表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第7章 オリヴィエ要塞攻防戦
329/450

7-12 ジャンの罠

 世暦(せいれき)1914年9月30日


 小拠点を次々と奪取したオリヴィエ要塞攻略軍。進軍路を着々と構築し、後1週間でオリヴィエ要塞を瞳に写せるという距離まで到達した彼等だったが、エッセン大将の表情には困惑しかなかった。



「順調過ぎる……」



 サボ砦や2つの村、その後の敵拠点にも僅かな敵兵力が残留し、抵抗を受けた迄はわかる。


 しかし、その更に後の戦いでは、戦う事なく敵が逃げ出す、という事態が相次いでいたのだ。



「逃げるにしても、ある程度は戦い、此方の戦力を測って、その情報を持ち帰るのが普通だ。それに、少数の兵力とはいえ、各拠点に兵力がある事で連戦を強いられ、多少なりとも此方は疲弊する。妙だな……」



 眉をしかめるエッセン大将。今、彼等が優勢である事は間違いないのだが、やはり不可解な事が重なり過ぎている。敵の術中に嵌っているような感覚に蝕まれてならない。



「何を見落としている? この気持ち悪さは何だ……?」



 軍用車内で腕を組み、唸らせるエッセン大将に、参謀長アウグスティン・エアフルト中将が騎乗し、近付く。



「閣下……そろそろ第11軍団と合流すべきと具申しまし。もうすぐ名も無き(ナームンロース)平原(・イーブネン)に着きますので」



 名も無き(ナームンロース)平原(・イーブネン)。帝国3要塞と共和国2要塞に挟まれた地帯の中で、最大の広さを有する平原である。


 太古の昔、此処(ここ)にはアトラス山と呼ばれる山があったらしいが、勇者と魔王軍との戦いで吹き飛ばされたと言われている。

 そして、山で無くなり、山としての名を持つ資格を失った平原。その後も名を付けられなかった平原として、名も無き(ナームンロース)平原(・イーブネン)と呼ばれる様となった、と言い伝えられていた。


 名の起源は兎も角、問題なのは、平原では単純な兵力がモノを言わせるという点だ。


 今回、味方は要塞攻略が不可能な戦力、というのが司令官達の認識であり、敵兵力の方が多いと見積もっていた。


 つまり、此方の兵力を知った敵が、帝国軍による新たな拠点奪取を止めるべく、平原で待ち構えている可能性が高いと考えられるのだ。



「中将の言う通りだな。よし、無線で第11軍団に合流するよう指示を飛ばせ! 勿論、暗号電文でだ!」



 エッセン大将の命令を受けたエアフルト中将は、近くの通信兵を呼び、大将の命令を伝える。



「閣下……平原に斥候を送らせますが宜しいでしょうか……?」


「ああ、頼む……」



 一頻(ひとしき)りの仕事を確認したエアフルト中将は、馬を翻し、後方へと下がって行った。


 そして、数時間後、斥候が戻り、平原の情報が伝えられるのだが、平原から西に離して建てた仮設陣地内にて、エッセン大将は驚愕の声を上げる



「平原に大兵力が存在したと思われる痕跡があっただと⁈」


「はい……平原にて無数の足跡が残っていましたので間違いありません!」



 再び突き付けられた不可解な事実にエッセン大将は困惑する。



「平原で迎え撃つのは分かるが、その予定だった敵軍が消えた? 此方の兵力が多く逃げたのか? いや、そんな筈は無い……」



 今回の攻略軍の兵力が少ないのは、貴族による妨害があったからである。強欲な貴族が居ない共和国は、防衛戦にヒルデブラント要塞攻防戦並みの兵力を投入するのが当たり前だ。


 共和国も強欲な政治家達に足を引っ張られている事をエッセン大将は知らなかったが、それでも9万と、小拠点に兵力を置き続け6万近くまで減っている帝国軍より多い事は事実である。帝国の兵力もそろそろ知れ渡って良い頃だと考えても、戦力を知った共和国軍がワザワザ平原に軍を移動させておいて逃げるなどおかしい。無駄な行動である。


 では、何故敵は逃げたのか、そう考える内に、エッセン大将はある可能性に至った。



「敵はどの方角に向かったのだ?」


「はっ! 南であります!」


「南か……ん? 南?」



 その時、エッセン大将は(ようや)く敵の思惑に気付き、両目が見開かれ、苦々しく奥歯を噛み締めた。



「クソッ! そういう事か‼︎ 敵の狙いは()()()()()か‼︎」



 名も無き(ナームンロース)平原(・イーブネン)に展開した敵の大軍。彼等が向かったのは目下南から第10軍団へと向かっている第11軍団であった。



「しかし、何故こっちでは無く、ワザワザあっちにした? 各個撃破するにしても、こっちの方が近い筈だ。実際、足跡から、当初はこっちを狙っていたのだろうが……」



 腕を組み、唸るエッセン大将。そして、視界に映った通信機を見て、また別の思惑にも気付き、自分達が敵の罠に嵌っていた事に気付く。



「そういう事か! 最初の村々でワザワザ守備隊の数を教えたあの伝聞。何か引っ掛かると思っていたが……アレには無駄な情報があったのだ! 何故ワザワザ村の兵士達に、"村の兵力数を伝える型で伝聞を送った?" 300、200と伝聞に加えずとも、現戦力という言葉で片付けられる。彼等は自分達の兵力を知っている訳だからな。つまり……」



 エッセン大将の口からガリッという不快な歯の音が響く。



「敵の目的は、我々を別行動させ、()()()()()()()()事だったのか‼︎」



 ジャンの思惑はこうであった。


 別々の2つの拠点攻略。当初であればワザワザ軍を分ける事なく1個ずつ村を()とす気であったエッセン大将達。戦の常道として軍を分けるのは宜しく無いとされるからだ。


 しかし、2つの拠点がそれぞれ敵兵が少なく、大した兵力も近くに無い、という情報を手に入れた場合、一刻も早く侵略を完遂したい侵攻軍としては、軍を2つに分け、効率重視の侵略に変更する。


 餌を明確に示す事で、良い獲物があると相手に思わせたのだ。それが釣り糸に吊るされた物とも知らずに。


 そして、分かれた侵略軍では当然、無線による通信が行われる。


 伝令は遠く時間が掛かり、有線通信はケーブルを敷く時間が掛かる為、自然と楽な無線となるからだ。暗号で通信すれば、例え傍受されても敵には分からないという安心感もあるだろう。


 そして、それがジャンの罠であった。


 暗号というのは当然、いずれは解読されるのが落ちであり、通信とそれを元にする敵の行動情報が多ければ多い程、解読率は上がってくる。


 つまり、無線通信を戦い初期から使わせ、遠くから偵察兵に、大まかな行動だけ監視させる事により、共和国軍は帝国軍により使われている暗号の解読率を今戦い中に86パーセントまで引き上げていたのであった。


 よって、途中からの両軍団間の通信内容はほぼ共和国軍に解読され、筒抜けになっていたのである。


 途中から守備隊が戦いもせず逃げたのも、不可解な事態に敵を混乱させ、敵通信を増やす為であり、攻撃目標を第11軍団に変更したのも、第11軍団が第10軍団の下へ向かうという通信を聞き、移動中の敵を叩く方が損害も大きいと判断した為であった。



「大した作戦もなく、暗号文を過信し、油断した結果とは情けない……! おいっ! 直ぐに第11軍団へ敵が向かっている事を知らせろ‼︎」


「…………駄目です! 通信妨害を受けて連絡が取れません‼︎」


「ならば伝令を飛ばせ‼︎ 大至急だっ‼︎」



 焦るエッセン大将。敵の数が予測通りなら、おそらく奇襲を受けた第11軍団は壊滅する。

 そして、第3軍団に続き、第11軍団まで失い、その責で第10軍団司令官がエッセン大将から無能にすげ替えられたとなれば、最早、ブリュメール方面軍は機能しなくなってしまうだろう。


 危機感に脳裏を支配され、苛立つエッセン大将。この時、彼は忘れていた。


 第11軍団に付く独立部隊。その中に第11独立遊撃大隊が居る事を。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ