00.追憶
初めまして。
小説どころかWed小説すら初体験の式神恵です!
まだ分からないことだらけですが宜しくお願い致します。
犬神直幸は中三までは青春と呼ばれる人生最高の生活を過ごしていた。
この楽しい時間がいつまでも続くとその時の直幸は疑うことはなかった。
しかしある日、直幸は暗闇に突き落とされる。
「――――――――――」
平日の昼間にも拘らず普通の高校生の直幸は乱雑に散らかった自室にいた。
両親は共働きで家は異様なほど静かだ。
外から差す陽光はカーテンに苛まれ、暗い。
布団を被って蹲る直幸の髪はボサボサで眼の下には隈が出来ていた。
何日もお風呂に入って無いのが伺える。
このままでは自分と言う世界が崩壊してしまう。
飛び起きると扉を乱暴に開け、運動不足の身体に鞭を打って我武者羅に駆け出した。
行先は小さい頃両親とよく遊んでいた公園だ。
近くの海辺から運んでくる潮風に当てられ錆びれた遊具が夕日をバックに影を作りだす。
公園には沈む夕日に影が歪む直幸ただ独り。
休日の昼間でも人が寄り付かず嫌な事があった時、一人になりたい時に訪れる避難場だ。
憔悴しきった心の唯一の拠り所。
直幸は徐に塗料の剥がれたベンチへと腰を落とす。
―――――――――。
肌を掠める潮風がヒリヒリと痛む。
断たれた繋がりは想像以上に直幸の精神を磨り減らしていた。
解き放たれた疲労感は急激に意識を暗転させる――――。
水打つ音に瞼を開くと夕日に暗雲がたち込んでいた。
ポツリポツリと降り出した風雨は直幸の心を映し出すかのように荒々しく激化し始める。
急いでドーム状の遊具へ避難した。
肩までびっしょり濡れたTシャツは体にべた付き、その気持ち悪さが一層直幸の不快感を膨れ上がらせた。
一体何をしたと言うのだ。
あの楽しい時間はただのまやかしで本物じゃなかった。
「ㇰッソゥ……」
何も考えたくない――何も感じたくない。
人は汚れる。
成長と共にその思考は汚れて、白黒の判断も付かない程に濁る。
瞳に灯る微光が揺らめく。
心まで冷え切ったせいか、肌をくすぐる水滴や体温を奪う湿った服の気持ち悪さが無くなる。
心なしか身体が軽くなっていく。
もう……どうでもいいや――――――
「あ――の――――で――か」
遠慮がちな弱弱しい掠れた声が雨の音に混じり微かに聞こえる。
天使、はたまた死神が直幸を迎えに来たのではないかと肩の力が抜ける。
ここまで耐えてきたのは心のどこかで救われる事を期待したから。
嘘なのでは無いか、夢なのではないか……と。
信じる者は救われる――父親はそれを口癖のように何度も語っていた。
いつしか直幸はそれを真に受け信じてた。
信頼が信頼で返って来る確証なんて何も無いのだから。
再び来る眠気に瞼が落ちる。
「あのぉ!!」
悲鳴にも似た甲高い声に心臓が飛び起きる。
「あ、ご、ごめんなさい。驚かすつもりはなくて、か、風邪、そのままだと引いちゃうから」
目配せを繰り返し固まる直幸を余所に、小学生くらいの少女が腰にぶら下げている鞄からタオルを取り出し、頭にフワッと被せてきた。
優しく頬に滴る水滴を拭き取り始める。
「かまわないでくれ」
「で、でも、お兄さん、悲しそうで――」
少女の小さい手の平が直幸の両頬を包む。
「泣いてるから」
「な――んで――君も泣いてるの」
見ると、少女のつぶらな瞳から一筋の雫が弧を描いて流れていた。
「だって、お兄さんが泣いてるから――寂しそうだから」
手の平から伝わる少女の体温が氷に覆われた直幸の心を溶かし、視界に染み付く黒いモヤモヤは徐々に消してゆく。
――――温かい。
直幸がずっと求めた優しさを持つ少女。
途端に心臓が『ドキッ』と跳ね上がる。
無意識に少女の胸に身体をもたれる。
突然の事に慌てふためいていた少女だったが自分の胸に蹲る直幸を、赤ん坊を慰める母親のように優しく頭を撫ですさってくれた。
「うっ、うぅああぁぁぁぁあああぁあぁ」
いつの間にか降り続けていた雨は消え、水溜まりから陽光が眩しく二人を照らす。
直幸の心が体温を取り戻すと同時に暗雲とたち込む雲が去り、空中に虹色の花が咲く。
そして直幸と少女は約束する。
またこの公園で再開しようと――――その時は満面の笑みで君が与えてくれたこの気持ちを伝えようと。
しかし、その約束が訪れることは無かった――――。
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