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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第7章 オリヴィエ要塞攻防戦
327/450

7-10 通信から

 世暦(せいれき)1914年9月23日


 サボ砦を攻略したオリヴィエ要塞攻略軍は一部兵力を残し、次の敵拠点を目指して、再び進軍を開始した。


 目標はジャンが予測した通り2つの村々だったのだが、ここで2日前に流された通信が、帝国司令官達の脳裏をよぎる。


 軍用車に乗り移動するエッセン大将の下をクレーフェルト大将が騎乗し再び近付くと、2人共に眉をひそめ、悩み出す。



「クレーフェルト大将、どう思う?」


「幕僚達は罠では無いと見ています。私は言わずもがな無知なもので、判断出来かねます……」


「『北の村は300の兵で、南の村は200の兵のままで守り、無理そうならば撤退しろ。援軍は無い』、か……暗号文ではあったらしいが……妙に引っ掛かる伝聞だな」



 何処が引っ掛かる、と迄、細かくは説明出来ないが、明らかに変な通信であるという妙な確証があった。



「だが、何も問題は無いのだろう?」


「ええ……作戦参謀は、兵力を少なく知らせるにしても、村々は戦略的価値が無いので大した兵力は、どの道無いと。情報参謀も嘘の情報にしては意義の感じられない文だと」


「なら問題は無いか……」



 エッセン大将は一瞬考え込んだが、結局は事前に幕僚達と打ち合わせた策を提案する。



「ここで2手に分かれるとしよう。兵力分断による各個撃退の可能性は低い。ここで出来るだけ効率良く、敵拠点を制圧し続ける方が得策だろう」


「此方の幕僚達も同じ結論です。勿論、念の為斥候を放ち、敵状を確かめてから攻め込むべきですが」


「それが良いだろう。我々は北、貴官等は南を進み、何かあれば無線で知らせるとしよう」


「承知しました!」



 クレーフェルト大将は馬を翻すと、自軍の下へと戻り、幕僚達との簡易的な相談をする。その後、第11軍団は、独立部隊からも数個部隊引き抜き、第10軍団と別れ、一同南の村へと向かった。




 世暦(せいれき)1914年9月25日


 各々、村へと攻め入った第10、第11軍団は、通信通り、北の村では約300の敵兵、南の村では約200の敵兵と交戦し、後に排除。呆気なくも1日での奪取に成功した。


 尤も、北の村は最後まで抵抗による壊滅で、南の村は途中で勝ち目無しの撤退という違いはあったが、概ね帝国軍の思惑通りに事が運んでいる。


 南の村を占拠したクレーフェルト大将は、戦い前に村人も避難したのだろう、静かな村に通信設備を設置させ、通信兵にエッセン大将へと伝聞を送らせた。



「此方鹿(ヒルシュ)。我、南の敵拠点を占拠せり。繰り返す、我、南の敵拠点を占領せり」



 鹿(ヒルシュ)とは第11軍団を示す暗号名であり、大将の言葉を通信兵が代弁して第10軍団へと送った。そして、当然彼方(あちら)からも返文が送られる。



『此方(シクトクレーテ)。我、北の敵拠点を占拠せり。繰り返す、我、北の敵拠点を占領せり』



 (シクトクレーテ)とは第10軍団の暗号名であり、簡易的な、分かりきった、報告するにも値しない情報を両軍団は互いに流し会った。


 しかし、これは情報の内容というより、伝えるという行為そのものに意味があり、安否確認をする事が目的である。


 その後は、詳細な情報交換を暗号通信で行う両軍団だったが、めぼしい情報は特に無く、次に攻める敵拠点の情報も事前に手に入れた物と何ら変わり無かった。


 そして、今後の攻撃目標である複数の拠点も、予想通り少数の敵兵力が配置されていただけである事が分かり、そのまま2手に分かれた状態で進軍する事となる。


 この時、彼等は気付かなかったのだ。自分達が既に、敵の策に嵌まっていた事を。

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