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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第4章 ヒルデブラント要塞攻防戦
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4-8 会議は荒れる

 エルメリッヒ・ゾーリンゲン大将。40、50代の大将に囲まれながら、会議室で唯一の30代の最年少の大将であり、有能と呼べる若さであるにも関わらず、他の将軍達からの好意的な眼差しはなかった。


 しかし、そんな中でも、ゾーリンゲン大将は何食わぬ自信に満ちた表情で悠々と口を開く。



「我等が偉大なるゲルマン帝国軍が、何故、敵兵糧の枯渇による撤退などという小賢しい策を講じなければならないのですか? 我等帝国軍は大陸最強! 共和国軍に負けるなど有り得ない。年老いて、臆病風にでも吹かれましたかな?」



 とことん人を馬鹿にするゾーリンゲン大将に、他の将軍達は僅かばかりの怒りを感じていたが、それを露わにする事はなかった。


 ゾーリンゲン大将は名門伯爵家の跡取りであり、実力では無く、実家の権力と口利きにより出世していた。


 つまり、彼の実家が軍に影響力を持っているという証拠であり、その事を知っている他の将軍達は、ゾーリンゲン大将の背後の権力に怯え、怒りを表す事を躊躇ってしまうのだ。


 しかし、全員が全員、口を閉ざした訳では無かった。



「若造が……それでは多大な犠牲が出てしまうだろうが」



 他の将軍達が口を噤む中、只1人、エッセン大将が口を挟んだ。


 アウグスト・エッセン大将。59歳の将軍であり、会議室内で最年長の将軍となる。長い軍歴を誇る事からグラートバッハ上級大将からも畏敬の対象となっている。



「我々は18万もの将兵を皇帝陛下より預かっている。その兵士をむざむざ失うわけにはいかん! 敵の兵糧不足を狙う作戦を取れば、兵士の損害を減らす事ができる。兵の損害を最小限に、敵に勝利する。これに勝る勝ち方は無かろう。だからこそ慎重に作戦を練らねばならんのだ!」



 エッセン大将の的を射た的確な意見に、将軍達は同意する様に頷いた。会議室内で最も長い軍歴を誇るだけはある、見事な指摘であったろう。


 しかし、ゾーリンゲン大将は嘲笑の笑みを浮かべ、エッセン大将へ小馬鹿にする様な口調で告げる。



「わかって無いなぁ……」


「なにぃ?」



 エッセン大将はゾーリンゲン大将を睨んだ。



「兵をいくら失をうと、皇帝陛下は気にしませんよ。それより、いかに大陸の覇者に相応しい勝利を得るかが重要なのです!」



 ゾーリンゲン大将は立ち上がり、他の将軍達を見下すように演説を始める。



「我が帝国は大陸、()いては世界に名を轟かせる強国です。それが、敵の撤退を待つなどという邪道な戦いをするなど言語道断! 強国たる者、敵を正面から討ち破り、完膚なきまで粉砕し、二度と神聖なるゲルマンの地を穢そうなどと思わせない戦いをすべきだ!」



 ゾーリンゲン大将はエッセン大将に目をやり、再び人を馬鹿にする様な嘲笑の笑みを向けた。



「そんな事も分からず慎重論を唱えるは……やはり、老いたのではないですか? ()()()()()()()は早々に軍を退役なさるがよろしいかと」



 それを聞いた瞬間、我慢していた怒りは頂点に達し、溢れ、エッセン大将は血相を変え、机を思っ切り叩きながら立ち上がった。



「貴族の権力を利用して成り上がった若造が‼︎ 実力に伴わない地位にいる事を理解していないのかっ‼︎ 貴様のような奴に侮辱されるいわれなど無いわぁあっ‼︎」


「何か言っただけですぐ、頭に血がのぼる。これだから平民上がりの軍人は野蛮なのだ」


「貴様〜ぁあっ‼︎」



 エッセン大将は拳を握りしめ、ゾーリンゲン大将に殴り掛かろうとした。すると、ケムニッツ、クレーフェルト両大将も立ち上がり、ケムニッツ大将がエッセン大将を抑えた。



「エッセン大将、ここは堪えて下さい!」


「止めるなケムニッツ大将! この小僧は口で言ってもわからん! 1発殴って現実を思い知らせてやる‼︎」



 ケムニッツ大将が必死でエッセン大将を抑えているのを余所に、ゾーリンゲン大将は追い討ちを掛けるように言葉を投げかける。



「殴らないのか? 根性なしめ」


「ゾーリンゲン大将、そこまでに……」



 クレーフェルト大将がゾーリンゲン大将を(いさ)めようとするが、もう遅く、ゾーリンゲン大将の言葉はエッセン大将の怒りに油を注ぎ、その炎が鎮火出来ない勢いにまで発展してしまう。



「このクソガキがぁあっ‼︎」



  エッセン大将の怒りの表情がさらに増し、ケムニッツ大将を払い()け、今にもゾーリンゲン大将を殴り殺しかねない勢いだった。


 その時、



「止めたまえ‼︎」



 グラートバッハ上級大将の一言が、会議室内を沈黙へと変えた。



「共和国との戦いの最中だぞ! 我々司令官が下らない事で争っている場合ではない! こんな事をやっている間にも戦場では、多くの同胞が血を流している。それを忘れるな‼︎」



 上級大将の一喝でエッセン大将は頭を冷やし、平静に戻った。そして、上級大将の方を向き、頭を下げる。



「閣下、お見苦しい所を御見せして、申し訳ありません」



 エッセン大将に続いて、ケムニッツ、クレーフェルト両大将も上級大将に謝罪の御辞儀をし、3人は席に着くが、ゾーリンゲン大将だけは謝罪せず、不貞腐れた顔をしながら席に着いた。




  ゲルマン帝国軍内では深刻な対立が複数存在している。その1つが、貴族出身の軍人と平民出身の軍人の対立である。


 貴族制において最も重要だとされるのは血統であり、貴族にとって、下賎な血を持つ平民が、高貴な血筋の自分達と同じ地位にいるのが我慢ならなかった。


 一方、貴族の軍人のほとんどは、貴族の権力への忖度や賄賂などによって出世しており、平民にとって貴族は、卑劣な奴らという認識であった。


 エッセン大将は士官学校に通わず、直接軍人になった人物であり、実力で大将まで上り詰めた叩き上げの軍人であった。いわば平民の手本のような人物であり、ゾーンゲン大将はそんな人物が同じ地位に居る事が我慢ならなかったのだ。

 そして、ゾーリンゲン大将は、エッセン大将に自分を殴らせ、それを理由に左遷させようと画策し、挑発し続けていたのである。


 そんな事情に気付く事もなく、ブレーマーハーフェン大将は咳払いをすると、気を取り直して話しを再開する。



「では、今後の戦略方針についてですが……」



 その後、2時間ほど会議は続き、各将軍達の意見が纏められ、今後の方針と作戦が決められた。



「では各々方、これで宜しいかな?」



 グラートバッハ上級大将の言葉に、誰も横に首は振らず、将軍達は頷くだけに留める。



「これで会議は終了とします」



 ブレーマーハーフェン大将の言葉と共に将軍達は立ち上がると、直ぐこの場から離れたいかの様に一斉に会議室を出て行き、グラートバッハ上級大将とブレーマーハーフェン大将だけが会議室に残ると、そんな将軍達の後ろ姿を見ながら彼等は不安にかられてしまう。



「閣下、このような状態で大丈夫でしょうか?」


「大丈夫だと信じるしかない」



 上級大将はそう言いながらも、心の中の大きな不安の渦は、その大きさを少しずつ拡大していた。


 ブリュメール共和国という強敵を抱えながら、味方は団結せず、自分の都合で不和を生じさせている。こんな状態で共和国に勝てるのだろうか。今回勝てたとしても、その先は……。


 多くの不穏な空気を漂わせながら、会議の幕は閉じられたのであった。

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