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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第8章 リーズスティーンツ戦役
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8-15 シュテルン海岸上陸作戦

 世暦(せいれき)1915年1月16日


 リーズスティーンツ地方東部北、東方戦線の王国第二軍左翼背後に位置するシュテルン海岸。そこを目指し、海岸線を覆うように無数の艦船が(うごめ)いていた。


 プラウエン少将率いる帝国第三軍団が、サンリガル地方の駐留艦隊の護衛を受けながら、上陸作戦を開始したのだ。


 揚陸艦群が迫って来る様子を、双眼鏡越しに確認したシュテルン海岸王国守備隊は、冷ややかな汗と共に緊張感を顔に貼り付けた。


 東方戦線に於ける制海権が奪われた以上、敵が上陸作戦を開始するのは簡単に予想出来、王国軍の迎撃準備は早々に始められていたのだが、第二軍は敵第五軍団等と睨み合わねばならないため余り兵を割けず、イムバフ軍港に待機中の予備戦力を使おうにも距離があって到着までに時間が掛かる。


 結果、シュテルン海岸周辺に待機していた兵士達を糾合して迎撃部隊を作ったが、帝国軍一万近くに対してたったの千近く。防衛側の有利はあれど兵力が少な過ぎたのだ。


 こんな中開かれた"〔シュテルン海岸上陸作戦〕"の戦端だったが、始まりは砲撃艦による海岸への執拗なる攻撃だった。


 砂浜には無数のクレーターが作られ、背後の王国防衛設備も次々と破壊。着実に防衛能力が低下させられていく。


 そうして、王国軍の防衛能力が削られていくうちに、帝国軍は揚陸艦から上陸用船艇に兵士を乗せ、上空を味方の砲弾が飛翔する中、シュテルン海岸へ向け針路を取らせる。


 上陸用船艇が陸に近付くに連れ、艦隊からの砲撃も止み、逆に海岸守備隊からの苛烈な砲火が帝国兵達を襲った。


 一隻の船に砲弾が直撃すると、爆炎と共に帝国兵十数名を道連れに炎上し、これが数回に渡り繰り返される。


 それでも圧倒的な物量差はどうにもならず、王国軍は敵を捌き切れなくなり、帝国軍の海岸上陸を許してしまう。


 大挙して押し寄せる波を防ぐのに、やはり守備隊の防波堤は余りに小さ過ぎた。結果、守備隊は早々に壊滅。此処(ここ)に、帝国軍によるシュテルン海岸上陸が完遂された。


 その報告が即座に王国第二軍へと伝えられると、背後に邪魔な蜂の巣が作られた事に、司令官のロジャー・モーカム中将から舌打ちが(こぼ)される。



「面倒ごとが増えやがった。第四艦隊が間抜けにも敗北なんぞしなければ、こんな事にはならなかったものを……」



 海軍を侮辱する様な発言だが、原因の一端が彼等にある以上、文句を向けずには居られない。



「参謀長! 此方(こちら)から兵を割き、背後の敵に回す事は可能か?」


「不可能ではありませんが、余りお勧めは出来ません。我々は現在、敵第五軍団等と膠着状態にあります。しかも、此方(こちら)が不利という中で危うく保たれている均衡です。此処(ここ)で兵を減らせば、一気に押し返される危険があります」


「だが、このままでは左翼が挟撃される可能性が高いぞ?」


「確かに背後の敵は厄介ではありますが、暫くすれば第四艦隊の代わりとして、第二艦隊もしくは第三艦隊が援軍に来るでしょう。そうなれば、制海権を奪い返し、背後の敵は孤立する事になる筈です」


「そう心配する必要も無いという事か?」


「おそらく。それに……背後の小拠点には味方も散らばっており、彼等との戦闘も強いられる以上、疲労も蓄積されるかと」


「貴官の(げん)(わか)かった。だが、一応は警戒させておくとしよう。背後には、羽虫程度だが、()()()()も未だに潜んどる事だしな」



 モーカム中将の命令を聞いた参謀長は、左翼の部隊へと伝令を走らせると共に、各拠点を守る部隊への情報伝達も行なった。




 同時刻、帝国軍が奪還したシュテルン海岸では、第三軍団等が拠点化作業を進めており、簡易的な船着場と司令部、幕舎などが次々と張られていった。


 そして、各指揮官達は、今後の行動計画を練るべく、各々の部隊の士官達との会議を始めていく。



「司令部からの命令では、全体の指針として周辺拠点の奪還を主とする様だ」



 地図を囲む様に第十一独立遊撃大隊の士官達が集まる中で、エルヴィンから告げられた司令部からの命令に、第二中隊長ジーゲン大尉は好意的に首肯する。



「妥当でしょう。我々が敵第二軍の背後を突いても、更にその背後を敵の別部隊に突かれては敵いませんからね。此処(ここ)等一帯を安全地帯にしておくべきではあります」


「でも、時間が経過すれば、その分、敵の援軍が到着する可能性が高くなりますよ? 特に、艦隊が送られて制海権が()られでもすれば補給線が寸断されますよね?」



 第三中隊長フュルト大尉の指摘に、一様に唸り声を漏らし、ガンリュウ中佐の眉が鋭くしかめられる。



「これは運の戦いだな。早急に拠点を奪還し続けた所で、敵艦隊が来れば全て水泡に帰すのだから……」



 辛辣な意見だが、正にその通りである。水泡に帰せば、戦いで少なからず出るだろう死者を嘲笑われる羽目になる。



「まぁ、取り敢えずは近くの拠点を奪還し続けるしかないかな。情報部からの報告では、まだ味方が取り残されているとの事だしね。彼等を助けると思えば意義のある戦いだ」



 笑みを浮かべ、悲観的考えを建設的な色へとエルヴィンが塗り替えた後、他の者達も力強い頷きを持って、彼への同意とした。

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