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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第7章 オリヴィエ要塞攻防戦
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7-17 敵襲

 敵襲の報、それに兵士達の表情は一気に強張り、騎乗していた者は全員馬を降りて、馬の背に乗せていた荷物から小銃(ある)いは剣を手に取った。


 その後、全員が軽く武器の不調の有無を確認し、2時方向から死角になる様、木やトラックや馬、茂みの後ろに隠れ、臨戦態勢に入る。


 そして、司令官であるクレーフェルト大将も幕僚と護衛に連れられ、敵の射線を遮る様、木の後ろに隠れた。



「まさかこんな森で敵襲とは……」


「申し訳ありません。我々の推測が及びませんでした」


「いや、構わない。それよりもだ……」



 クレーフェルト大将は敵が迫る北東方向へしかめた顔を向ける。



「第10軍団と合流も出来てないまま、おそらく此方(こちら)の倍以上の兵力の奇襲。流石の私でも、不味い状況なのは分かる……」



 幕僚達の話から、敵がヒルデブラント要塞攻防戦に近しい戦力で要塞の防御を固めている、と予測されているのはクレーフェルト大将も知っている。

 しかも、現在此方(こちら)は行軍中で隊列が伸び、司令系統が上手く機能しない上、横から一点集中を受けた場合、前後分担、各個撃破の危機さえあった。



「情報参謀、第10軍団へ救援要請は出せるか?」


「やってはみますが、おそらく無駄でしょう。通信妨害を受けていると考えられます。しかし、この通信妨害でエッセン大将も此方(こちら)への敵襲に気付いているでしょう。どの道必要は無いと考えます」


「作戦参謀、何か策は?」


「部隊を大隊規模ずつに分け、各指揮官達の判断に任せるべきかと。例え、前後分断を受けても、これなら直ぐに修復が可能な上、指揮系統の崩壊は防げます」


「参謀長はどう思う?」


「妥当でしょう。しかし、付け加えるならば、各部隊に防御に専念するよう伝えるべきです。おそらく、暫くすれば第10軍団が援軍に駆け付けてくれる筈ですから、上手くいけば挟撃という形に持ち込めます」


「援軍までどのくらい掛かる?」


「おそらく……最低1日は掛かるかと……」



 幕僚達の話に耳を貸し、吟味し、纏めたクレーフェルト大将は、全軍へ指示を飛ばす。



「総員‼︎ 防御による時間稼ぎに専念しつつ、各大隊(ごと)に大隊長が各自判断して行動せよ! 1日持たせ、第10軍団の援軍を待つのだっ‼︎」



 大将の命令は伝令を介し、各大隊長に告げられる。


 それに各大隊長達は部隊を固め、防御体制に入ると、同時に敵による銃弾の嵐に襲われた。


 方向は索敵により判明した北を見て2時の方角。予測通り数は第11軍団の倍以上は居ると考えられる苛烈である。


 幸いな事に場は森である。木という遮蔽物が豊富にあった為、被害は甚大ではないが、それは敵とて同じ。数の利がある分、敵が有利であるのは考えずともわかるだろう。


 更に悪い事態が起きる。


 敵は帝国軍の北南に伸びた隊列に平行となる形で左右に陣形を展開。帝国軍の側面を睨む様に、横陣を敷き始めたのだ。


 これにより敵は、遊兵を作る事なく、倍の火力で敵部隊を満遍なく襲える事になる。


 共和国軍の倍近い火力に押されながら、遮蔽物で何とか防御する帝国軍。そして、エルヴィン達第11軍団遊撃大隊も、木に隠れながら銃による応戦を続けていた。



「被害報告!」


「負傷者13、死者4。敵が積極的に攻めて来ない為被害は軽微です!」



 兵士の報告を聞いたエルヴィン。内容事態は妥当であったが、彼の眉は不可解とでも言う様にしかめられる。



「ガンリュウ少佐、どう思う?」


「魔術兵が攻めて来ないのは妙だ……そろそろ此方(こちら)に投入する頃合いだろう」


「と、なると……中央突破、後の分断、各個撃破かな?」


「おそらくな……その為に敵は中央を突撃要員の魔術兵で固め、他に通常兵を回し銃で牽制、といった所か」


「眼前の敵に魔術兵が居ない分、此処(ここ)此方(こちら)が有利そうだけど……どうだい? 君達で敵と白兵戦に持ち込めるかい?」


「無理だな。その前に蜂の巣にされ1部の猛者を除いて全滅だ。その猛者も敵中に孤立して全滅だ」


「そうか……なら言われた通り、このまま防御、時間稼ぎに専念するべきだけど……」



 エルヴィンの顔が少し強張り、それにガンリュウ少佐は眉をひそめる。



「分断への対処は司令部により、おそらく()されている。敵の思惑は崩されている筈だが……何か心配か?」


「いや、どの道不味いんだよ……」



 エルヴィンは頭を掻くと、少し嘆息を(こぼ)す。



「敵は倍以上居るんだろう? だったら、敵の同数兵力で此方(こちら)を牽制しながら、一部兵力を我々の背後に回せる訳だ。つまり……」


「完全なる包囲殲滅を受けるかもしれん、か……」


「不味いだろう?」


「不味いな」



 銃弾が飛んでくる東の敵を眺めながら、エルヴィンとガンリュウ少佐は少し唸ると、少佐がエルヴィンへと再び視線を向ける。



「で、どうする?」


「まぁ……策が無い訳じゃないけど……ちょっと苦労を強いるよ?」


「俺が苦労を課せられる訳か。いつもと変わらんな」


「あははは……」



 乾いた笑いを(こぼ)すエルヴィン。それに少佐はいつもの無愛想な表情のまま問う。



「で、そろそろ作戦内容を聞きたいんだが?」


「そうだね……けど、簡単な事だよ。敵と同じ事をして、更に君の名を使うだけだからね」



 微笑を浮かべるエルヴィン。その表情は間違いなく、智謀に長けた曲者、一筋縄ではいかない知将と呼ぶに足る不敵な笑みであった。

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