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04.魔王とメイド

犬神直幸(いぬがみなおき)は幼い少女が好きだ。


その温かい体温と愛くるしい姿。

純粋で穢れの無い清らか心で傷付いた直幸の心を優しく癒してくれた。


ある出来事を切っ掛けに、私物のゲームソフトのジャンルはガラリと変わり。

オアシスを求めてロリ系のソフトから過去、現在放送中のアニメまで片っ端に制覇。


合法ロリという見た目はロリ、中身は大人の存在も知り、直幸のオタク道も順調に広がっていた。

そんなロリと向き合う日々の中、遂に直幸は出会った。


『幼い勇者』


内容としては主人公が魔王討伐のため旅に出るというありきたりな異世界タイトル。

だが、このゲームの特徴は登場人物が村人まで全員ロリ娘であること。


その世界観から一時期ネットをざわつかせたのだ。

直幸も自室でざわついた一人で、ネット投票一番人気のお茶目な主人公結城ちゃんが一番の推しだった。


そう、()()()が今は正しい。

直幸の心を射止めて離さなかったのは第六話登場――主人公、結城の前に立ちはだかった魔王クロだ。


ラスボスながらもロリというギャップに上から目線な態度のコンボで放送後、初登場ながら人気投票二位まで滑り込む大人気っぷりだった。


スゥ…スゥ…と寝息をたて続ける銀髪の少女。

距離が近づくにつれ少女の容姿がより鮮明に映し出させる。


「似てる」


数多のロリ娘を見てきた直幸が心奪われた『幼い勇者』最後のラスボス――魔王クロ。

高飛車な態度で嘲笑うさまはまさに魔王。

時折見せるか弱い部分にオタクからは絶大の人気を得ていた。


しかし、直幸の記憶の魔王クロはこんがり焼けた褐色肌、目の前の少女は真っ白い白肌。

直幸は徐に少女の前髪をかき上げる。


「……可愛い」


まつ毛の一本一本がしなやかに揃い並び、小さい口がむごむごと動く。


「ぅぅ……ぅ、うぅん?」

 

髪に触ったのが原因か、はたまた不意に口から零れた言葉が少女を睡眠から覚醒させてしまったのか。

ぱちくりぱちくりと数回瞬き、銀髪少女の尖った紅い瞳が直幸を捉える。


「きゃあああああぁぁぁあああぁぁぁぁあああああ!!」


「うわあ!?」


広い空間に反響する甲高い悲鳴が直幸の鼓動を跳ね上がらせる。


「ま、待ってくれ! 俺は決して怪しい物じゃない」


「人の部屋に入っておいて寝込みを襲ようとする変態が怪しいわけなかろうが! この愚か者ぉぉぉ!!」


「勝手に入ったのは謝る――だが! 俺は断じて変態などではない!!」


「であればジリジリと近づいて来るな! 離れよぉ! 魔王を誰と心得るか、はぁぁなぁぁれぇぇよぉぉぉ!」


王座の影へ逃げ込んでチラチラと顔を覗かせる姿は、怯えた子猫みたいだ。

これ以上近づくなと細腕を暴れさせるが、少女のリーチは直幸の手が届くほど短い。


「か、可愛いぃぃぃ! き、君名前は!? 俺は犬神直幸、直幸でいいよ。ほら怖くないからこっちおいで」


「な、なななな何を言うか無礼者! 魔王は魔王だぞ。偉大なる大魔王の娘、魔王シャル・メーリー・グラースであるぞ! 恐れよ、そして頭を垂れ命乞いをするのだあぁぁ!」


――魔王? 勇者、魔王ときたら――おままごとか!?


「そうなんだ~シャルちゃんは魔王なんだねぇ。じゃあ俺は勇者役するね」


「ちっっがあぁぁうっ! 魔王は本物の魔王なのだぞ! 誰がおままごとするなどと言った! 出てけぇぇぇ!」


顔を紅潮させ目端からは少し涙が滲み出ていた。


「そういわれても俺は呼ばれた側であって」


『え?』と小首を傾げる銀髪少女。


「呼ばれて? …………侵入者ならネズミ一匹逃がさないローサが逃がすはずないし……」


何やらブツブツと独り言を言い始める。

微かな声に何を言っているのか分からなかったがごちょごちょと動く口が愛くるしく尊い事は理解できた。

直幸がうっとり見とれている内にシャルの結論が出たらしい。


「お客人は何の目的でここに来たのだ?」


直幸は思わず少女の肩をガシッとそして割れ物を扱うようにソフトに掴む。


「な、なに? 俺に興味があるの!? いいよ、俺の隅から隅まで――」


「シャル様! ご無事ですか!?」


二人の会話を割って入るように大扉が勢いよく開け放たれる。

丈の長い清楚なメイド服を着た赤髪の女性が逸る気持ちを抑え歩き出す。


「シャル様! 緊急事態――――」


赤髪の女性は思わず言葉を失う。

シャルの肩に手を置いて目を血ばせる直幸の姿があまりに不審者然とした挙動をしていたからだろう。


「何をやっている貴様!」


瞬間、赤髪女性の姿が消えた。

気づいた時にはシャルの肩に手を置いていた直幸の顔面に飛び蹴りが見舞われる。


「グハァッ!」


断末魔の声を置き去りに直幸は離れていた石壁へ着弾。

背中に伝わる衝撃。


「いってえぇぇ。いきなり何しやがる! 暴行罪で訴えるぞ!」


「黙れ」


汚物を見る目で見下ろしす赤髪女性。

直幸もそれに対抗して睨み返す。


整った輪郭に燃え盛るような赤髪が豊満に突き出された胸まで垂れている。

蛇のような黒い瞳は直幸を冷たく貫く。

腰から生えた尻尾が不機嫌そうに地団太を踏む。


頭にはシャルと違い少し曲がった黒い角が生えていた。

ファンタジーの定番、ドラゴンのようだと直幸は思う。


「ローサ、直幸は客人じゃないのか?」


「違います魔王様。――ここは魔王城だぞ。どこから入りこんだ薄汚いゴグリンが」


「ま、待て! 俺は勇――」


続く言葉を直幸は呑み込んだ。

シャルに夢中で盲点だったが、どう見ても人間に見えないローサと呼ばれる赤髪の女性に魔王と名乗る少女――王城とかけ離れた不気味な城――召喚の失敗による座標バグ――これだけの材料が揃って入ればいくら直幸だろうとおのずと答えが導き出せる。


つまりここは直幸が召喚予定であったサングレアル王国ではなく、魔物が住む魔界でこの城は王城ではなく魔王城。

顔から血の気が引く。


直幸がここで軽率に魔王を倒しに来た勇者と名乗れば即殺。

その首を見せしめに王国で晒されるかもしれない。

言い淀む直幸を見て無視されたと勘違いしたローサはを眉を顰める。


「薄汚い下等なゴブリンの分際で、いくら我らが十二魔翼王最弱だからとこの魔王城が落とせるとでも思い上がったか。まったく舐められたものだな」


棘のある声を刺すとローサは一層睨みをきかせる。

突如右手に炎を纏い、直幸へと突き出す。


「待てローサ」


消し炭を覚悟した直幸に思わぬ助け舟が現れる。

それは先ほどまで直幸とローサの会話を茫然と聞いていたシャルだった。


警戒心を剥き出しにした猫のようにジリジリと直幸に歩み寄る。

そうとう直幸に言い寄られたのが怖かったのだろう。


「冷静になれローサ。こいつがローサが招いた客人じゃないのはわかった。だが魔王の命を狙うなら魔王が寝てる時に襲ってる」


シャルに指摘され改めて直幸に目を向けるローサ。


「しかしなぜここに人間が……ハッ!」


何かを思い出したのかのように突如、ローサの顔が強張りる。


「魔王様! 今すぐお逃げ――――」


続く言葉は、けたたましい爆音によってかき消された。

最後まで読んで頂きありがとうございます。

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