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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第2章 エルヴィン・フライブルクという男
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2-18 続く領主の仕事

 屋敷で昼飯を食べた後、エルヴィンとアンナはフライブルク軍司令本部に向かった。


 フライブルク軍。地方軍の1つでエルヴィン直属の軍隊。総勢920名が在籍しており、男爵領内の町や村に駐留している。


 フライブルク軍司令部はコンクリート製の2階建ての建物で、ヴンダーの街ではエルヴィンの屋敷よりも大きい。


 司令部に到着した2人は、2階にある司令官室に向かい歩いていると、縛られたまま連行されるルートヴィッヒに出会う。



「ルートヴィッヒ……君、いよいよ何かしちゃったのかい?」



 エルヴィンは可哀想な者を見る目でルートヴィッヒを見詰め、ルートヴィッヒはそれに軽い怒りを表す。



「するか! 只、説教中に逃げようとして、捕まっただけだよ!」


「それにしたって、連行されるのはおかしくないかい?」


「バカ司令が反省の為にとか言って、俺を1時間、牢屋に入れるからだよ! 本当、親子揃って制裁が過激だな! 森人(エルフ)族って、清楚でお淑やかな種族じゃなかったっけ? まるでマフィアだ! いや、まるでじゃない、()()()()だ‼︎ 間違いない……」



 エルヴィンは大量の冷や汗をかいた。後ろで、ものすっごい怒る、アンナが居たからである。


 そして、ルートヴィッヒもそれに気付くと、これから自分に起こるであろう悲劇を予想し、顔を青ざめた。



「ルートヴィッヒ……私達の本当の制裁を、味わいますか?」


「いや、遠慮させて頂きます……」


「まぁ、どちらにせよ、貴方に拒否権はありませんが……」


「あははははは……」



 力のない笑い声を最後に、ルートヴィッヒはアンナな容赦ない拳の応酬を受ける。


 制裁が終わった後、アンナは、顔面が数百匹の蜂に刺された様に膨らむルートヴィッヒを背に、気にすることなく跡を去り、エルヴィンは散々やられた彼を少し気の毒に思いながらも、彼女に付いて行った。




 司令官室の前まで来た2人。アンナは別の用事の為エルヴィンと別れ、彼1人で司令官室へ入っていき、そこでは1人の森人(エルフ)族の男性がデスクで書類と格闘していた。

 その人物こそ、フライブルク軍司令官アンリ・フェルデンであり、アンナの父でもある。


 アンリはエルヴィンが入室して来た事に気付くと、手を止め、立ち上がり、彼の下へと赴いた。



「御領主様、今日も御足労ありがとうございます」


「いえ、これも領主としての仕事の内です」



 2人は軽く挨拶を交わすと、部屋の中央にあるソファーに向かい合う型で座った。そして、1時間ほど仕事の話をした後、話題は魔獣増加の件についてへと変わる。



「魔獣が増えていると伺いましたが……アンリさんは、原因を何だと御考えですか?」


「それは私にも測りかねます。なにせ、あの8割以上が謎に包まれている魔境のことは、魔獣の森に住む森人(エルフ)でさえ、ほとんど知りません」


「やはり、アンリさんにも検討がつきませんか……」



 "魔獣の森"、ノース大陸に巨大な穴が空いたように存在する大森林地帯。

 その存在は謎が多く、過去いくつもの調査隊が派遣されたが、その(ことごと)くが魔獣に全滅させられ、その全容を知る者は誰も居ない。


 ヴンダーの街がこの森の側にある以上、森の異変は街の被害に直結しかねず、その動向には目を配る必要があった。



「魔獣の森。度重なる人の戦争により、各地の魔獣が絶滅した現在、大陸で唯一、魔獣が存在する未知の魔境。そんなモノの側にある街の統治は、やはり楽ではないですね……おかげで私の仕事は増える一方ですよ」



 エルヴィンは自分の心労を嘆くように、大きな溜め息を()き、アンリはそれに尤もだと苦笑する。



「領主様、取り敢えずは様子見という事でよろしいでしょうか?」


「まぁ、それしかないでしょう……」



 魔獣の森については取り敢えず結論は出た。しかし、また別に、エルヴィンを悩ませるに値する問題をフライブルク軍は抱えていた。



「御領主様、実はもう1つ、伝えておきたいことが……」


「何ですか?」


「ルートヴィッヒの素行が問題になっているのです」


「アイツのことか……」



 エルヴィンは呆れる余り天井を見上げ、両目を右手で覆った。



「仕事はサボる、朝礼には遅刻する、そして、夜は女遊び。他の兵士から苦情が続々来ています。フライブルク軍の面汚しではないか、と……」


「アイツ、もう少し自重してくれないものかな?」


「まぁ、仕事の手際は見事です。魔獣狩りの時は、ある程度の魔物なら一人で狩れますし、まだ未熟な部下への気遣いも欠かさない。面汚しな面を差し引いても、惜しむべきところが多いです。しかし……」


「面汚しの部分を無視できる筈もない、ですか……」


「はい……」


 

 エルヴィンは手を顔から離すと、溜め息を()き、視線をアンリに向き直した。



「ルートヴィッヒを推薦したのは私ですからね。あまり自信はないですが注意はしておきます」


「御願いします」



 取り敢えず、ルートヴィッヒに注意を入れる事にした2人だったが、



「「絶対、治らないだろうなぁ……」」



 彼の素行改善を半ば諦めていたのだった。




 その後、軽く会話をしたエルヴィンは、話し合う要件を済ませると、アンリに挨拶をして部屋を後にした。そして、先に部屋の前で待っていたアンナと合流し、司令本部も後にする。



「まだ時間はあるね。領内を見て回るか……」



 いつもなら車で送迎されるエルヴィン達だったが、今日は天気も悪くなかった為、歩いて屋敷に向かう事にし、その道中、エルヴィンは多くの領民に声を掛けられる事となった。



「あ! ぐうたら男爵だ!」


「領主様、また仕事サボってないか?」


「男爵様、アンナさんの言う事しっかり聞くんだよ」



 エルヴィンの仕事をサボる癖は領民にも知れ渡り、"ぐうたら男爵"という名が領内に広がってしまっていた。

 その悪名を(ささや)かれる(ごと)に、エルヴィンは、反論出来る程に勤勉である自信も無い為、只、苦笑いするしかなく、そんなエルヴィンの様子を、アンナは横でクスクス笑いながら眺めるのだった。




 屋敷に到着した2人は、書斎で暫く領地について話し合った後、外が暗闇に包まれ始めた時に話を終え、アンナは、エルヴィンとテレジアに挨拶して、自分の家に帰って行った。

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