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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第7章 オリヴィエ要塞攻防戦
395/450

7-78 復讐相手の行進

 味方魔術兵達と共に敵との乱戦を続け、周りの把握を怠らず、指示を飛ばしながら、誰よりも多くの敵を斬るガンリュウ少佐。



「第3小隊! 味方を分散させ過ぎだ! 第2小隊は突出するな! 味方との連携を保て! 第1小隊怯むな! 俺に続け‼︎」



 指示を飛ばした後、雄叫びを上げる第1小隊を率い、より苛烈な攻勢を掛けるガンリュウ少佐。


 目前に居た敵首を飛ばし、振り下ろされた剣を避け、その両腕を斬り落とした後、激痛で絶叫する敵を蹴って、敵数人にぶつけ、動きが鈍った彼等を一気に胴切りした。


 流れる様に、隙なく、暇なく、綺麗な無駄のない動きで指揮官と剣士を両立させるガンリュウ少佐に、味方は感嘆し士気を上げ、敵は恐怖し浮足立つ。


 戦いに於いて、強い人間が1人居るだけでも戦況を揺るがす場合が多い。それだけで兵士の士気が上がるからだ。三国志の呂布が良い例だろう。


 ガンリュウ少佐の場合は、軍略の能力も高い為、関羽が近いだろうが。



「副隊長! 敵からの狙撃により、味方数人が()られました!」



 後方から現れた兵士の報告に、ガンリュウ少佐は眼前の敵、その腹部を横に割いた後、眉をしかめる。



「狙撃程度なら身体強化で防げる筈だが?」


「狙撃自体に殺傷された訳では無く、狙撃の衝撃で怯んだ所を敵魔術兵に斬られたのです」


「なるほど……敵も上手い策を思い付いたな」



 賞賛を呟きながらも決して表情を変えないガンリュウ少佐。彼にとって、そんな情報は些細な事であった。



「だからといって、我々のやる事は変わらん。味方の死者を減らしつつ、より多くの敵を斬るだけだ」



 表情を変えず、気持ちも変えず、敵を殺す動作すら揺るがない。敵の狡猾な策に動じないガンリュウ少佐の姿は、背後の味方にとって頼もしく、士気は否応無しに上昇していく。



「総員、敵狙撃などに構うな‼︎ どうせ運が悪ければこの場で斬られて死ぬ! だが、味方との連携は重視しつつ、極力仲間の援護に回れるよう留意しろ‼︎」



 指示を飛ばし、味方に明確な行動指標を与えるガンリュウ少佐。味方の連携を言及させる事により、狙撃による死者を減らす狙いだったが、上手く機能したらしく、損害が格段に減った。


 そうして勢いを増していく帝国魔術兵達に、共和国側中央は押され、少しずつ後退を始めてしまう。



「よし! このまま押し返すぞ‼︎」



 部下達に(げき)を飛ばし、眼前の敵数名を即座に斬り伏せながら突出し、自分を先頭に凸形陣を敷き始めさせたガンリュウ少佐。


 このまま行けば中央突破が叶うだろう。


 上手く行ければこれで決着が着く。


 敵の先に見える勝利の光明に、帝国軍が視線を奪われた。


 ()()()()()()


 ガンリュウ少佐のこめかみに、突如として弾丸が直撃。彼の動きは止められ、態勢が見事に崩されてしまう。


 生じた僅かな隙。しかし、混戦に於いてそれは致命的過ぎた。


 ガンリュウ少佐の周りに居た共和国兵達が、ここぞとばかりに彼を包囲、四方から襲撃を掛けたのだ。



「副隊長‼︎」



 味方を率い、先頭に居たが故、彼の強さに周りが信頼し過ぎていたが故、帝国兵達は助けるタイミングを作らず、作れず、援護が間に合わない。


 逃げ場無し、退路も塞がれ、姿勢も崩れ、最早斬られ、殺されるしか道が無い。そう周りの全員が覚悟し、確信させる状態。


 ガンリュウ少佐の背へ、頭へ、腹部へ、胸部へ強靭が迫り、共和国兵達の口に優越的笑みが浮かんだ。


 しかし、彼の、《()()()()()()()を、その底を、この場の全員気付いてはいなかった。


 彼は、咄嗟に身体全体に貼り巡らせていた身体強化を解くと、弾丸に対しても無防備になった瞬間、左肩を最大出力の部分強化で防御。

 そこにワザと敵剣戟を受けさせ、金属の衝突音を鳴らしながら、その衝撃を利用し態勢を戻した。


 そして、即座に全身強化に戻しながら部分強化で脚力をより一層強化し、目下迫る剣戟の(ことごと)くをかわし、刀で受け止め、敵全ての攻撃を防ぎ切る。


 そうして出来た敵の隙に、眼前の敵を斜め斬り、その横の敵の首を飛ばし、それが持っていた剣を拾い、背後の敵の心臓目掛けて投げて絶命させた。


 僅か数秒の出来事。僅か数秒で敵3人を(ほふ)り、残って態勢を整え再び襲ってきた敵に対しては、いつものごとく胴を横切りにし、首を飛ばし、最後の敵は心臓を刺して絶命させる。



「マジ、かよ……」



 スコープ越しに《剣鬼》が何食わぬ顔で窮地を軽々しく脱し、此方(こちら)の味方数名を、これもまた軽々しく撃破した姿に、ジョエルは口元を引きつらせ、苦笑する。



「確かに完璧なタイミング、味方が包囲し撃破出来るタイミングでマリエルが頭に命中させて、実際殺せる好機だったんだぞ⁈ 味方がヘマしたとは思えねぇし……彼奴(あいつ)、どれだけ化け物なんだよ!」



 《剣鬼》。彼に小細工など通用しない。そう確信するに足る光景を彼は見てしまった。


 なら、正面から叩くしか無いが、当然、この手段は彼自身の強さにより潰される。


 数人相手であのザマになるのだ。十数人、数十人で、半分以上の犠牲を覚悟でぶつけなければ奴を倒す事など不可能だろう。


 そう、《武神》でも無ければ。



「ありゃ無理だ……復讐なんて出来っこねぇぜ」



 怯える様子も無く、すんなり諦めるジェエル。《剣鬼》はスコープ越しで、直接相対している訳でもない。周りほど復讐心も無いので自己の命を優先出来たのだ。



「マリエル、アレの強さ見ただろう? だからいい加減、復讐なんて……」



 此処(ここ)で隣の木のマリエルに視線を向けたジョエルだったが、彼女の姿に眉をひそめさせられた。



「マリエル、何してんだ……?」



 マリエルはスコープ越しに敵を眺め、変わらず引き金に指を当てていた。これだけならば特に疑問も無く、ただ単に敵撃破に勤めているだけなので問題も無い。


 "しかし、彼女の目は、ただ単の敵を見詰めるしては鋭く憎しみに満ちていた"。



「おい、マリエル……まさか、とは思うが……そのスコープ越しに写っているの、《剣鬼》じゃねぇよな……?」


「1度失敗したなら、もう1度やれば良いだけ」


「無理だ! 少なくとも今日はもう無理だ! 同じ事が通じる相手じゃねぇ! それに!」


「何? やっぱり、復讐の邪魔するの?」


「そんなんじゃねぇ! 俺が言いたいのは‼︎」


「じゃあ邪魔しないで‼︎」



 始めて彼女から現れた憤怒の怒声に押し切られ、咄嗟に言葉を引っ込めてしまうジョエル。


 その隙に改めてスコープを覗き、マリエルはその中心を《剣鬼》の頭蓋に合わせ、間も置かず引き金を引いた。


 確かに、タイミングは先程と同じく完璧だった。だからこそ、彼女は引き金を引いたのだが、()()()()()だった。


 1度受けた攻撃が《剣鬼》程の達人に間も置かずに2度も効く筈が無い。


 更に、マリエルは気持ちを鎮めず、空気も鎮めぬ内に、殺意を発し過ぎてしまっていた。


 これにより《剣鬼》は狙撃を一層警戒していたのに加え、敵の殺気により、その狙撃手の位置まで特定し、狙撃の射線も特定してしまう。


 多々手に入れた情報を元に《剣鬼》は、なんと刀で迫り来た弾丸を両断し、驚愕に目を見開く狙撃手に対し、落ちていた剣を拾い、それを身体強化で高めた筋力を使い彼女へと投擲した。


 そうして、此方(こちら)に飛んでくる剣。咄嗟の出来事に、マリエルは対応が遅れ、固まり、逃げる気を逸してしまう。



「ウソ……」



 頭に浮かんだ死の文字に、彼女が思い出したのは兄の顔。



「お兄、ちゃん……」



 走馬灯の様に浮かぶ兄の姿、父の姿、母の姿。


 自分は死んでしまうのかと、仇も討てずに終わるのかと、後悔と共にただ死を待つマリエル。



「お兄ちゃん、お父さん……ごめん、なさい……」



 運命を受け入れ、静かに両眼を閉じるマリエル。


 自分は死んでしまうのだろう。何も出来ずに死んでしまうのだろう。


 そう運命を呪いながら諦めによって支配された彼女。


 そうして大事な家族を思い出し尽くした彼女。


 すると、次に浮かんだのは彼の姿だった。


 自分を友だと言ってくれた。偶に迷惑だが、根は優しい、笑顔が絶えない青年。



「マリエル‼︎」



 そう、こんな声だった。溌剌(はつらつ)な青年らしい、元気に彩られた声色。


 活発で明るくコッチも元気にしてくれる声。


 感傷に浸りながら、彼の顔ぐらい最期に見たいと思ったマリエルは、薄く目を開く。


 しかし、横から襲った衝撃により、彼女は目を驚愕に見開かれ、目の前を敵が投げた剣が通り過ぎ、木に刺さった。


 彼女の運命が変わったのだ。衝撃を作り出したモノにより変えられたのだ。


 運命を変えてくれたモノ。その正体を見るべく、マリエルは身体に密着し続ける存在を目の当たりにし、見開かれた目を更に開かせる。



「ジョエル?」



 隣の木からジョエルが、狙撃銃を捨て、咄嗟にマリエルの居る木へと飛び移り、その勢いで彼女へ体当たりし、抱き締め、剣の道行きから逸らしていたのだ。

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