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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第7章 オリヴィエ要塞攻防戦
356/450

7-39 新たな戦局

 世暦(せいれき)1914年10月8日


 峡谷で一夜明かし、行きより遅い足取りで本隊へと戻ったエルヴィン達だったが、戦況は大きく変化していた。


 2日続いた峡谷出口での戦いは、やはり、地の利が功を奏したのだろう。共和国軍が帝国軍の3倍近い被害を出し続け、オリヴィエ要塞への撤退を開始したのだ。



「通信回復してからの最初の通信で、かなり優勢とは聞いていたけど……こんなに早く決着するとはね」


「勝機無しと早々に判断する指揮官は悪くない。その分、此方(こちら)は有能な奴を相手にしなければならんという事だがな」



 敵を眺めながらそう呟くエルヴィンとガンリュウ少佐。ペサック大将は性格や価値観に問題点を有してはいるが、指揮官としてはやはり有能な部類に入るらしく、今回も彼の能力の高さを示す退き際の良さであった。それから発生する彼の感情が怒りや嘆きであった事は別にして。



「結局、オリヴィエでの防衛戦をせねばならぬとは何たる無様な有様だ‼︎ これでは大した功を挙げられんではないか‼︎」


「閣下、そう悲観せずとも、オリヴィエ防衛成功だけでも高い功績となりましょう」



 首席副官のギヨーム・マシー少佐が大将を諌めようと告げるが、大将は彼をキイッと睨み付ける。



「あんな勝利が確約された戦いで挙げた功が優れたものになる筈が無いだろう‼︎ 大統領閣下は御自分の投票数が上がる勝ち方を御所望なのだぞ‼︎ 俺はより華麗な勝利を挙げなければならんのだっ‼︎」



 勝利は確実と言わんばかりの発言。実際、帝国軍と共和国軍の兵力比から見てオリヴィエ要塞を(おと)すのは困難だと言わざるを得ない。


 しかし、困難なのであってゼロという訳では無い。


 ここまで油断するのは流石に敵を舐めすぎだと、マシー少佐は危惧するのだが、直球で言うのは避け、柔らかい納得する様な言い方で忠言を述べる。



「閣下、勝つのが確実である以上、味方の犠牲を如何(いか)に減らすかを重視すれば良いのではないでしょうか? かのストラスブール大将は先の戦いで負けた上、多大な犠牲を払ったと聞きます。なら、味方の犠牲を最小にし勝利すれば、閣下の方が有能という証明になりましょう」



 マシー少佐の言を聞いたペサック大将は、腕を組み、考え込むと、ニヤリと優越的な笑みを浮かべる。



「貴官の言う通りだ! そうだ! 優れた勝利とは何も勝ち方だけではない! より多くの味方を故郷に帰す事もまた、優れた勝利だ‼︎」


「更に、生き残った兵士達は選挙への投票権を有します。生き残らせてくれた閣下への恩義により、閣下の一声で兵士達は大統領閣下に票を入れ、当選率も上がる事でしょう」


「つまり、大統領閣下に恩を売れるという事だな! よし、貴官の案を採用するぞ!」



 高笑いを浮かべるペサック大将。どうやら上手く味方の犠牲低下に専念させるという最良の結果に持ち込めた。



「そんなトントン拍子に上手く行く訳無いのだがな……」



 ペサック大将は指揮官としては有能だが、上司としては下の中であり、地の頭脳としては幼稚に近い。


 実際、彼は事実上、大統領率いる与党の傀儡(かいらい)に過ぎず、ゲルマン方面軍総司令官の地位がストラスブール大将ではなくペサック大将になったのも、これが主な理由である。


 共和国軍もまた、国や政治の道具ではなく、権力者達の玩具に成り下がり始めていたのだ。



「偉大なる民主主義が聞いて呆れるな。軍が最早、政治家の投票数を上げる為の道具と成り果てるなど……これでは帝国と大差ないだろうに」



 皮肉を(こぼ)したマシー少佐だったが、その表情に嘆く様子は無い。



「まぁ、政治が腐ろうが俺には関係無い。このままペサック大将に付いて行き、上手く舵取りしてやれば、政治家達の甘い汁をススえるのは間違いない。裕福で贅沢な暮らしが約束されるだろう」



 政治家に寄生し続ける事により、腐って落ちゆく国の甘い部分だけを味わえると、マシー少佐は己が事のみ考える。


 腐り落ちる際、先ず被害を被るのは下の階級、貧しい市民に他ならない。そうならなければ良いのだと、下には目を掛けず、上のみを見て、少佐は歩みを進めるのだった。




 オリヴィエ要塞への撤退を開始した共和国軍は、5日の過程を経て要塞への帰還を果たす。そして、帝国軍も共和国軍に1日遅れて進軍を再開。敵少拠点の攻略を進めながら、共和国軍に遅れる事10日の過程でオリヴィエ要塞を眼前に捉える事となった。




 世暦(せいれき)1914年10月19日


 オリヴィエ要塞攻防戦。その演奏会は遂に、主要曲へと突入する事となる。

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