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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第4章 ヒルデブラント要塞攻防戦
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4-6 報告を受けて

 エルヴィンはアンナとテントにて書類仕事を片付けていたのだが、やはり彼にしては珍しい行動らしく、彼女は少し感心する。



「エルヴィン、珍しいですね……昨日から、進んで書類仕事を片付けに来るなんて」


「流石に全ての仕事を君に押し付けるのは、気がひけるからね」


「仕事を押し付けている自覚はあるんですね」


「あははは……」



 力無く笑うエルヴィン。



「ところでエルヴィン、ガンリュウ大尉には話をつけたんですか?」


「一応、話したよ? 訓練が過酷過ぎて重傷者が続出しているから、もう少し抑えてくれって」


「反応はどうでした?」


「一応、改善するとは言っていたけど……とても嫌そうな顔してたよ。私からだけは注意されたくなかったという空気を、堂々と垂れ流しながら……」


「それは、そうでしょうね……」



 ガンリュウ大尉のエルヴィン嫌いは未だ続いていた。いや、更に酷くなっていた。

 貴族嫌いという理由に加え、エルヴィンの仕事をロクにしない役立たずという印象が追加されてしまったのが原因である。


 ここ数日、ガンリュウ大尉のエルヴィンへの非好意的な態度を見てきたアンナは、その事を察しており、大尉がエルヴィンに注意され、屈辱的な気分になった事を容易に想像するのだった。



「そろそろ、大尉と親睦を深めたいんどけどなぁ……」


「半分はエルヴィンの自業自得ですからね。気長に待つしかないでしょう」


「正論だけど、もう少し優しい言葉をかけて欲しいよ」


「それなら、もう少しちゃんと仕事して下さい。真面目な人になら優しくするかもしれませんよ?」



 エルヴィンは苦笑いして誤魔化した。

 真面目に仕事する姿など、彼自身も想像できなかったのだ。


 いつも通り辛口混じりの会話をする2人。そこに1人の兵士が少し不安な表情を携えながらテントに入ってきた。そして、エルヴィンに敬礼すると、報告を始める。



「報告します! 総司令官グラートバッハ上級大将が、大将以上の士官を集めて、緊急会議を開いたそうです!」



 報告を聞いた2人の手が止まる。



「開戦2日目でもう会議を開いたのか。しかも、前線の将軍達まで招集して……」



 開戦2日目にして前線指揮官が呼び出され、会議が開かれるという情報は、瞬く間に帝国軍に広がった。


 それにより、帝国軍には少なからず動揺が生じる。


 異例の事態に皆、不安になったのだ。


 そんな中、エルヴィンとアンナは少し驚いただけで、至って冷静であった。



「エルヴィン、どう思いますか?」


「おそらく……共和国軍が何かしらの行動に出たんだろうね。帝国軍の戦略を大きく揺るがす様な……」


「それは一体……」


「流石に詳しい事は検討つかないよ」



 エルヴィンは苦笑いしながら首を振った。



「でも、前線の将軍達まで招集して大丈夫なのでしょうか? 指揮官無しの前線部隊が、敵の攻撃を受け壊滅する危険がありますけど……」


「それは大丈夫じゃないかな。ラウ平原の戦力比は3対2だ。帝国軍の指揮官不在でも、その差を覆すのは難しい。要塞は、言わずもがな……」


「難攻不落と呼ばれる要塞。一時的に指揮官が離れたところで問題は無い。ですか……」


「まぁ、ラウ平原の兵力も合わせて攻めると不味いかもしれないけど……敵もそんな包囲殲滅を誘う様な博打は打たないだろう」



 エルヴィンの意見を聞き、アンナは納得した。



「まぁ、そんな事を我々が心配した所で意味は無いし、此方(こちら)の司令官はグラートバッハ上級大将だ。閣下なら惨敗なんて事にはならないさ」


「それも、そうですね」



 結局のところ、1大隊指揮官が戦略について論じた所で、司令官に意見できる立場でも無い限り、余り意味は無い。


 2人がそういう結論に至った時だった。



「あの〜、そろそろ退出して宜しいでしょうか……?」



 先程伝令に来た兵士が、恐る恐る右手を挙げ、恐る恐る顔色を伺う様にそう伺った。


 2人は完全にその兵士の存在を忘れ、話に耽ってしまっていたのだ。



「あ、すまない。退出して良いよ」



 エルヴィンの指示を聞いた兵士は、敬礼した後、踵を返し、テント出口へ向かうのだが、その足取りは長時間立たされた疲労によって、ぎこちなかった。



「彼、大丈夫だろうか……」



 エルヴィンは兵士の背中を見ながら、心配そうにそう呟き、アンナはそれに淡白な反応をする。



「大丈夫でしょう。彼も兵士です。常人より足腰は強い筈です」


「そうなんだけど……もし、ガンリュウ大尉が訓練の過酷さをあまり改善してなかったら……彼、あの状態で地獄の訓練を受ける事になるなと思って…………」


「それは……」



 ガンリュウ大尉の訓練。それにアンナも兵士の気の毒さに気付いてしまう。


 そうして2人は、兵士が去った後のテント出口を眺めつつ、少しばかりの罪悪感を感じるのだった。

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