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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第7章 オリヴィエ要塞攻防戦
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7-43 望まぬ増援

 共和国軍ルミエール・オキュレ基地。敵騎龍接近の報は第2艦隊から無線通信を通じ、直ちに基地へと告げられた。



「飛行隊発進急がせろっ‼︎」



 基地管制塔にてルミエール・オキュレ基地司令官オーバン・ドゥエー大佐は指示を飛ばしながら、苦々しく眼下の飛行場から発進する"戦闘機"等を眺めていた。



「報告によれば敵の騎龍は30騎。対して此方(こちら)の戦闘機は53機だ。機体が足らん……」



 この世界の空軍には大きく分けて2つの乗り物が運用されている。


 騎龍と戦闘機である。


 騎龍は前にも説明した通りだが、この世界の戦闘機は未だ複葉機であり、エンジンは流体魔力エーテルを消費させプロペラを回す(エーテルエンジン)を採用している。

 魔力エネルギーを魔法エネルギーに変え、運動エネルギーに変えるプロセスを踏む(エーテルエンジン)は、魔法の概念より物理の概念が強く、構造や空飛ぶ原理は前世と大差は無い。


 つまり、戦闘機は前世と変わりなく、生物たる騎龍と違い量産が簡単という事であり、帝国軍より簡単に多くの機体を用意出来る。今回もその実例の1つであり、機数が多い共和国軍の状況でドゥエー大佐が苦々しさを表情に出すというのは噛み合わない。


 そう、戦闘機との数的不利を補える要素を騎龍は持っていたのだ。


 端的に述べて、騎龍の方が飛行能力、戦闘能力共に戦闘機を上回っており、単純な戦力比で言うと3対1程の実力を有する。


 旋回速度、敏捷性、飛行速度など、騎龍が遥かに上回り、だからこそ、生命という理由で量産が出来ないながら、帝国空軍の主力の座に君臨しているのだ。


 一方で、共和国では龍自体の生息数が圧倒的に少なく、騎龍をなかなか軍に配備出来ず、得意の魔導工学の推移たる戦闘機を空軍の主力としていた。


 これこそ、共和国軍も偵察機を出せぬ理由であり、敵に発見されないよう1機でのみの飛行となる以上、1対1で騎龍に勝てる訳は無く、ワザワザ撃墜させる為に向かわせるなど出来なかったのだ。


 単純計算で30の騎龍相手に最低60機の戦闘機を使わせるべき戦い。それを下回る味方飛行隊の出撃に、ドゥエー大佐は不安を抱かずににはいられなかった。


 そんな彼の気持ちなど知る由も無く、共和国軍飛行隊は、第2艦隊護衛の為オリヴィエ沖へ飛び立っていった。




 オリヴィエ沖、共和国軍第2艦隊旗艦サヴルメール。背後から迫る敵騎の襲来に、ポール中将は苦々しく奥歯を噛み締める。



「敵司令官め……謀ったな? 撤退と見せかけて油断した所を空軍で叩くつもりか!」


「閣下……それにしては敵艦隊の様子が変です」



 首席副官モンリュソン中佐の指摘を聞いた中将は、双眼鏡で敵艦隊を眺める。そして、確かに敵が気掛かりな動きをしてる事を確認出来た。



「空軍との連携を取ろうとしていない。いや、取れないのか?」



 ポール中将の予測通り、帝国軍第3艦隊は予期せぬ味方空軍の援軍に戸惑いを覚えていた。


 そして、旗艦グライシハイツ艦橋にて、キルヒェン中将は騎龍を見上げながら、怒りと共に空軍への罵倒を吐く。



「空軍の糞どもがぁあっ‼︎ 偵察をロクにせんでおきながら、いざ戦いとなったら無駄な援軍を送って来やがって‼︎ 俺達が負けそうだから恩を売ろうとでも思ったのか? 撤退を邪魔され迷惑でしかないわぁあっ‼︎」



 湧いた怒りをそのまま吐き出したキルヒェン中将は、直ぐに息を整え平静さを取り戻す。



「すまん……取り乱した」



 冷静さを欠き激情を露わにしたキルヒェン中将。それを責めれる者はこの場に居なかった。この場の全員が、本心では同じ思いを持っていたからだ。



「閣下……これから如何(いかが)致しましょう?」


「ゲルドルフ少佐、決まっているだろう。このまま撤退だ! 空軍の馬鹿供に付き合ってやる義理は無い!」



 そう命令し、そのままヒルデブラント要塞への針路を取る第3艦隊だったが、突然、味方からの無線通信が入る。



「閣下……味方から通信です」


「情報参謀、何処(どこ)の味方からの通信だ?」



 言い(よど)む情報参謀。しかし、話さない訳にはいかない。



「現在、頭上を飛行中の味方航空隊からです」


「チッ、あの馬鹿供か……」



 話しを聞く気にもなれないキルヒェン中将だったが、話さなかったら話さなかったで後から空軍にネチネチと言われるという面倒事になるのは目に見えていた。彼は渋々、壁に掛けられた受話器を耳に当てる。



此方(こちら)、第3艦隊司令官ラインハルト・オーバー・キルヒェンだ! 貴官は?」


此方(こちら)、第101航空大隊隊長マティアス・オスナブリュック少佐です。艦隊の動きがおかしかったので通信した次第です』


「おかしい? 何もおかしい事は無いが……」


『東に敵が居るのに、貴方方は西へ向かわれているではありませんか! それがおかしいのですよ』


「当然だ、我々は撤退するのだからな!」


『撤退?』



 通信機越しに聞こえた嘲笑が、キルヒェン中将の鼓膜を不快に揺らす。



「何を笑っている?」


『いや、笑わずにはいられないでしょう? だって、勝ち戦から逃げようとしている臆病者を目にしている訳ですからね?』



 キルヒェン中将の眉がピクリッと動く。



「勝ち戦? 貴官の目は節穴と見える。我が艦隊を見れば、被害がどれ程のモノか知れる筈だが?」


『全艦戦闘継続不能という訳では無いでしょう? まだ戦える艦と我々空軍が力を合わせれば敵艦隊など簡単に撃滅出来ますよ。それすら分からぬのですか?』


此方(こちら)は一応提督、貴官よ階級は上なのだが? それにしては思慮に欠けた話し方だと思わんかね?」


『それは海軍の階級であって我々空軍の階級ではありません。指揮系統が別である以上、ワザワザ敬う必要も無いでしょう』



 なんとも滅茶苦茶な理屈を並べて立てるオスナブリュック少佐。その理屈で言えば、海軍がワザワザ空軍を手伝う義理も無い筈である。



『これ以上、無価値な話し合いは止めて我々を手伝って頂けないでしょうか? 貴方方が逃げた後、我々だけで勝った、となれば敵前逃亡の(そし)りは免れないでしょうなぁ……では、賢い決断、英断を期待していますよ』



 そして、プツリッと切られた通信に、艦橋内は暫く沈黙に支配される。


 しかし、キルヒェン中将が静かに耳から受話器を離した瞬間、怒りの形相で、彼は受話器を叩き付けて元の場所に戻す。



「糞がっ‼︎」



 空軍を助けなければ最悪、敵前逃亡として軍法会議に突き出す。そう遠回しにキルヒェン中将は脅され、否応無くこのまま戦闘継続を余儀なくされてしまったのだ。

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