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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第4章 ヒルデブラント要塞攻防戦
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4-16 戦況動く

 正午前、帝国軍別働隊と共和国軍塹壕部隊が再び衝突した。


 しかし、今回、先に動いたのは帝国軍では無く、塹壕に潜んでいる筈の共和国軍であった。


 共和国軍が、帝国軍への突撃を敢行したのである。


 帝国軍別働隊には重砲が配備されておらず、軽砲も少なく、塹壕すらない状態である。共和国軍より多く魔導兵が配備されているとはいえ、共和国軍塹壕部隊と比べれば遥かに防衛力は劣るだろう。


 しかし、兵力は帝国軍の方が上であり、重砲が重く、突撃時には戦力にならない事から、共和国軍が突撃を敢行するのは無謀だと言える。


 そんな不利を差し引いても、共和国軍が突撃敢行を決断せしめた事態が、戦闘開始前、帝国軍別働隊では起きていたのだ。




 戦争に於いて、食料、弾薬は否応無しに消費される物であり、その定期的な補充が必要不可欠となっている。


 帝国軍別働隊においても早朝、物資の補充が行われたのだが、その量が遥かに少なかった。食料、弾薬共に必要最低限の量にも届いていなかったのである。


 原因は後方参謀達の初歩的な計算ミスであったが、前線では致命的である。


 帝国軍は心許ない弾薬と空腹感という、戦闘に於いて最悪な状況に襲われたのだ。


 更に、その情報は、帝国軍内に潜っていた諜報員から直ちに共和国軍に伝えられ、共和国軍の参謀達は帝国軍を叩く好機と見て、共和国軍塹壕部隊へ、帝国軍別働隊への突撃命令を下してしまう。


 突撃の結果、共和国軍の見立ては正しかったと言える。

 

 僅かながらも空腹に襲われ、銃弾も心許ない状態での戦闘を強いられる事となった帝国軍は、士気は落ち、共和国軍に辛うじて互角の戦いが出来る、という苦戦を強いられたのだ。


 更に、戦う度に弾薬を消費してしまう以上、着実に帝国軍の戦闘継続能力は限界に達しつつあり、そして等々、帝国軍で弾薬が尽きた部隊が現れる。


 最初に危機的状況に陥ったのはゾーリンゲン大将麾下(きか)第8軍団であった。


 第8軍団は、残り弾薬も確認せず、ありったけ敵に撃ち込んでしまい、結果、弾薬を真っ先に使い尽くし、通常兵がほぼ丸腰状態となってしまったのだ。


 銃が使えなくなった通常兵達は、ナイフなどによる近接戦を強いられることになるのだが、魔術兵という兵科が存在し、銃がも存在するこの世界で、近接戦を強いられた彼等の末路は目に見えている。


 魔術兵との戦いでは、まるで赤子のように殺され、敵通常兵との戦いでは、敵兵に近づくことすら叶わず銃殺されたのだ。


 兵力を徐々に減らされた第8軍団は後退を余儀なくされ、その隙を縫って共和国軍が本格的な大攻勢をかけた。


 共和国軍が帝国軍中央に食い込む形となり、中央に布陣していた第8軍団は壊滅寸前、両翼の第3軍団と第10軍団が分断され始め、帝国軍は全軍崩壊の危機に直面する。


 しかし、帝国軍も黙ってはいなかった。


 ケムニッツ、エッセン両大将は、この状況を両翼分断の危機ではなく、包囲殲滅の好機と考えたのだ。


 共和国軍が第8軍団を壊滅せんと躍起(やっき)になって追撃する中、第3、第10軍団は共和国軍の両側面に回り込み、共和国軍を半包囲した。


 共和国軍はその事に気付き、直ぐに撤退を開始するのだが、その隙を見て、第8軍団の各魔術兵部隊が背後より追撃し、更に、第3、第10軍団が砲火と銃弾の雨を浴びせた。


 帝国軍は間一髪窮地を脱し、共和国軍は包囲を辛くも脱出する。


 終わってみれば、帝国軍の損害は1万近くなのに対し、共和国軍はその倍の2万近い死者を出していた。


 この戦闘までの結果、平原の各残存兵力は、帝国軍約7万4千、共和国軍約2万8千と、帝国軍が共和国軍の2倍以上を有しており、平原の決戦は帝国軍の勝利で幕を閉じるという結果が見え始める事となっていた。


 共和国軍が平原の決戦で敗北すれば、共和国軍を突破した帝国軍により、要塞攻略部隊が挟み撃ちを受け、この大戦自体が共和国軍の敗北で終わる。


 共和国軍は戦術的勝利に固執したあまり、戦略的敗北の危機を作り出してしまったのである。


 この戦いの結果により、帝国軍司令部では勝利の光明が見え始めた事に安堵の吐息が部屋を満たし、共和国軍司令部では失態を犯した第7、第8軍団への罵倒の声が響き渡った。

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