変わらず能天気でお人よしのアイリーンの顔を思い浮かべて、くすりと笑った。





お読みいただきありがとうございます!


本作のコミックス1巻ですが8/25に一迅社comicLAKE様より発売されます!

コミカライズはさっちゃん先生です!

とってもにぎやかで楽しいコミックスなので、ぜひお手に取っていただけると嬉しいです!


また、9月にも3冊ほどコミカライズ作品が発売されます!

予約受付中ですので、よかったらこちらもチェックしてくださいませ(*^^*)


9/7 病弱(嘘)令嬢は婚約破棄したい~お金勘定に忙しいので、結婚したくないんです!~1(スクエア・エニックス ガンガンコミックスUP!様)


9/8 美麗公爵様を口説いてこいと命じられたのに、予想外に溺愛されています1(双葉社 モンスターコミックスf様)


9/15 王太子に婚約破棄されたので、もうバカのふりはやめようと思います3(マッグガーデンコミックスavarusシリーズ様)


どうぞよろしくお願いいたします!!





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