2-13 夜に
世暦1910年9月18日
夜、星が街の光で霞んで見えないながらも、エルヴィンは遥か先に存在はしている地球から見えるものとは違う星々を眺めつつ、僅かな月明かりに照らされる芝生の上を歩いていた。
寮から出るのは基本規則違反だったが、彼は、なかなか寝付けなかったので、気分転換に学園内を歩き回りながら考え事をしていたのだ。
考え事というのは貧民街の事であった。
偉大な文明を思わせる帝都にありながら、汚く、醜き貧民街がすぐ横に存在する。その異常さが頭から離れず、分不相応にも解決策を考えていたのだ。
「貴族は民から税を吸い上げ、私腹を肥やしている。しかも、民が生活するのに最低限の分まで吸い尽くしている。吸い尽くされた者達は普通の生活を送れなくなり貧民街を作る。そういう政治構造は、前世の王制国家と変わらないな。そんな悪の循環を無くすには、特権階級を無くすのが良いんだろうけど……」
エルヴィンは独り言をブツブツと述べながら歩いていると、知らぬ間に校門近くを歩いている事に気付いた。
「校門まで来ていたのか……流石に、そろそろ戻るかな」
エルヴィンは思考を一旦止めると、向きを変え、寮へと元来た道を辿りながら歩き出そうとした。
しかし、その時、完全に閉められた校門をこっそりよじ登り、学校内に入ろうとする士官学校の学生らしき男の姿が見え、ふと彼は足を止める。
無事学校内に入った学生は、安堵の溜め息を零すと、自分の寮に戻ろうとしたのだろう、足を進め寮のある方向に向かおうとして、エルヴィンの存在に気付く。
エルヴィンと学生は目が合い、暫く無言で立ち尽くした。そして、学生は夜間外出の目撃者を作った事に気付くと、慌てた様子で、物凄い勢いでエルヴィンに駆け寄り、エルヴィンの両肩をガッシリ掴む。
「おい、お前!」
「はい⁈」
突然やってきた学生に驚き、エルヴィンは少しのけ反った。
「お前……今見た事、教官達には黙っててくれよ!」
「あ、いや……」
「夜間外出が規則違反。しかも、かなり重大な違反な事は知ってるだろ⁈」
「あぁ……」
「だったら分かるよな⁈ この事がバレたらマズイんだよ! だから……な! 頼む‼︎」
「そうなると、私も共犯になってしまうんだけど……」
「黙・っ・て・て・く・れ・よ!」
肩を掴む学生の手の力が強まり、言葉に強制力が加わる。
学生の勢いに押されたエルヴィンは、断る事も出来ず、軽く頷き、その様子見た学生は安堵の吐息を吐いた。
「これで、一応は証拠隠滅できたな……」
学生は、手の力を弱め、エルヴィンの肩から手を離し、立ち去ろうとまた動き出す。
しかし、
「そこで何してる!」
巡回の警備員に2人は見付かった。
「ヤッベッ!」
学生は本当に不味い! と思いながら叫び、走り出し、エルヴィンも寮の夜間外出という規則違反を行なっていた為、警備員から逃げ出したが、2人の逃亡先は自然と同じ方向になってしまった。
バラバラに逃げて警備員を撹乱すれば良いものを、ウッカリ同じ方に逃げ出してしまった為、警備員は逃げた2人を迷わず追い掛ける。
「待て! 不良供‼︎」
蔑称を叫ぶ警備員。それにエルヴィンは内心「誰が不良だ!」と思いながら、逃げ足を速めていった。




