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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第4章 ヒルデブラント要塞攻防戦
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4-25 戦場への道中

 第11独立遊撃大隊は最後の攻略拠点へ向かった。

 その道中、兵士達には既に敗北の文字が浮かんでいたが、不思議と表情に曇りは感じられない。


 2回続けての敗北により、負ける事に慣れてしまったのが大きかったが、戦いでの犠牲が極端に少ないのも要因の1つと言える。


 兵士達は「今回も負けるんだろうなぁ……まぁ、うちの大隊長があの人だから仕方ないけど」という結構割り切った考え方をしており、代わりに沢山の個人的武勲を上げる事のみ考えていた。


 兵士達が初戦の時より軽い足取りで目的地に向かう中、唯1人、初戦の時同様、辛そうに歩く人物が居た。言わずもがな、エルヴィンである。



「ゼ〜ハ〜、ゼ〜ハ〜……」



 部隊で1番リュックが小さく、軽い筈のエルヴィンは、一際息を荒くし、汗を滝の様に流し、ふらつきながら、今にも倒れそうに足を進めていた。


 普通であれば心配する所だが、アンナにその様子は無く、逆に呆れた様子である。



「エルヴィン、体力無さ過ぎです」



 溜め息を(こぼ)すアンナ。



「仮にも軍人なんですから、運動して体力を付けたらどうですか? 流石に戦闘時、味方の足を引っ張りますよ?」



 エルヴィンは疲労の余り立ち止まり、俯きながら膝を抱えた。



「今、説教やめて……疲れ過ぎて……言い返せる、余裕が無い……」



 息を切らしながら、そう答えるエルヴィンに、アンナはまた呆れた様子で溜め息を(こぼ)すと、少し優しめに告げる。



「休みますか?」



 それに、エルヴィンは小さく頷いた。




 その後、隊列から離れた2人。エルヴィンは木に寄り掛かると、リュックから水筒を取り出し、水を一口飲んだ。



「行軍はやっぱり疲れるね……もう足がパンパンだよ」


「本当にだらし無いですね。行軍の度に真っ先に根を上げる指揮官なんて、正直、部下の1人として恥ずかしいですよ」



 アンナの言葉がグサリと刺さり、エルヴィンは苦笑いした。



「もう少し、ガンリュウ大尉を見習って下さい。兵士達の訓練をしながら、自身の訓練も怠らない。正に、軍人の鏡と言うべき方です。自身の仕事すらサボるエルヴィンとは大違いです」


「身体疲労してる時に、精神面への更なる攻撃止めてくれないかな?」



 疲労困憊の状態でのアンナによる無情なる毒舌に、エルヴィンは少し滅入り始める。


 しかし、アンナの追い討ちは止まらない。



「言われたく無いんでしたら、仕事ぐらいちゃんとして下さい! 今日の朝も、2時間丸ごと使って逃げるとか、どれだけ仕事したく無いんですか! 素直に仕事するより体力使うでしょうに。大体……」



 行軍中なのも忘れて、長々と説教を行うアンナ。ガンリュウ大尉という軍人としての手本が現れた事により、エルヴィンの駄目さ加減が際立ってしまい、彼の欠点が更に浮き彫りになっていたのだ。


 ガンリュウ大尉と比較しながら、急所にザクザク言葉の刃を刺され、エルヴィンは軽く涙目になり始めていた。


 ヤバイ……泣きそう……。


 他者からの悪口に対し、人並み以上の精神力を持つエルヴィンだったが、身体的疲労も重なり、等々メンタルが限界に達しつつあったのだ。


 その後も数分説教が続くと、アンナも流石に疲れたのと、隊列から離れすぎる危険感とで、早く説教は終わった。

 その頃にはエルヴィンの精神はズタボロになりながらも、身体の疲労は大方取れていた。



「そろそろ隊列に戻りましょう。指揮官が部隊から逸れたら、それこそ笑いモノです」



 アンナの意見を聞いて、取り敢えず精神攻撃が止む事に、エルヴィンは安堵する。


 その後、隊列へと戻った2人は、目的地へと足を進め、エルヴィンが口を開いた。



「まぁ、ガンリュウ大尉は私自身、凄いと思うよ。我々の戦果の大半は、ガンリュウ大尉がもたらしてくれた物だからね。最初にグラートバッハ上級大将から彼を押し付けられた時は、どうなる事かと思ったけど……今は、彼が居てくれて本当に良かったと思っているよ」



 エルヴィンはガンリュウ大尉ばかりを賞賛するが、自身の()った指揮も多大な戦果の要因だったのは言うまでも無い。

 己が戦果より部下の戦果を賞賛する。それも指揮官してのエルヴィンの美徳の1つだった。


 アンナはエルヴィンが良き指揮官である事を再確認でき、ふと笑みを(こぼ)し、2人の思考は自ずと次の戦いの事へと移る。



「次で最後ですね」


「まぁ、更に命令が下る可能性は高いけど……次が命令された最後の攻撃目標なのに変わりはないね」


「何も無ければ良いんですが……」


「いつも通り万全な指揮をして、後は運を天に任せるしか無いよ」



 微笑みながらそう言ったエルヴィンだったが、頭の中には次に起こるであろう事態が既に予想されていた。

 そして、その事態が負の物である事を物語るように、彼の表情は辛辣な物へと変わっていく。




 2人が会話をしている内に、部隊は最後の攻撃目標を視界に捉えた。


 兵士達は今まで通り茂みに潜み、銃、剣、杖をそれぞれ構え、突撃命令に備え、命令を下す予定のエルヴィンは双眼鏡で敵拠点の様子を眺めながら、各部隊へ指示を送る。


 最後の命令、最後の戦い、この戦いが終われば取り敢えず、僅かばかりの平穏が味わえる。そんな思いを胸に兵士達は大隊長からの命令をジッと待ち続ける。


 暫くして、伝令からの各部隊準備完了の報告を聞いたエルヴィンは、今まで通り右手を高らかに挙げた。


 そして、



「突撃っ‼︎」



 右手を振り下ろし、彼から発せられた号令と共に、最後の攻略目標への攻撃が開始された。

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