4-14 関係
メールス二等兵は、笑いで流した涙を人差し指で拭うと、エルヴィンの顔へと視線を向けた。
「私もまだ朝食を取りに行っていないんです。一緒に行きませんか?」
「…….ん? 別に良いよ?」
エルヴィンの好意的な返事を聞き、メールス二等兵の表情が、喜びの晴れやかな笑みに変わった。
「でも、本当に良いのかい? 上官と行動するのは堅苦しさが伴って、窮屈だと思うんだけど……」
「大隊長となら光栄です!」
メールス二等兵の嬉しそうに話す様子を見て、尊敬から来てると見えたエルヴィンは、照れ臭そうに頭を掻いた。
そして、早速2人は歩き出し、食料の配給場所へと向かうが、その道中も彼等の話は続けられる。
「そういえば、大隊長は何故、小川に来たんですか?」
メールス二等兵もエルヴィンと同じ疑問を投げ掛けた。しかし、彼女と違って、彼には隠す理由も誤魔化す理由も無かったので、すんなりと話す。
「列に並ぶのが面倒臭かったから!」
なんとも下らない拍子抜けな答えである。
「水場に行ったら、長蛇の列が出来ていてね。なんだか面倒臭く感じたから、人の余り居ないであろう小川で顔を洗ったという訳さ」
「並ぶだけなのに、面倒臭さを感じたんですか?」
「並ぶのも疲れるんだよ? ずっと立ちっぱなしだしね」
士官たる人間が、何ともだらしない理由をペラペラと話すのを見て、普通の人ならば呆れるところだろう。しかし、メールス二等兵は何故か楽しそうに話しを聞いていた。
その様子を感じとったのだろう、エルヴィンも楽しそうに話しを続けた。
聞く人が楽しんでくれると、話す方も自然と楽しくなってくるのだ。
2人が暫く会話を弾ませる中、エルヴィンはふと、ある事を思い、口に出す。
「こんな光景をアンナに見られたら、「もう少し隊長としての自覚を持て!」とか、言われそうだなぁ……」
メールス二等兵は事実上、エルヴィンの部下にあたり、階級から見れば、仕事上以外の事を話す自体、あり得ない関係である。
明らかに、部隊長らしからぬ行動ではあったのだ。
エルヴィンはアンナに説教させる様子をふと浮かべつつ苦笑を浮かべた。彼は正にアンナについて考えていた訳だが、そんな横顔を眺めながら、メールス二等兵は恥ずかしそうに、心配そうに、恐る恐るエルヴィンに質問する。
「フェルデン少尉は大隊長の従者と聞きましたけど……それにしては、仲が良いですよね。もしかして大隊長は……その……フェルデン少尉と、恋仲だったりするんですか?」
「え?」
エルヴィンは予想外の質問に、ふと、立ち止まり、メールス二等兵の方を向き、キョトンとした表情を浮かべた。
それに彼女は、自分の突然の質問を思い返し、更に恥ずかしくなって、顔を赤く染める。
「す、すいません……おかしなことを聞いてしまって……今のは忘れて下さい!」
うっかり出してしまった失言を拭き取ろうと慌てるメールス二等兵だったが。エルヴィンは不思議そうな顔をしながらも、前を向き、空を見上げながら考え出す。
「恋仲ではないね」
「え⁈」
答えてくれると期待していなかったのもあり、メールス二等兵は彼の答えに驚く。
「恋仲では無い。これはハッキリしているけど……アンナとの関係は友人、だと弱いし……親友、もなんか違うなぁ…………」
エルヴィンは空を見上げながら、顎を摘み考え込み、何かしらの答えを得たのだろう。少し頷くと、メールス二等兵へ柔らかな優しい笑みを向ける。
「アンナとは家族だな。妹……いや、姉かな。血の繋がらない姉の様な存在だね」
「姉、ですか……恋仲じゃない……そうですか…………」
エルヴィンの答えにメールス二等兵は、胸の前で右手を軽く握り、ふと嬉しそうな、少し安心した様な穏やかな笑みを浮かべるのだった。




