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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第7章 オリヴィエ要塞攻防戦
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7-19 鮮血色の軍服

 帝国軍中央を食い破りながら進む共和国魔術兵部隊。それを突如、敵魔術兵達が襲う。


 (はた)から見れば、共和国魔術兵部隊の方が兵力が多く、突撃して来た方はその10分の1にも満たない少数であり、馬鹿な行動と取れるだろう。


 しかし、当の相手にした共和国魔術兵達は、苦々しくも、屈辱にも、脳裏に死の文字を浮かび上がらせていた。


 敵を率いる鬼人の剣士、その実力が群を抜いていたのである。


 眼前の共和国魔術兵の首を真っ先に飛ばしたと思ったら、その死体を蹴り、別の敵にぶつけ、怯んだ所を死体の胴体ごと横にぶった斬る。

 次に、それが落とした剣を拾うと、背後から襲い来る敵の喉元に投げ、刺し、血反吐を吐かせるが、その隙に敵に包囲され、同時に剣鬼を狙い剣を突き出した。

 しかし、それを剣士は即座にしゃがんで回避。その体制のまま片足を軸にして身体を横に回転し、囲んだ敵の腹部を刀で割いて、全員を絶命させる。


 怒涛の如く敵を血祭りに上げ、血を吹き出しながら倒れる敵、その鮮血の雨を浴びて軍服を真っ赤に染めて立ち上がる鬼人の剣士。その姿に共和国兵達は恐怖を覚えた。



「何なんだコイツ‼︎」


「何て強さだ……武神並みじゃねぇか?」


「殺される! こんな奴と戦ったら殺される‼︎」



 此方(こちら)の魔術兵が多いという事実も忘れ、共和国魔術兵達は己が眼前に突き付けられた死という恐怖に怖気付く。


 数が多いとは言え、ガンリュウ少佐と直接戦った者は、どの道、死か再起不能の重傷である。数で押し切れても、多数の死者が出るのが目に見える。


 眼前にその産物を生み出す存在が居れば、その死者の中に自分が入る可能性が高いのだ。怯えるなと言う方が無理だろう。


 この様にガンリュウ少佐の実力ばかり目に付くが、何も脅威は彼だけでは無い。


 彼が引き連れた魔術兵達は、彼の苛烈な訓練を受け心身共に鍛えぬかれた猛者達であり、ヒルデブラント要塞攻防戦時と違い、その中には戦歴3年以上を有するベテランも混じっている。


 また、共和国軍は未だ中央突破を成せた訳ではなく、一部敵部隊が行く手を阻み続けている所か、その部隊達が剣鬼の登場で士気を挙げ、粘り強い抵抗を始めていた。


 それ等により、帝国軍を突破中の共和国魔術兵達が逆に包囲殲滅の危機に立たされ、ガンリュウ少佐達は敵魔術兵達と共和国軍本隊を分断できる位置にある。


 共和国魔術兵部隊は、本隊との分断を防ぐべく剣鬼等殲滅へと動きを変えるのだが、この時、ガンリュウ少佐達の動きも変わった。


 彼等は北を目指すのではなく、途中で東、共和国本隊目掛けて進み始めたのである。


 その姿を見た時点で、彼等の思惑、エルヴィンの思惑は誰の目にも明らかだろう。


 ガンリュウ少佐達は、敵本隊中央にある敵司令部を狙って動いていたのだ。




 エルヴィンの策はこうであった。


 倍以上の通常兵の弾幕により、多くの戦線では敵に近付く事すら出来ないが、唯一の例外が、中央に食い込んだ敵魔術兵達である。


 ガンリュウ少佐達はその魔術兵達と交戦、乱戦にする事で、味方に当たるとして敵通常兵に弾幕を貼らせない地点を作り出し、敵に突入。

 そして、その敵中を突き進み、途中で方向転換。敵司令部に目標を定めた訳である。


 しかし、このままでは敵中深くに入り、ガンリュウ少佐達は包囲される事となるのだが、その打開策をエルヴィンは既に打っていた。


 ガンリュウ少佐達は移動中、まるで行動をアピールする様に目立ちながら、自分が剣鬼だと、魔術兵だと示しながら、敵魔術兵部隊を目指していた。


 それに、ゾロゾロと他部隊の魔術兵達が彼等を追い掛け始め、次々に敵魔術兵部隊との戦闘に加わり始めたのである。


 理由は簡単である。敵の弾幕により白兵戦が出来ず、魔術兵達は暇であった。そんな中で、同じ暇な筈の剣鬼達を目撃し、何かしらのやるべき事があると、彼等を追い掛けたのだ。


 これにより、敵魔術兵部隊はその帝国魔術兵達との交戦を強いられ、ガンリュウ少佐達殲滅所では無くなり、僅かながら退路を残してしまっていたのである。




 背後をその味方魔術兵達に任せ、敵司令部の首を目指し、ひたすら眼前の敵を切り刻むガンリュウ少佐。


 最早、その軍服にはそれ本来の色が消え失せ始め、元から赤だったのではないか? と思わせる程敵の返り血で染色されていた。



「何なんだ……何なんだ奴はぁあっ‼︎」



 此方(こちら)を目指し無愛想で冷徹な眼光を向けてくる剣鬼に、総司令官ペサック大将は怯み、後ずさる。



「あんなのが居るなど反則では無いか‼︎ 此方(こちら)には武神が今居ないのだぞ‼︎」



 大将達には敵に武神に匹敵する化け物が現れた様な気分だろう。


 しかし、当然の事だが、彼は武神程強くは無い。この現状もエルヴィンの御膳立て故に作り出されたものだ。武神なら御膳立て無しでここまでやってのける。


 それでも、今彼等が脅威に晒され始めている事に変わりはない。だからこそ、ペサック大将は直ぐに決断出来た。



「全軍、一時後退せよ‼︎ 態勢を立て直す‼︎」



 自分の命に直結する危機だからこそペサック大将は直ぐに決断したが、英断と言えるだろう。


 このまま剣鬼の突出を許し、自分達司令部が壊滅でもすれば、指揮を部隊(ごと)に任せていない共和国軍は頭脳を失い、混乱し、戦線崩壊に至っていた。


 更に今の陣形を見れば、部隊配置は乱れ、このままでは無様な品の無い消耗戦になっていた事は明白だろう。此処(ここ)は一時後退が最適解と言えるのだ。


 "これこそがエルヴィンの狙いではあった"のだが。


 当然、敵が退き態勢を整えれば、味方も態勢を整える時間を得る。まして、此方(こちら)は第10軍団到着迄の時間稼ぎに徹すれば良いので、殲滅を強いられる敵よりは楽で優位であった。


 そして、ペサック大将の(めい)の下、共和国軍本隊は東へと退いて行くのだが、敵中央に食い込んでいだ魔術兵達が敵の包囲下に取り残される事態となる。


 勿論、逃げ道が無い訳では無い。ガンリュウ少佐の居る東側に逃げれば、兵力比から見て突破は容易く、味方と合流できる。


 共和国魔術兵達はガンリュウ少佐達を目掛け、通り抜け様に撃破しようともするのたが、先程も述べた通り彼等は敵の包囲下にあった。


 帝国軍は逃げ行く背後に苛烈な銃弾や魔法の雨を降らせ兵力を削り、ガンリュウ少佐達はアッサリ逃げ道を開けようと動きながら、襲って来た敵兵を軽々と撃破し、兵力を減らし続ける。


 結果、共和国軍本隊後退時、共和国軍死者2300名、帝国軍死者2100名と、倍以上の兵力を有していたにしては、有益と言える損害をペサック大将は与えられなかった。

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