1-3 怠惰な大尉
エルヴィンと呼ばれた大尉の男は、茶色の癖っ毛で、ボサボサのだらしない髪をした20歳ぐらいの青年で、軍服の襟元には大尉を示すバッジが付いて居るものの、そのだらし無い姿が士官として、延いては軍人としての威厳と風格を殺していた。
顔自体は別段イケメンというわけでは無いが、別に不細工では無かった。しかし、アンナと比べると、見た目のだらし無さと相まって、かっこ悪く見えてしまっている。
最初の細やかな抵抗が失敗に終わったエルヴィン。どうしても仕事に戻りたくなかった彼は、少し考え込むと、宥める様な笑みをアンナに向けた。
「私は今、休憩中だ」
「休憩中?」
「そう、私は休憩しているんだ。 私がしている仕事は、補給関係などの事務仕事ばかりだろう? ほとんど座りっぱなしのデスクワークだろう? その様な仕事を休む間なくやっていたら、不健康になってしまうよ。士官がそんな事になったら大変だろう? そうならない為に、休憩しているんだよ」
エルヴィンは、完璧な言い訳を言った満足感に浸り、自信満々の笑みを浮かべながらアンナが諦めて戻るのを待った。
しかし、アンナは溜め息を1度零すと、考える間も無く直ぐに反論した。
「5時間も仕事を放ったらかしにするのは、休憩ではなくサボりです! それに、そんな言い訳をしても無駄ですよ? 自分で戻らないなら、引きずってでも連れて行きますから」
アンナの脅迫混じりの言葉に、エルヴィンの笑みは苦笑に変わった。
それでも、エルヴィンは立ち上がると、往生際悪く口を開き続ける。
「書類仕事は誰でも出来る。つまり、アンナ、君でも出来るという事だ。たがら……君が書類を片付けてくれても良いんだよ?」
「嫌ですよ」
アンナはまた呆れた様子でハッキリと答えた。
「何で私が貴方の仕事を肩代わりしなければいけないんですか? 貴方はこの部隊の副隊長ですよ? 書類仕事ぐらい自分でして下さい!」
「君には、尊敬する上官に楽させてあげようという優しさは無いのかい?」
「部下に仕事を押し付けようとする上官を、尊敬する訳ないでしょう」
最もな意見に、エルヴィンは言い返す事が出来なかった。しかも、自分の言い訳、反論を悉くアンナに潰されて、流石にネタが底を突いてしまったらしい。
「本当に仕事しなきゃダメ?」
「当たり前です!」
苦し紛れの最後の抵抗が失敗し、流石にエルヴィンも諦めた様子で肩を落とす。
「わかったよ。 戻って仕事するよ……」
エルヴィンはやっと往生すると、重い足取りながらも、テント出口に向かった。
しかし、その去り際、
「はぁ……仕事したくないなぁ……」
などと呟き、テントを後にした。
一方、やっとの思いでエルヴィンを仕事に戻らせたアンナだったが、その表情に満足感などある筈も無い。
「疲れた……」
そう口にしながら、呆れた様子で大きな溜め息を吐き、只残った疲労感に苛まれつつ、エルヴィンの後を付いていくのだった。