3-4 1人目
世暦1914年5月17日
エルヴィンとアンナは、候補者の中から選んだ兵士達を勧誘すべく、その1人の所に、鉄道に揺られながら向かっていた。
「マンフレート・ジーゲン中尉、25歳。種族は獣人族。所属は第17師団、第306通常歩兵大隊。亜人族で25歳で中尉とは、有能ですね」
この世界に於いて、軍では大きく3つの兵科が存在する。
その内の1つ、通常兵は、魔力を操らず、銃を武器として戦う兵士達であり、帝国兵力の7割はこれに該当している。
ジーゲン中尉の資料を片手に、その内容を説明したアンナ。そして彼女の目の前で、エルヴィンは楽しそうに微笑みを浮かべていた。
「亜人族、特に獣人族は基本的に学校教育を受けられないから、士官学校にも軍学校にも入れない。だから二等兵か運が良くて伍長からしか始められない。なのに、彼は25歳で中尉にまで出世した」
エルヴィンは窓の外を眺め、思いを馳せる。
「彼をそこまで出世させた物は何か……会って確認しないとね」
エルヴィンの思考はジーゲン中尉への興味で支配されていた。どんな性格、外見、能力なのか。自分との相性は良いか。心の底から湧き出る期待の興奮を、どうにか行動に現れないよう引き止めていた。
2人は列車を降りると、町を歩き、第17師団駐屯地に到着して先ず師団長への挨拶を済ませた後、第306通常歩兵大隊隊長に引き抜き許可を貰い、ジーゲン中尉の居場所を聞き、その場所に向かった。
「ジーゲン中尉の引き抜き、アッサリ承諾してくれましたね」
「第17師団は第8軍団の所属なんだけど、この軍団の司令官は貴族で、その為か、麾下の部隊のほとんどで獣人差別が激しいんだ……」
道中、辺りを見渡すと、獣人族と人間族の兵士が別々に集まって話をしていた。明らかに、互いに互いを避けていたのだ。
「やはり、人間族と獣人族との間に溝がありますね……」
「やれやれ……共和国という強敵が正面に存在するのに、身内が団結していないとは……予想はしていたけど、これでよく負けないものだね」
「ブリュメール方面軍所属の他の部隊は、両種族の中、それ程、悪く無かったですよね?」
「ブリュメール方面は戦闘が日常茶飯事だから、基本的には差別なんて贅沢している余裕は無いからね。一緒に戦う内に仲良くなるのさ」
「第8軍団がブリュメール方面軍で異質、という事ですか……」
アンナは、亜人差別が帝国で未だ根強いことを改めて実感させられた。
会話をしている内に目的地に到着した2人。そこは訓練場であり、青い芝生が広がり、その上で兵士達が訓練服を着ながら組手をしていた。
「さて、ジーゲン中尉は何処かな……?」
2人は資料の写真で中尉の顔が分かっていたので、遠目で探す事にした。そして、簡単に見付ける事が出来た。
「エルヴィン、彼ですね」
「あぁ、直ぐに分かったよ。なにせ……」
ジーゲン中尉は浮いていた。他の兵士が訓練服を着て組手する中、彼だけ堂々と、上半身裸で組手をしていたのだ。




