4-11 頼りない裏で
ガンリュウ大尉は、凹んだままのエルヴィンを見ながら、1つの懸念が脳裏を過ぎった。
「で、どうするんだ? 一応、兵士達の訓練は万全だが、新兵である事に変わりはない。実戦経験のない兵士が大半のままで、敵補給基地を叩くのは不可能だ。最悪、全滅という可能性もある」
司令部からの出撃命令。つまり、直属の上官であるグラートバッハ上級大将からの命令が下った。
エルヴィンは5人以外全員が新兵の部隊を率いて、小規模ながらも敵拠点を攻撃しなければならない。
新兵の軍が歴戦の勇士の軍と戦わなければならない。
もし、敵が同数以上の兵力を有していた場合、結果は火を見るよりも明らかだろう。
新兵をどんなに訓練しようと、1回の実戦には敵わない。
戦場の緊張感、死の恐怖、そして、殺す恐怖。
それに慣れているのと、いないのでは、雲泥の差があるのだ。
その事は、アンナやガンリュウ大尉、そして、エルヴィンも当然知っていた。
ガンリュウ大尉の問いを聞いた時、エルヴィンは一瞬、沈んだ表情を浮かべたが、それは直ぐに緩められ、いつもの呑気な笑みを浮かべる。
「上層部の命令だから従うしかないよ。それに、敵と戦わない限り、実戦経験は身につかない」
「それはそうだ。だが、戦いに出れば敗北は確実だ。何か策を考えるべきだろう」
「策ね……まぁ、一応、考えてはあるよ」
「一応?」
ガンリュウ大尉はなんとも煮え切らないエルヴィンの返事に、無愛想さから少し憤りを露わにした。
「そんな一応の策でどうにかなるのか?」
エルヴィンは少し考えた後、席から立ち上がり、ガンリュウ大尉の方を振り向く。
「まぁ、なんとかするよ」
エルヴィンは微笑みながらそう大尉に告げると、何事も無い様にテントを後にしていった。
そんな彼の様子にやる気の感じられなかったガンリュウ大尉は、結局、憤りが治らずに居た。
「あれで、本当に大丈夫なのか?」
危機感も持たず、呑気な様子のエルヴィンを見て、ガンリュウ大尉の不安は増幅する一方だった。
そして、アンナの心にも不安があった。
しかし、それは、エルヴィンの策に対してではなく、一瞬見せた沈んだ表情に対してであった。
それを見た時、アンナはエルヴィンの心中を察してしまう。
出撃命令を聞いた時エルヴィンは、実戦を知らない兵士達を、戦場に送り出さねばならないという罪悪感に襲われた。
出撃すれば間違いなく兵士の何人かは死ぬだろう。そして、人生初の人殺しをさせる事になる。
形はどうあれ、人を殺すという非道を行うよう、兵士達に命令しなければならない。
その実感が、エルヴィンは等々、湧きだしてしまったのだ。
テントを出た後、陣地を歩き回り、まだ出撃命令が出たことを知らずに、笑って仲間と語り合う兵士達を眺めるエルヴィン。そして、彼は、彼等を1人でも多く生かす為、考えた策を何回も頭の中で吟味し、修正するのだった。




