3-12 頼りない隊長、厳格な副隊長
世暦1914年5月21日
エルヴィン達、第11独立遊撃大隊は、部隊の実力を測る為、シュロストーア郊外にある野外訓練場にて訓練を行っていた。
結果は、言うまでもないだろう。
陣形はバラバラ、銃は当たらない、魔法も当たらない。戦場に出れば直ぐに全滅しかねない程、酷かったのだ。
「参ったな〜……予想はしてたけど……まさか、ここまでとは……」
訓練の様子を見ていたエルヴィンは、困った様に眉をひそめ、頭を掻いた。
「新兵だらけだから、仕方ないと言えば仕方ないけど……戦場では、そうも言ってられないしな……」
エルヴィンは顎を摘み、現状を打開する為、今後の方針を考える。
「お前、なに平然とサボっている」
そこに、ガンリュウ大尉が、いつもの如く無愛想さを伴いやって来て、エルヴィンの頭の回転を止めさせた。
「サボって無いよ。これからどうするか考えていたんだ」
エルヴィンは折角なので、ガンリュウ大尉に意見を求める事にした。
「ガンリュウ大尉、兵士達の現状をどう思う?」
「酷い」
「まぁ、確かに酷いけど……新兵だから、ある程度は仕方ないだろう?」
「いや、それでも酷過ぎる。動きもそうだが……第一、やる気が無い。無さ過ぎる。こんなにやる気の欠けた部隊は初めて見る」
「そこまでかい? ……何故だろう…………?」
首を傾げ、必死に考えるエルヴィンを見て、ガンリュウ大尉は少し憤りまじりの呆れた様子で、彼に聞こえないように呟く。
「誰の所為だと思ってる……」
兵士達のやる気がない理由は、昨日のエルヴィンのスピーチであった。
昨日の簡素すぎるスピーチの所為で、エルヴィンの頼りなさと、やる気の無さを感じ、威厳の無い外見と傲慢な貴族という肩書きが合わさって、兵士達が更なる不安へと陥ってしまったのだ。
「まぁ、何にせよ、ちゃんとした訓練をする必要があるね……と、いう訳で……」
エルヴィンはガンリュウ大尉に目を向ける。
「ガンリュウ大尉、兵士達の訓練をお願い出来るかな」
清々しいほど平然と仕事を押し付けるエルヴィンに、ガンリュウ大尉は呆れるしかない。
「お前の部隊だろう……お前が訓練しろ」
「君の方が適任なんだよ。だって、ほら……私、銃が使えないから……」
「……はっ?」
ガンリュウ大尉は思わず、珍しく呆れ声をあげ、エルヴィンへと細めた視線を向ける。
「銃が使えないって……お前、兵科は通常歩兵だった筈だが? 通常歩兵が銃を使えず、どうやって戦うつもりだ?」
「使えない事は無いよ? 只……全く当たらないんだよ。銃の才能が全く無かったんだね、きっと」
「……お前、よく今まで生きて来れたな」
「士官学校を出てるからね。部隊の指揮さえしていれば良かったから、銃を握る必要が無かったんだよ。一兵卒から始めてたら、間違いなく初陣で戦死してただろうね」
自分の恥と無能ぶりを笑って話す大隊長を見て、ガンリュウ大尉はこの部隊の未来を案じざるを得なかった。
「分かった……兵士の訓練は俺がやろう。銃すら使えない奴に任せるわけにはいかん」
「うん、宜しく」
ガンリュウ大尉はエルヴィンに形だけの敬礼をした後、早速、兵士達の訓練メニューを組みに向かった。
「さてと……流石に見て回るかな」
ガンリュウ大尉が去った後、エルヴィンは各部隊の視察へ向かった。
まず最初に第1中隊の下を訪れたエルヴィン。
第1中隊は、副隊長であるガンリュウ大尉が中隊長を兼任しており、半数以上が魔術兵である。
エルヴィンが第1中隊の下に着いた時、魔術兵達は木刀による剣の撃ち合いをし、通常兵は銃の射撃訓練をしていた。
しかし、ほとんどの兵士が訓練をサボり、トランプや談笑に耽っており、ガンリュウ大尉の言い分が即座に理解できる。
「なるほど……確かに、やる気が無いな……」
エルヴィンが心で嘆息すると、兵士達が此方に気付いて慌て出す。
「ヤベッ‼︎」
「副隊長にバレる‼︎」
兵士達は誤魔化す様に訓練を再開するが、エルヴィンは、「副隊長にバレる方が怖いのか……」と心の中で嘆息しつつ、ガンリュウ大尉がどれほど兵士達に恐れられているか確認するのだった。




