4-27 兵士達の暴走
共和国の魔術兵アジャン中尉。彼の惨敗する姿を見た他の共和国兵達は、動揺し、恐怖した。
「中尉が、あんなあっさりと……」
「あの男、何という強さだ……」
強い人間、特に軍という組織に於いて、それは組織の強さの象徴となる。
アジャン中尉も共和国軍では上位の実力を有する実力者であり、それ程の象徴が崩れた衝撃は、共和国兵士達の精神を騒がせるには十分過ぎた。
共和国軍の兵士達は怯み始め、次々と後退ろうとする中、ガンリュウ大尉はこの好機を見逃さなかった。
「全員、今だ! 怯んだ隙を突いて突撃しろ!」
ガンリュウ大尉の指示と共に、攻勢に出た帝国兵達。
怯んだ隙を突かれた共和国軍は、陣形は崩れ、1人1人の動きもぎこちない。そのお陰で、帝国兵達は、経験が上である筈の共和国兵達と互角以上の戦いが出来ていた。
明らかに帝国側が優勢となった状況。しかし、ガンリュウ大尉は勝利を脳裏に浮かべない。
「深追いはするな! 適度に交戦しつつ後退しろ!」
撤退命令が来る事を前提にした命令をガンリュウ大尉は下した。今は優勢でも、後に劣勢になる事を悟っていたからだ。
実際、ガンリュウ大尉が周りを見渡し状況を確認すると、最初より明らかに敵の量が増えていた。分散した敵が集結し始めていたのである。
「そろそろ撤退命令が出るか……」
ガンリュウ大尉はそう思いながら、刀をもう一度抜き、命令が下るまで1人でも多くの敵を撃破していくのだった。
双眼鏡で前線の様子を確認したエルヴィンは、敵の集結と重機関銃配備の兆しを察知した。
「そろそろかな……」
そう呟き、双眼鏡を下ろしたエルヴィンは、1つの命令を仲間達に下す。
「全員、撤退っ‼︎」
撤退命令は兵士達の言葉伝いに帝国兵全員に伝えられ、命令を聞いた兵士達は、当然それを予期していた様に迅速に、次々と後退を始めた。先の2回の戦いで慣れて来ていたのだ。
同じく命令が伝えられたガンリュウ大尉も、兵士達が撤退していくのを確認した後、自分も退こうと刀を鞘に収め、後退を開始する。
しかし、もう一度辺りを見渡し、彼はその足を止めた。止めざるを得なかった。
撤退命令が出ているにも関わらず、戦闘を継続する兵士が何人も存在していたのである。
「おい! 撤退命令はもう出ているぞ!」
ガンリュウ大尉は当初、命令が行き渡っていなかったのか、見栄を張って殿を務めようとしているのかの、どちらかだと思っていた。
行き渡っていなかったら今ので気付いて退く筈だし、殿については味方がある程度の地点まで引き次第、自分が務める予定であった。
しかし、それ等の予想は外れる。
「大尉、まだ戦えます!」
「敵が弱っている今が好機です!」
「今回こそ、俺達は勝利出来る!」
勝敗を分ける戦いに於いて、勝利を渇望しない人間は居ない。
度重なる敗北を兵士達は仕方ないと考えつつ、やはり、勝利を得られない不満を兵士達は抱いていたのだ。
それが少しずつ増していき、そして等々、目前でチラつく勝利に魅入られ、彼等はそれに目が眩んでしまったのである。
「お前達、命令違反する気か‼︎ 軍法会議に掛けられたいのか‼︎」
ガンリュウ大尉の注意は届かず、制止を振り切り、一部兵士達は敵へと突っ込んで行く。
「完全に勝つ事しか見えていないな……」
ガンリュウ大尉は嘆息を零しつつ、見捨てる訳にもいかなかった為、暴走した兵士達を追った。




