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異なる世界の近代戦争記  作者: 我滝 基博
第6章 カールスルーエ反乱
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6-71 裏の話

 世暦(せいれき)1914年8月26日


 盛大な葬儀も終え、クライン市民の扱い以外問題が消えたヴンダーの街は、他の街との貿易も再開され、明るく活気のある雰囲気を戻りつつあった。


 そんな太陽に照らされる街の下。正確にはフライブルク軍ヴンダー司令部の、電球は点いているが薄暗い地下空間に、エルヴィンとルートヴィッヒは居た。


 一本の通路が奥まで伸び、その両壁には扉が付き、複数の部屋が点在する空間。そこは、エルヴィンは勿論のこと、アンリを始めごく少数の人間しか知らされていない秘密の場所で、ココの存在はテレジアやアンナすらも知らない。



「全て教える、ねぇ……」



 ルートヴィッヒは、エルヴィンに不敵な茶化すような笑みを向ける。



「アンナにそんな約束しちまって良いのか?」


「私は()()()()()()()って言ったんだよ?」


「なるほど……確かに折れるな」



 ルートヴィッヒは苦笑する。



「全てを知ろうとするアイツに、これを隠すのキツイだろう?」


「まったくだよ……これこそ、アンナには見せたくない」


「そうだろうな。しっかし……こんな場所があるって。流石貴族様って感じだよな?」


「それを2年前、司令部に来て初っ端で気付いたけどね、君……」


「しゃあねぇだろ! 俺には【探知】スキルあんだから! コレで気付かなかったら阿保だぜ?」


「でも、君にも気付かれて欲しくなかったよ。お陰で"こんな仕事"をいつも任せている」


「御心配していただいて恐縮だが、俺はあん時既に手遅れだぜぇ? 人殺し、強姦、窃盗。ありとあらゆる犯罪に手を染めちまってる。コレは俺向きの仕事なのさ」


「育ちが悪くなければ、子供の時点でそんな風にはならなかった」


「言ってもしゃあねぇよ。それに……今の俺は幸せだぜ? 誰かさんのお陰でな」


「そうかい……」



 ニット笑うルートヴィッヒに、エルヴィンは少し嬉しそうだが、やはり、どこか悲し気に苦笑を(こぼ)した。




 少し歩き、目的の部屋へと辿り着いた2人は、ドアを開け、中に入り、部屋に待機していた兵士の敬礼を受ける。



「ハム、御苦労様」



 エルヴィンの労いを受けた兵士。一時、テレジアの護衛に当たっていたハムも、この空間を知る兵士の1人だった。



「ハム、彼等の様子はどうだい?」


「はっ! 暴れた奴が何人か居ましたが、殴って黙らせました!」


「そうか……」



 ハムからの報告を聞き終えたエルヴィンは、瞳を冷ややかな眼差しに豹変させた後、部屋の真ん中で椅子に括り付けられて座る6人の男女に目を向ける。



「さて……」



 エルヴィンは腰の拳銃を抜くと、6人の前の椅子に、背もたれを逆にして座り、それに腕と顎を乗せ、眼前で銃を遊ばせる。



「それでは歓迎しよう。ようこそ、ヴンダーの街の暗部、()()()()へ!」



 ニコリと感情の籠らない笑みを彼等へと向けるエルヴィンに、ルートヴィッヒは彼の怒りが大分残っている事に気付き、苦笑を浮かべる。


 そう、彼は怒っていた。理由はアンナが傷付けられた事。


 しかし何故、それと彼等が関係あるのかと言えば、6人の内の1人を見れば察しが付く。


 その1人が、テレジア誘拐の中心人物の1人だった優男だったのだ。


 そして、彼等が集められた根本的な理由。それが彼等の雑な扱いの理由である。



「実はね? ずっと疑問だったんだ。一階の傭兵ごときが放った扇動者だけで、あれだけの暴動が起こせる訳ないんだよ。だからね? 別に居るんじゃかないかって思って探させたら、案の定……君達が居た訳だ。ねぇ……? "デュッセルドルフ公及びミュンヘン公のスパイさん"?」



 6人の男女。彼等はデュッセルドルフ公爵もしくはミュンヘン公爵に連なる者達が差し向けた間諜だったのである。



「君達は傭兵が放った扇動者に便乗し、市民の暴発規模を拡大させた。それにより街が混乱している内に、重要施設に潜り込んで資料なんか盗もうとしたんだろう?」



 エルヴィンの読みは正しいらしく、優男は苦々しく奥歯を噛み締める。



「本当に苦労させられたよ。君達を捕まえる為に、その分、人手不足になって、ルートヴィッヒだけで傭兵による別のモグラを潰させる羽目になっちゃったよ。君達をココに連れて来なくちゃ行けないから誰にでも任せられる仕事じゃないしね。ルートヴィッヒ、怒って良いんだよ?」


「いや、お前に怒るぜ。コッチは人員選ぶ必要無ぇから、一般兵から融通出来ただろう! 避けれる苦労をお前は押し付けたんだ!」


「でも、元凶はコレ等だろう?」


「苦労を避ける事が出来た。それは認めんだな⁈」



 口をへの字にし、軽い怒りに震えるルートヴィッヒと、それを肩をすくめて誤魔化すエルヴィン。


 ちょっとした喜劇になっていたが、6人にそれを楽しむ余裕は無い。


 優男は、これから自分に迫る火を察しつつも、冷や汗を流しながら、彼等に問う。



「1つ聞きたい……俺達をどうする気だ?」



 それにエルヴィンは、また感情の籠らない笑みをニコリと浮かべると、答える。



「当然、君達が持つ両公爵の情報を洗いざらい話して貰う。拷問して吐かせても良いんだけど……」



 エルヴィンは人差し指を立てる。



「1つチャンスをあげる。今、全てを話すと誓えば、命を助けるばかりか、監視付きだが最低限の自由は与えるよ。勿論、嘘だったら即殺す……と吐かせられないから、死なない程度に嬲るかな?」



 またニコリと微笑むエルヴィンだったが、それが作り笑いである事は、もう、その場の全員がわかる事だった。



「では……10分あげるからその内に決めてね?」



 そして、エルヴィンは自分の腕時計を眺めながら時間を計る。



「ヘッ! こんな事して只で済むと思ってんのか⁈」



 優男の隣、同じく椅子に括り付けられた男が喚き出す。



「お前ごとき、我等が公爵様は簡単に捻り潰せんだよ! 俺達が捕まったと知ればお前は破滅だっ‼︎ 分かったらとっとと俺達を解放しろ‼︎ 今回の事は話さないでおいてやるよ!」



 ギャハハと余裕な笑いを浮かべる男に、エルヴィンは間諜として馬鹿過ぎると嘆息する。



「逃して君が喋らない保証はないだろう? ならココで始末した方が良いんだよ。どうせ、君達は公爵達にとって使い捨ての道具なんだし。私だって、君達の情報にあまり期待していない。はした物だろうけど、一応情報だから聞くだけだ」



 冷めた口調で告げた言葉。しかし、男の馬鹿な口は治らない。



「ヘッ、情報を得て何する気だ? 公爵にでも喧嘩売る気か? そこまで馬鹿なのかお前は?」


「はぁ……もう、いい加減口を閉じてくれ。阿保過ぎで聞くに耐えない」


「チッ、調子付きやがって……何なら俺が扇動の中心役買って出て、()()()捕まえて壊してやりゃあ良かったぜ!」



 その時、エルヴィンの表情が冷え切り、椅子から立ち上がると、場の温度すらも低下させる。



「アレ、お前の妹なんだってな! ありゃあ、良い声で鳴いてくれそうだ……やったりしたら、そりゃあもう、良い感じに……」



 瞬間、俺の口に銃口が突っ込まれると、銃声と共にその顎が撃ち抜かれ、男の顎から血がドバドバと流れ落ちる。



「喋んなっ()ったろうが下衆。耳障りなんだよ……」



 エルヴィンが冷めた瞳で上から男を睨み、その顎を撃ち抜いた拳銃を口から抜いた。



「立場を理解してないらしい……そこで何でテレジアを穢す言葉を吐き連ねるのかな? やっぱお前は馬鹿なのか?」


「オゴ、オゴ……」


「おい、何か答えろよ……」


「オゴ、オゴッ‼︎」


「あ〜っ、舌まで使えなくなったのか。仕方ない……」



 エルヴィンは銃口を男の額に向けると、何の躊躇もなく彼の頭を撃ち抜いた。



「情報を伝えられない伝書鳩なんぞ只の動く肉だよ。存在するだけ邪魔だ……」



 簡単に情報元を殺すエルヴィンに、死んだ男以外の5人は完全に凍り付く。情報を吐く気が無いならこうなる、という彼等への警告になったからだ。


 そして、知りたい情報を握っているから簡単には殺さないだろう。そう高を括っていたらしい5人は、全員が悩み、考え、選択する。



「喋ります! だから殺さないでくれぇえっ!」


「何なら貴方の下で働きますから! 下僕として働きますから‼︎」



 5人の内2人が命乞いを始め、優男を含めた3人は完全に黙り込む。


 3人が律儀に主家への忠誠心を発揮し、2人が命欲しさに主家を裏切ったと見るべきなのだが、エルヴィンは2人へ不快感を示した。



「ハム、どうだい……?」


「嘘ですね。おそらく、口八丁誤魔化し、嘘を教え込んで助かる気です」



 思惑を完全に読まれた2人の表情が真っ青に染まり、エルヴィンはまたニコリと彼等に視線を向ける。



「この兵士ハムはね、嘘を見抜く【看破】のスキルを持っている。心まで読める訳じゃないけど、便利だろう? さて……」



 エルヴィンの2人を見る目の鋭さが増す。



「じゃあ、覚悟は出来てるよね……?」



 エルヴィンが外に控えていた兵士2人を呼ぶと、兵士達は嘘を吐いた2人を椅子ごと引きずり別室へと連れて行った。



「「ギャアアアアアアアアアアアアアアアアッ‼︎」」



 連れて行かれた2人が奏でる悲鳴の合唱。間違いなく、別室でロクでもない扱いを受けている事がわかる。


 最早残った3人の末路も決まっていた。無残な拷問の上での死である。


 3人の表情には明らかに余裕がなくなり、襲い来る恐怖で顔を強張らせた。



「じゃあ、最後だ……自発的に話して生きるか、無理矢理話させられて死ぬか、どっちか選べ」



 エルヴィンから告げられる最終勧告。これを逃したらもう助かる道はない。


 その事実に、優男は吐息を吐くと、観念した様子で告げる。



「分かった、話す……」



 それに、残った他の2人が驚愕し、動揺した。


「お前、馬鹿か⁈ 公爵様に逆らったらどうなるかわかるだろう⁈」


「それに、話しても生かすかは分からん! 全て嘘で殺されるかもしれないんだぞ‼︎」


「だとしても、このまま拷問されて死ぬよりマシだ。なら、一縷(いちる)の生の可能性に賭けるべきだ」



 生にしがみ付いた優男の言葉を、エルヴィンはハムに確認させると、頷き合い、彼の縄を解いた。



「じゃあ、君は私達に付いて来てくれ。他の2人は?」



 エルヴィンは残った2人の間諜へと目を向けるが、彼等は完全に口を閉ざした。このままの拷問より、公爵の方が恐ろしいらしい。



「そうか、残念だ……仕方ない……。ハム、後を頼む……」



 敬礼を此方に向けるハムを背に、ルートヴィッヒと優男と共に部屋を後にしたエルヴィン。


 彼等が去った後、部屋へと入れ替わりに兵士が入り、耳障りな悲鳴が轟いたのは言うまでもない。

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