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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第3章 第11独立遊撃大隊
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3-19 銀髪の衛生兵

 エルヴィンは衛生兵達の様子を確認しつつ、溜まっているであろう書類仕事を思い出した。


 そろそろ戻るかな……早く戻らないと徹夜になってしまう。


 そう思いながら外へと足を進めたエルヴィン。



「大隊長!」



 自分を呼ぶ声。それは若い少女の声だった。


 それに立ち止まったエルヴィンは、声が聞こえた背後を振り向くと、そこには、ウルム准尉と口論していた15歳ぐらいの少女の兵士が立っていた。


 少女の兵士は、雪の様に綺麗な白銀色の腰程まである長い髪に、済んだ海の様に青い瞳、年相応の幼さはあるものの、間違いなく美少女と言って過言の無い可愛らしい女の子だった。

 身長は歳の割に少し小さく、頭には下級兵士用の軍帽を被っている。


 エルヴィンは、何の用だろうと不思議に思いながら、少女の兵士に目を向けた。すると、彼女は突然、エルヴィンへと頭を下げる。



「先程は、大隊長のお手を(わずら)わせてしまって、申し訳ありませんでした!」



 突然の謝罪に、エルヴィンは戸惑い、暫くの間、対応に困った。しかし、直ぐに安心させる様に笑みを浮かべ、声を掛ける。



「君が気にする必要は無いよ。そもそも、仲裁したのは私の勝手な行動だ、見て見ぬ振りをすれば良かったんだからね」



 少女の兵士は頭を上げると、ホットしたように胸に手を当て、吐息を(こぼ)した。


 この時、エルヴィンは少女の兵士に感心していた。


 彼女が上官への畏怖からではなく、彼女自身の優しさから謝りに来た事が分かったからだ。


 衛生兵にとって優しさは武器だ。


 負傷した兵士達は、傷の激痛と仲間が死んでいく光景で気持ちが病んでいく。更に、外傷は無くても、精神がボロボロになる兵士も多い。


 優しい人間は、そんな兵士達の精神面もケア出来る資質があるのだ。



「それにしても……小隊長に意見するとは、君はなかなか度胸があるね。普通の兵士は、間違っていると思っていても、目上の人間に口は出さないものだから」


「やはり……駄目、でしたか?」


「駄目では無いけど……他の部隊では控えた方が良いね。大抵の兵士は、年下で、しかも、士官学校も出ていない兵士から注意されるのは、不愉快に思う物だ。ウルム准尉の反応が、いわば普通だね。しかも、多くの上官はそれに共感する。だから、大概は准尉じゃなく、君が悪いという判断を下すだろう」


「……気を付けます…………」


「まぁ、私の部隊にいる時は全然構わないよ? 私自身、どんな立場の部下の意見にも聞くべき事がある、と思っているからね。……あ、でも、戦闘中は控えてくれ。瞬時の判断が求められる状況では、判断を少しでも鈍らすのはマズイ。意見を求められた場合は良いけどね」


「わかりました!」



 少女の兵士の返事を聞き、「この子は、とても素直な子だなぁ」と、エルヴィンは心の中でまた感心した。


 出会った頃のアンナを思い出すなぁ……あの時のアンナも、こんな風に素直だったっけ。本当に今と大違いだよなぁ……今日だって、仕事を無理矢理に……。


 エルヴィンはこの時、ある嫌な事を思い出してしまい、冷や汗を流した。



「書類仕事、あるんだった……」



 自分のデスクには、現在、手付かずの書類が大量に残されており、今日中に終わらなければ終夜眠らずの作業になってしまうのだ。



「早く戻らないと明日は睡魔に襲われながらの生活になってしまう!」



 エルヴィンは少し急ぎ足でテント出口に向かった。しかし、その途中で立ち止まると、少女の兵士の方を振り向いた。



「君も頑張ってね」



 只一言、少女の兵士にそう言い残して、エルヴィン衛生兵テントを出て行き、そんな慌ただしい上官の背中に、少女の兵士は少し嬉しそうな笑みを向けるのだった。

 



 その後、エルヴィンは書類仕事を必死に、死に物狂いで進める事になるのだが、結局、終わらせる事は出来ず、徹夜となってしまうのであった。

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