1-1 軍服の森人
世暦1914年4月23日
太陽が眩しく光る昼時。ゲルマン帝国とブリュメール共和国の国境近くの、森に囲まれた人口200人程度のヴァルト村に、村人らしき人々の姿は無かった。代わりに、銃を持ったゲルマン帝国の兵士達が歩き回り、村の中にはいくつもの軍用テントが張り巡らされている。
正に戦という文字が漂う村。硝煙香る鉄臭い空間だと言えるだろう。
しかし、現在、そんな空間には似つかわしく無い、誰かを探す透き通った綺麗な少女の声が、村中に響き渡っていた。
「大尉、何処ですか⁈」
その少女は、淡いブロンドのセミロングの髪を後ろで縛り、エメラルドの様に綺麗な瞳、そして、とがった耳を持った、18歳ぐらいの美しい森人の少女であった。
その姿は容姿端麗、美しい見た目には清楚さがあり、まだ少し幼げながらも、僅かばかり大人な雰囲気を醸し出している。
やはり、軍人がウヨウヨ居る様な場所には似つかわしくないスレンダーなモデル体型の少女。しかし、彼女の服装は、場に合う存在だと示すゲルマン帝国軍の軍服であり、一兵士と呼ぶにはしっかりとした服で、その上着の襟元には、准尉を示すバッジが付いていた。
軍に於ける准士官、それが彼女の立場だったのだ。
士官に准ずる立場である筈の少女、なのだが、今彼女は、行方をくらませた上官、大尉を先程から探すという一兵士の様な仕事をさせられていた。
「まったく、あの人は……一体、何処に行ったんだか……」
森人の少女は、そう零すと、溜め息も零した。
長い間大尉を探しているのだが、なかなか見付けられず、そろそろ少し疲れてきていたのだ。
見つかる目処も立たず、只、村を歩き回る森人の少女。このままでは埒が開かないと思った彼女は、ダメ元で近くに居た兵士に声を掛ける。
「そこの君……」
「はいっ?」
惚けた返事をした兵士だったが、話し掛けた人物が准尉だと分かると、直ぐに姿勢を正し、礼儀としての敬礼をした。
「はいっ‼︎ 御用件は何でしょうか!」
「大尉、何処にいるか知りませんか?」
「大尉ならあそこのテントで、兵士達とトランプをしております‼︎」
「本当ですか⁉︎」
兵士の返って来るとは思っていなかった答えに驚いた森人の少女だったが、直ぐに呆れた様子で再び溜め息を零し、そして、
「またか……」
頭を抱えながら、そう呟くのだった。
一頻り呆れた森人の少女。彼女は気持ちを取り直し、教えてくれた兵士にお礼を述べると、早速、大尉が居ると思われるテントへと向かった。