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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第3章 第11独立遊撃大隊
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3-1 新たな辞令

 世暦(せいれき)1914年5月15日


 エルヴィンは帝国北東部にある町シュロストーアにある、ブリュメール方面軍総司令部にアンナ抜きで訪れていた。新たな辞令を受け取る為である。


 しかし、今回エルヴィンを呼び出した人物は、明らかに特殊であったと言える。


 エルヴィンは総司令部の最上階のとある部屋の前まで来ると、扉をノックし、中からの「入れ」と言う男性の声と共に入室する。中には初老の男性がデスクに座っており、エルヴィンはその男性に敬礼した。



「エルヴィン・フライブルク大尉、閣下の召集により馳せ参じました!」


「うむ、ご苦労」



 初老の男はブリュメール方面軍総司令官パウル・フォン・ベルギッシュ・グラートバッハ上級大将であった。




 名門貴族の3男に生まれたグラートバッハ上級大将。彼は兄達に負けぬようにという理由で士官学校時代を経て軍に入隊。数々の武勲を立て上級大将にまで上り詰めた人物である。

 貴族には珍しい公私混同をしない良識人で、平民出身の者や獣人族の兵士達からの信頼も厚い有能な将軍でもある。


 1士官でしかないエルヴィンを方面軍総司令官の地位を持つ人物が呼び出すのは普通ではなかった。貴族だからと言う理由も、グラートバッハ上級大将に限ってはあり得ない。



「今回呼ばれた理由は何でしょう? 普通、辞令は人事部で渡されるか、手紙で送られて来る筈ですが……閣下自ら、私のような1士官に渡すなど、あり得ぬ話ですし」


「そのあり得ないことが、今、起きたということだ」



 グラートバッハ上級大将はそう告げると、デスクの引き出しから辞令書を取り出し、エルヴィンに手渡した。



「貴官は前の戦いの功績から少佐に昇進する。そして、新設される大隊の隊長になってもらう。その大隊が特殊なので、貴官を呼んだのだ」



 エルヴィンは前の大隊の仲間達と別れるのを惜しんだが、軍に所属している以上、命令は絶対であり、異動することは稀ではない。そのため、異論を唱えることはしなかった。


 しかし、もう1つの辞令には不満があった。



「少佐への昇進、御断りしてもよろしいでしょうか?」


「ほぉ……何故だね? 1階級昇格するだけでも、貴官に与えられる権限と給料は格段に上がると思うのだが?」


「閣下は御存知でしょうに……私の軍での目的は、出世などには無い事ぐらい……」


「あはは、勿論知っている。貴官の目的は人脈を作る事だろう?」


「ええ、その通りです。私は領地持ちの貴族ではありますが、その民を守る為に必要な人脈が足りていないので……人脈を広げる間も無く出世させられるのは、ちょっと……」


「あはははは、理由にもならん! 人脈ならば出世した後でも広げられるだろう?」


「早過ぎるんですよ……20で少佐ですよ? 有り得ないでしょう……」


「20で少佐などザラに居るがなぁ……」


「それ等は総じて貴族云々(うんぬん)によるものですよね? 何故、普通に戦場に出て、普通に戦って、こんな有り得ない速度で出世するんですか? 異常ですよ……」


「あの戦歴を普通と言うか……」


「何ですか?」


「いや、何でもない……」



 グラートバッハ上級大将は苦笑を浮かべ、「これは命令だから君に拒否権は無い」として、エルヴィンは渋々、諦めさせられた。



「了解しました……で、その部隊が特殊と言うのは……」



 グラートバッハ上級大将は1つの封筒もデスクの引き出しから出し、此方(こちら)もエルヴィンへ手渡した。その封筒にはゲルマン語で"第11独立遊撃大隊"と書かれていた。



「"独立遊撃大隊"、ですか……独立大隊は分かりますが、遊撃と言うのは……」


「司令部直属の大隊、独立大隊に、遊撃隊の要素を合わせた部隊だ」


「もう少し詳しく御説明を願えますか?」


「要するに、私直属の部隊で、私の命令以外は自由に拒否や承諾が出来る。私の命令に反しない限り、隊長の采配での独断行動が許される。戦術面において好き勝手に戦い、好き勝手に撤退しても良いという自由な部隊だ」



 隊長の采配による行動の自由が許された部隊、明らかに得にしか見えない部隊だったが、それを聞いたエルヴィンは、あまり良い顔をしなかった。この部隊におけるリスクに気付いていたからである。



「要は、隊長の自己責任で行動する部隊ですよね?」


「不服かね?」


「当然ですよ! 失敗すれば全て私の責任になりますし、閣下以外の命令でも、忖度やら何やらで従わざるを得ない場合もあるでしょう! 明らかにリスクの方が大きいと考えます!」


「あはははは、確かにそうだ。だが、これも命令だ、貴官に拒否権は無い」



 軍隊に於いて命令は絶対であり、上官からこの言葉が出た時点で従わなければならない。

 エルヴィンは今後の自分に降り掛かるであろう不幸を(うれ)い、大きな溜め息を()くのだった。

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