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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第7章 オリヴィエ要塞攻防戦
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7-7 ジャンの敵意

 ブリュメール共和国2要塞が1つオリヴィエ要塞。ヒルデブラントと同じく海に接する要塞だが、かの要塞より大きさが2周り程小さく、軍港も存在せず、直接の海洋戦力を有しない。

 しかし、防衛装備はかの要塞に劣らず、東に少し離れた場所には共和国第2艦隊が駐留する基地も存在する。更にそこは空軍基地も兼ねられ、飛行場を有し、空軍勢力が定期的に要塞の空を飛行していた。


 陸海空全ての戦力に守れる軍事拠点。それがオリヴィエ要塞なのである。




 世暦(せいれき)1914年9月14日


 オリヴィエ要塞の西。今回動員された第4軍団及び第12軍団、独立部隊が陣を展開させており、いつでも西の小拠点に援軍を出せるよう準備がなされていた。


 今回動員された兵力は、政府の御偉方が予定兵力より少なくしたとはいえ、9万と帝国軍よりも多い。

 しかし、敵の数を正確に把握出来ていない共和国軍としては、ヒルデブラント要塞攻防戦の時を基準とし、防衛には心許ない戦力だと悩ましく唸り声を出す所であった。


 会議室にて作戦会議を開始した各司令官達も、その兵力でどう帝国軍を防ぐか、今後の方針を緻密に練りながら策の出し合い、潰し合いが長々と続けられ、かれこれ4時間が経過しようとしている。


 そんな中、オリヴィエ要塞へと赴任していたジャンは、通信室へと足を運ぶ途中、トゥールと鉢合わせをした。



「ブレスト少佐。貴官も呼ばれておったのか!」


「いえ……丁度、オリヴィエへの異動が決まっていただけです。こんな時に敵の侵攻とは、ついてません……」



 ジャンは嘆息し、肩をすくめる。



其方(そちら)も、オリヴィエへ異動になったのですか?」


「いや、俺は独立部隊で要塞守備隊と合流だ」


「つまりは、職場は一緒という事ですね」


「そうだな。暫く頼むぞ?」



 笑みを向け合い、共に戦える事を喜ぶ2人だったが、トゥールはふとある事が気になった。



「ところで……今回ラヴァル少佐は()らんのか?」


「今回は本国待機です。戦果を挙げたアイツへの御褒美、として休暇が与えられたんですよ。本人は、この戦いに参加してぇえっ‼︎ 戦場行きてぇえっ‼︎ と駄々こねまくってましたが……」


「その光景、簡単に目に浮かぶなぁ……」



 戦い好きのシャルルにとって、今回の防衛戦には是が非でも参加したかった。これ程の規模の戦となれば、宿敵エルヴィン・フライブルクが居る可能性が高いからだ。



「アイツの戦闘狂振りにも呆れますよ……」


「まぁ、実力が伴っとる分、心強いがな」



 シャルルの気性に頭を抱えるジャンだったが、トゥールの言う通り、性格の難をカバー出来る程の実力を有している事には同意する。


 しかし、やはりここで気になるのが、あの敵士官の事だ。



「それにしても、"エルヴィン・フライブルク"、か……」


「そうか、調べさせた情報部の友人とは貴官の事か!」


「ええ……その時、彼の経歴を見たのですが……彼はあの森狐の息子だそうです」


「あぁ、あの森狐のか。なかなか小賢しく厄介だったと聞いておるが……賞賛に値する程の名将という話は聞かんな。早死にしたからかもしれんが」


「エルヴィン・フライブルクという人物の経歴は、森狐の息子という他に、貴族の当主、20で少佐という変わった経歴なんですが……」


「20で少佐……貴族なら20代で少佐は、帝国では珍しくも無いが……20で、というのはあまり見んな……」



 帝国では貴族なら簡単に少佐の地位に迄はなれる。権力者たる貴族なら忖度、賄賂などが簡単にまかり通ってしまうからだ。


 しかし、それは、それ等を行使した場合の話である。



「フライブルク少佐とシャルルが戦っていた時、第10軍団麾下(きか)の部隊が鉄道橋を破壊しました。シャルル曰く、その策自体彼が立てたモノだと言っています。更に、戦車を捕獲したのも第10軍団だった。偶然でしょうか……?」


「まさか、貴官はそのフライブルク少佐が、ヒルデブラントの戦いの勝利そのものを支配していたとでも言うのか……?」


「そもそもおかしいでしょう? あのシャルルと戦い、生き残る実力がありながら、仮にも元大将の息子でありながら、何故、情報部が簡単に把握出来ない程に名が広まっていないのか? 」



 ジャンの眉はしかめられ、表情が強張り始める。



「能ある鷹は爪を隠す。彼は間違いなく、それに該当する……」



 もしそうだとするなら、おそらくエルヴィン・フライブルクという士官は間違いなく危険だ。

 シャルルを撃退出来る程に優れた指揮官が、何の情報も無しに敵として現れるのだ。事前に対策を練る事が出来ない。



「ここまで計算尽くなら恐ろしいが……そうでなくても、何らかの理由で実力を隠しているのは間違いない。シャルルには申し訳ないが、潰せる時には潰しておこう……」



 とは言っても、ジャンは情報部なので実働部隊への指揮権は無いに等しく、エルヴィンと戦場で会える可能性も皆無だ。


 たからこそ、奴の情報をこの戦い中に手に入れ、前線への兵士へとリークする。そうすれば、奴と戦う事になる兵士が、奴を殺してくれるかもしれない。そうでなくても奴の情報自体を手に入れ、シャルルへと持ち帰る事が出来る。


 この時ジャンは、眼鏡の位置を中指で直しつつ、エルヴィンへ明確な敵意を露わにするのだった。

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