1-2 大尉と森人の少女
森人の少女は早速、兵士に教えられたテントの前まで来ると、中で騒ぐ兵士達の声が自然と耳に入って来た。
少なくともテントの中に人は居るらしく、その事実が分かった彼女は、天幕を上げ、そっと中を覗き、12人程の兵士が談笑している中、4人の兵士がテーブルを囲んでポーカーをしている姿を確認する。
そして、その4人の兵士の内の1人。その兵士の姿を見た瞬間、また、呆れて溜め息を零した。
「本当に居た……」
森人の少女は肩を落としながら呟くと、その4人の兵士の下に歩いていき、ポーカーをしている内の1人、その兵士の後ろに迷わず立った。
「大尉!」
森人の少女はその兵士、大尉のことを呼んだ。
しかし、
「う〜ん……なかなか良いの揃わないなぁ……」
大尉は、堂々と気付かぬふりをしながら、黙々とポーカーを続ける。
「大尉、聞こえているんでしょう?」
「よしっ! 引き直そう!」
「目を通して貰わないと困る書類が沢山あるんですけど……」
「おっ! 今度は良いの揃ったよ!」
「あの……いい加減にして下さい……」
気付かぬふりを決め込む大尉に、森人の少女の声に苛立ちが混じり始める。
そんな少女の様子に気付いた他の3人の兵士は、恐る恐る、心配そうに2人を見詰めていた。
「仕事から逃げてないで、戻って来て下さい!」
「これなら、今度は勝てる!」
「大尉……」
何度も大尉を呼ぶ森人の少女。しかし、無視し続ける大尉に、彼女はとうとう痺れを切らした。
森人の少女は、大尉の耳元に口を寄せると、腹にいっぱいの空気を入れ、そして、そのまま大声で叫んだ。
「エルヴィンっ‼︎」
テントいっぱいに轟く声量。それを鼓膜に直接くらい、大尉は驚きのあまり固まり、その片耳では耳鳴りが鳴り響いた。
森人の少女による突然の大声に驚きながら、状況を察した3人の兵士は、手に持っていたトランプをゆっくりテーブルの上に置くと、巻き込まれ無いように、直ぐさまテントから出て行き、テントに居た他の兵士達も、飛び火を恐れて、同じくテントから飛び出していった。
2人を残し、誰も居なくなったテント。
暫くし、耳鳴りが治まった大尉は、テーブルの上にトランプを置くと、ゆっくりとエルフの少女の方を振り返る。
そして、落ち着いた様子で彼はこんなことを言った。
「アンナ、耳もとで大声を出さないでくれるかな? 鼓膜が破れそうだったよ……。もし、破れていたら、流石の君でも、上官に対する傷害罪で軍法会議にかけるところだよ?」
「そんな事で、会議に掛ける事なんてできませんよ……そんなことより、早く仕事に戻って下さい!」
大尉によるセンスの欠片も無い冗談に、アンナは呆れながら、そう答えるのだった。