表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第7章 オリヴィエ要塞攻防戦
372/450

7-55 未来の名将達

 フライブルク少佐達から逃走を果たし、帝国陣地から脱出したトゥール達は、待機していた麾下(きか)の部隊と合流し、一時の安息を得る。



「フライブルク少佐……相対して分かったが、不気味にも程があるな」



 トゥールは被っていた帝国軍の軍帽を取ると、口元をひきつらせ、苦笑する。



「初めて奴を見た時、軍人としての覇気が薄かった。ラヴァル中佐から事前に特徴を聞いていたとはいえ、本当にフライブルク少佐なのかと疑った程だ。だが……途中からゾワリとする殺気を奴は向けて来やがった……」



 帝国軍の軍帽がグシャリッと握り潰される。



「軍人としての風格も名将としての圧も無い。一見、凡人にしか見えない。だが……だからこそ、時折見せる不敵さが不気味だな。間違いなく、内に魔物の類を飼っている。ラヴァル中佐とは違う別の化け物だ……」



 彼の策略だけ見れば曲者だと分かる。しかし、彼を直接見れば不気味な奴だと分かる。両方揃えば化け物だと分かる。


 策略として有能でありながら、覇気は無く、威厳も無く、だらし無く、頼り無い。一見は凡人で、性格も凡人臭いのだが、優しさと冷徹さを持ち、何処(どこ)か人を惹きつける魅力がある。


 そう、正にチグハグ。別の何かがくっ付き合わさった様な存在。気持ち悪く、不気味な奴、それがエルヴィン・フライブルクであった。


 彼がそう形成されたのは一重に前世の記憶があるからであり、前世の価値観と今世の価値観が混ざり合っているからだ。


 平和だが人の醜さが際立った現代と、平和でも無く人の醜さが更に際立っているが、現代より心の豊かさも持ち合わせた近代。


 2つの世界の記憶を持ち、その身に体感した故に、エルヴィンは異なった価値観を保有し、この世界に馴染みながら、別の価値観で別の発想が出来、戦場で活躍して来たのだ。


 当然、それを知らないトゥールとしては、未確認生物に等しく目に写ってしまうのだが。



「《剣鬼》だけでも面倒だが、その名剣を扱う指揮官も化け物とはな……こんな奴等に俺は復讐を果たさねばならんのか」



 悔し気に軍帽に拳を叩き付けるトゥール。会っただけで分かる。自分では彼等に勝つには力不足なのだと。実力差があり過ぎるのだと。


 しかし、彼の口元には笑みが浮かんでいた。


 これ程の敵を相手に出来る。それが武人として嬉しかったのだ。



「ラヴァル中佐にブレスト少佐。《剣鬼》にフライブルク少佐とは……この時代の若い世代は飛んだ粒沿いだな」



 まだ30にも満たない若い名将達。彼等がいずれ軍の中核を担った時、歴史はどう動き、どの様な道を作り出すのか、トゥールは少し楽しみだと思ってしまった。



「俺と《剣鬼》、フライブルク少佐は敵同士。俺には復讐を果たし、意地を通すという目的がある以上、殺し合わねばならない。だが……もし、彼等が生き残り、時代を動かしていくのだとしたら……」



 "生きて、彼等の作り出す世界を見てみたい"。口には出せなかったが、そんな夢物語をトゥールは抱いてしまう。



「殺し合いをしておいて、部下達にも強制させておいて、飛んだことを考えてしまったものだ……」



 軍人として敵を殺すのがトゥールの仕事である。共和国にとって帝国が敵である以上、帝国兵である《剣鬼》とフライブルク少佐を戦い中、殺さねばならない義務がある。戦場以外で会えば別だろうが、両者は軍人、祖国は敵同士。戦場でしか出会えないだろう。


 無用な無価値な事を考えてしまったトゥール。考えるのは自由だが、今はその時では無いとして(かぶり)を振って考えを振り払い、副官を呼ぶ。



「アングレッド軍曹!」


「はっ!」


「状況はどうなっている?」


「潜入した味方は敵兵糧庫を焼失させる事に成功。1箇所以外は無理だった様で、8人が捕まり、他全員は脱出しました」


「8人……《剣鬼》の周りに居た俺以外の全員か……」



 苦々しく奥歯を噛み締めるトゥール。彼等が捕まった理由はわかる。フライブルク少佐が放った共和国人への罵倒と、《剣鬼》による追撃だ。



「フライブルク少佐……本当に食えない奴だ。あそこで共和国語で我々へ罵倒を吐き、敵を炙り出すとはな……無反応を装っても、怒りで反応しても詰み。平静を装って反応するのに苦労させられた」



 正に曲者だと、やはり評価してしまうトゥール。ブレスト少佐も曲者だが、おそらく彼よりもフライブルク少佐の方が1枚上手(うわて)だろう。



「今回は上手くいったが、次以降が怖いな」



 只でさえ此方(こちら)より上手(うわて)の士官。勝利より敗北の方が遥かに成長の糧となる中で、能力が上の士官が負けで何かを得たとすれば、それは敵に塩を送った様な物であろう。


 しかし、敵に負けて貰わねば勝利が得られない以上、それもまた必然と言える。


 せめて、この戦いの勝利が味方も成長させる物である事を、トゥールは祈ってしまう。



「いかんいかん……確かに兵糧庫を焼き、補給線が長い以上、敵が撤退する可能性が高いとはいえ、まだ勝った訳ではない。豪勢だからといって、毒味もされていない料理に手を付けて、致死性の猛毒で死ぬなど溜まったものではないからな」



 勝利と確信し、油断した所を突かれ敗北した戦いも数える必要がある程には存在する。敵が完全に撤退するか降伏するまで気を引き締めるべきだと、帝国軍の軍帽を放り投げ、共和国軍の軍帽を被りながら、トゥールは心の中で自分を戒めた。



「そういえば……あの時、《剣鬼》に追い詰められた俺を助けた奴が居たな。後で調べて感謝しておこう」



 そう考えながら、そろそろ帝国軍の服を脱ぎたいと考えたトゥールは、数分休憩し次第の本陣への帰還を部下達に命じるのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ